■縄文時代からクジラを食べてきた日本人
日本の捕鯨の歴史は古く、縄文時代にまでさかのぼる。各地の遺跡からクジラやイルカの遺跡が発見されており、食料だけでなく、骨を利用した土器や石器もたくさん出土している。江戸時代には「鯨組」という捕鯨集団により、組織的な捕鯨が行われていたそうだ。
昭和に入ると日本の捕鯨は最盛期を迎え、南極海での船団による母船式捕鯨により、大型鯨類のシロナガスクジラやナガスクジラを捕獲。沿岸では北海道や宮城県、千葉県、和歌山県などでツチクジラやミンククジラなどの捕鯨が行われ、ピークとなった1962年には鯨類生産量が約22万6000トンに達した。
近年、日本のクロマグロやメバチマグロ、キハダマグロなど、冷凍や生を合わせたマグロ類生産量が、約12万3000トン(農林水産省「令和6年海面漁業・養殖業生産量」より)だから、それをはるかに上回る「クジラ大漁」時代の到来だった。
戦後の食糧難の時代には鯨肉は牛肉や豚肉、鶏肉以上に食べられ、貴重なタンパク源として日本人の食生活を支えた。給食でも竜田揚げやベーコンなどが供されるほどの大衆食だった。
■反捕鯨派との溝が埋まらず脱退
ところがこの後、しばらくして捕鯨を巡る状況は一変する。世界的な海洋資源保護の潮流や、それに伴う欧米をはじめとした反捕鯨論の高まりにより、「鯨資源の適当な保存と捕鯨産業の秩序ある発展」を掲げて設立されたはずの国際捕鯨委員会(IWC)で1982年、商業捕鯨モラトリアム(一時停止)が採択された。
日本は「科学的根拠に欠ける」と異議申し立てを行ったが叶わず、調査捕鯨に転換。鯨肉の生産量は大幅に減少し、1989年には1000トンにまで急減したことで多くのスーパーから姿を消し、なじみ薄の食材となっていった。
適切な資源管理へ向けた調査捕鯨を継続しつつ、日本は商業捕鯨再開の道を粘り強く探ったが、「一頭たりとも捕らせない」という反捕鯨派との溝は埋まらなかった。
最終的に、「IWCにおいて鯨類および捕鯨に対する異なる2つの立場が共存する可能性がないことが明確化した」(水産庁)として、2019年6月末にIWCを脱退。同年、日本は領海と排他的経済水域(EEZ)で、資源評価に基づいて商業捕鯨を再開した。
その後はミンククジラやニタリクジラ、イワシクジラの捕獲に加え、2024年からは大型鯨類のナガスクジラも捕獲枠を新設し、年間で合計三百数十頭の鯨類を捕っている。
IWCの規制下にはないものの、日本の商業捕鯨は過去にIWCで採択された改定管理方式(RMP)を採用しながら、「100年間、毎年その頭数を捕獲しても、クジラの資源量は減らないレベルで設定している」と水産庁国際課の捕鯨室は説明する。
商業捕鯨の再開からまもなく7年がたとうとしている。だが、鯨肉の生産・流通量は今でも2000トンほどと、昭和期と比べるまでもないほど少ない。今やすっかり高級品と化し、若者では「食べたことがない」という人のほうが多いだろう。今後も専門店などでしか味わえない遠い存在のままなのか――と思いきや、今年に入って思わぬ情報を耳にした。
■大手スーパーが20年ぶりにクジラベーコン販売
国内最大の鯨類生産を担う捕鯨会社・共同船舶(東京)の高野雄介営業部長が、同社主催の鯨肉商品PRのイベント会場で筆者に「今年から大手スーパーでも売り始めましたよ。風向きが変わってきたようです」と教えてくれた。
さっそく取材してみると、まず、ある大手スーパーでは、今年から都内多くの店舗で、およそ20年ぶりにクジラベーコンの販売を開始している。
クジラベーコンは、脂がある皮の部分を塩漬けしたもので、一部を赤く着色している。薄切りしてあるが甘みと旨味が強く、ポン酢やワサビ醤油などで酒のつまみとして人気がある。チャーハンやサラダに入れて食べてもおいしいため、若者受けもしそうな食材だ。
■寿司コーナーに並ぶ「3種8個セット」
一方、東京都や埼玉県などで店舗を展開する東武ストアは、ミンククジラの刺し身に加え、今年からナガスクジラを使った握り寿司の販売を開始した。3月上旬からは、約30店舗に扱いを拡大し、次第に販売を増やしている。
埼玉県朝霞市の店舗では、馬肉にも似て柔らかいミンククジラの赤身やベーコンのほか、ヒレや皮を薄切りにして湯がいた「さらし鯨」が並んでいた。このほか、寿司コーナーには、通常の魚介ネタと並んで、鯨肉をネタにした握り寿司の新商品パックが多数販売されていた。
ナガスクジラの畝須(うねす)(クジラの下あごから腹にかけての部位)や、エンガワ(本皮)、赤身、それぞれ部位別5個セットのほか、3種8個入りのセットは880円(税抜き)で、マグロやイクラなど定番の魚介握りよりも低価格とあって、リピーターも多いという。
3種8個入りのほうはパッケージにもこだわり、下皿は青色を基調に、透明な蓋の部分には潮を噴き上げるクジラがかわいく描かれている。子供受けしそうな、親しみやすさが感じられる。
握りに使われているナガスクジラは「クジラの王様」とも呼ばれ、畝須の刺し身はコリコリとした食感で甘みがある。
同店の鮮魚売り場の主任によると、今年から始まったクジラのすしは、「年配者から若者まで幅広い年齢層に好評で、1日に数十パックが売れる」と手応え十分。魚介の寿司と合わせて買っていく客もいて、早くも人気上昇中だ。
■安定して確保できる魚種は今や貴重
こうした動きはスーパー業界の外にも波及する可能性がある。大手回転寿司チェーンの仕入れ担当者は、「世界的に水産物価格が高騰している中、スーパーでの販売動向を注視しながら、扱いを検討していきたい」と前向きな姿勢をみせている。
鯨肉販売への注目が高まる背景には、捕鯨会社であり鯨肉流通も担う共同船舶の営業力もあるが、海洋環境の変化に伴い、魚業界ではサンマやサケ、イカをはじめ多くの魚種が不漁・高値に見舞われていることが要因に挙げられる。
さらに、スーパーや回転寿司で多く扱われる輸入の冷凍魚は、海外での魚需要の高まりや、円安の影響による「買い負け」が一層顕著になっている。そこで、国産の海産物で、比較的安定した価格で確保できる鯨肉に熱い視線が注がれるようになったというわけだ。
大手スーパーの鮮魚担当を長年務めてきた水産アドバイザーによると、「クジラの刺し身は100グラム当たり398円で店頭に並べても利益が出る。これは例えばマグロの刺し身やブリの切り身など、人気商材と同じレベル。今後も供給サイドからの鯨肉への注目度は高まっていくだろう」と、クジラ大衆化の可能性を示唆している。
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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)

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