タワマンを購入するのはどんな人たちか。金融アナリストの高橋克英さんは「本当の金持ちは、タワマンを終の棲家にしない。
移動の無駄と騒音に耐えてまで暮らすことを『合理的』とは考えないからだ」という――。(第3回)
※本稿は、高橋克英『超富裕層に「おもてなし」はいらない 世界の一流が日本に惹かれる本当の理由』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■リビングに愛車を飾れる次世代の超豪華物件
JR大阪駅北側の「うめきた2期地区」で再開発を進める積水ハウスなどによるタワーマンション「グラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE」は、2024年2月から販売を始めると即完売となった。最上階の1部屋は25億円で分譲され、関西のタワマンで過去最高額を更新する。
「次代の王宮」をテーマにした46階建てタワマンの総戸数484戸のうち、28戸は専用エレベーターによって愛車を部屋まで運び込むことができ、リビングにカーギャラリーを併設するという。
フロリダやシンガポールなど海外の超高級コンドミニアムに匹敵する豪華さだ。東京カンテイによると、20階以上のタワーマンションの累積棟数(竣工ベース)は、2025年12月末時点で1602棟(42万1784戸)と前年比42棟増加で推移しており、2026年には1641棟となるという。
圧倒的な景色、夜景、空間。東京の都心や湾岸のタワマンでは、ベランダから新宿副都心、港区の高層ビル群、東京タワーや東京スカイツリーを望むことができる。窓一面にきらびやかな宝石のように広がる夜景はまさに絶景だ。総戸数が1000戸を上回るような大規模なタワマンでは、豪華な共用施設も売りだ。
■億超え物件を迷わず購入する人々の正体
夜景を眺めながらワインを飲めるバーやレストランにパーティールーム、サウナ付きの広々としたスパやジムに室内プール、複数のゲストルームやキッズルーム、コワーキングスペースなど目白押しだ。

ラウンジにはコンシェルジュが常駐し、ホテルのような至れり尽くせりのサービスを、タワマンに住みながら利用できるのが醍醐味である。立地もタワマンの大きな魅力だ。利便性の高い駅から徒歩5分以内のタワマンが大半であり、ターミナル駅や大型商業施設と地下で直結しているタワマンもある。タワマンはそのものの高さから、エリアのランドマークでもある。
タワマンを購入できるような購買力が高い層が集まることで、飲食店などの集積も進み、タワマンを含むエリア全体の魅力が増すことで、タワマンの資産価値も保たれることになる。
こうしたストロングポイントを持つタワマンを、実際に購入しているのは誰なのか。例えば、東京都心の1億~3億円を超えるような超高額物件を購入する層は、当たり前ではあるが富裕層である。都内の富裕層に加え、地方の富裕層がセカンドハウスとして、またアジアの華僑など外国人が投資目的で購入するケースも増えている。
■夢のタワマン生活と厳しい住み心地の現実
富裕層のなかでも、開業医や自営業者、IT関連や不動産関係者などが多く、立地などにもよるが、購入目的は、セカンドハウスや投資用と自宅用が半々のイメージだったりする。もっとも、全国に広がる全てのタワマンが1億円以上の価格で、富裕層が所有を独占しているワケではない。
豪華さや値段の高さが話題になりがちだが、実際のタワマン物件は価格も設備も様々だ。総戸数が多く賃貸物件もあるため、中古市場でも多くの物件が売買されている。
ペントハウスなどを除けば、首都圏近郊や地方の物件に加え、都心部や湾岸部の中古物件などでは、1億円未満の物件も数多く存在している。
こうしたタワマン物件では、本書で想定するような富裕層ではなく、大企業や外資系企業のサラリーマン層や、世帯年収1500万円以上のパワーカップルや共働き世帯、土地持ち貯蓄持ちのシニア層なども多い。
なお、国土交通省の調査によると、2025年1~6月に東京都内のタワマンを含む新築マンションを取得した人のうち、海外に住所がある人の割合は3.0%、大阪府では2.6%、京都府は2.3%だったという。
豪華できらびやかなイメージのタワマンにもデメリットはある。例えば、建物全体の荷重負担の軽減のため、軽い素材を利用するため、隣接する部屋からの生活音や話し声に加え、強風時の「風切り音」、駅直結マンションでは電車の音による騒音なども問題になる。
■駅近なのに玄関から徒歩15分の謎
ドラマの題材やSNSの論争のタネにも度々上がる、タワマン高層階の住民が低層階の住民を見下すマウンティングや、管理組合のゴタゴタがある場合もあり、それなりの人付き合いは免れない。
細かい話かもしれないが、タワマンの場合、朝の出勤時などにエレベーターがなかなか来ずに行列ができて渋滞する、一旦エレベーターを乗り換える必要がある、更に、地下の駐車場まで行かないといけないなど、自分の部屋から外に出るまで、それこそ10分以上時間がかかったりする。駅至近なのに、実質徒歩15分だったりするのだ。これが毎日のことだと相当のストレスだ。
更に深刻なのは、地震や台風などで電力供給が途絶えることで、エレベーターやトイレなどが使えなくなり、ライフラインが止まってしまうリスクだ。2019年10月の台風による浸水で、川崎市・武蔵小杉のあるタワーマンションでは、電気も水道もエレベーターも使えなくなり、全て元に戻るまでに1カ月近くかかった。
タワマンは、高級住宅地の土地付き戸建てを代々受け継ぎ暮らすのとは違い、最終的な「出口戦略」が不透明だという根本的な問題もある。
タワマンだけでなく、我が国のマンション全体にいえることであるが、これから何十年後か十数年後かに経年劣化が進んだ際に、最終的に建て替えるのか、取り壊すのかの選択を迫られることになる。
■老朽化タワマンの恐ろしい末路
いずれの場合も現行法では、区分所有者の5分の4の賛成が必要となり、概して多額の所有者負担金が追加で求められることになる。タワマンのような大規模マンションになればなるほど、区分所有者の80%もの賛同を得るのは、事実上不可能だ。
築年数が経過すればするほど、大規模な修繕なども頻繁に必要となり、かつ、所有者も代替わりを重ね、所有者不明や音信不通になったりするケースも増えてくる。最近増えている海外所有者への連絡はなお困難を伴うことになる。
管理組合が主体となり、こうした所有者全員と連絡をとりながら、建て替えプランや費用負担などを決めていくのは気の遠くなるような作業が必要だ。
2020年7月から、JR三ノ宮駅周辺での住宅の新築を禁止するなどタワマン規制を導入する神戸市の、「高層タワーマンションは数十年で廃墟化する可能性がある。目先の人口を増やすのではなく、長い目で持続可能な開発を目指す」(久元喜造神戸市長、2023年10月12日会見)との発言も、タワマンの「出口戦略」の難しさを踏まえたものといえよう。
■金持ちは豪華な共用施設より静寂を買う
筆者の経験則からいえる富裕層の特徴として、①煩わしいのはいや、②わざわざリスクを取らない、③時間泥棒が大嫌い、といった点が挙げられる。
圧倒的な眺望や駅から近い利便性に豪華な共用施設がある一方、自分の部屋から外に出るまで時間がかかり、騒音や人付き合いの煩わしさ、地震や台風などで電力供給が止まった時のリスク、そして何より「出口戦略」がない、という側面もあるタワマン。
煩わしさがいやで、リスクに敏感で、時間を大切にするという特徴を一般の人々以上に強く持つ富裕層と、タワマンの相性はあまり良くなく、多くの富裕層がタワマンに興味を示さない理由である。
もともと居住目的でない、短期的なキャピタルゲイン狙いと割り切って投資対象にすることはあるだろう。
相続税対策、好奇心と話題作りと経験のため、セカンドハウスや上京する子息や子女のためなど、有り余る資産で買ってみたというケースも考えられる。
だが終(つい)の棲家としてタワマンをわざわざ選ぶことは、それほど多くないのかもしれない。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)

株式会社マリブジャパン 代表取締役

金融アナリスト、事業構想大学院大学 特任教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)、『超富裕層に「おもてなし」はいらない』(講談社)など多数。


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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)
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