日本企業やそこで働く人が直面している課題は何か。元Googleの人材開発責任者で起業家のピョートル・フェリクス・グジバチさんは「欧米企業の上司が自ら目標を設定するのに対して、日本企業の場合は、そもそも目標設定の権限が与えられていないケースが少なくない。
これではいざ目標設定の局面になると、回避する心理が働いてしまう」という――。
※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■上司に問われるのは「目標設定能力」の有無
プロフェッショナルという視点で上司の在り方を考えるならば、上司にとって最も重要なビジネススキルは、「目標設定能力」だといえます。
目標設定能力とは、会社が求める成果を、チームや部下が迷わず判断し、行動できる形に翻訳する力です。
目標は単に上司の理想像を示すものではなく、達成する目的(Why)が明確で、何をやるか(What)、いつまでにやるか(When)、どのようにやるか(How)といった道筋が実現可能なものでなければ意味がありません。
進むべき道筋がきちんと示されていれば、取るべき行動が明確になり、部下が判断に迷って迷路にはまり込むリスクを避けることができます。
ビジネスの現場で広く使われている「SMARTゴール」の考え方は、この問題を回避するための極めて実践的なフレームワークです。
SMARTとは、目標が適切な条件を満たしているかを確認するための5つの視点を指します。
① Specific(具体的)行動レベルが明確になっている

② Measurable(測定可能)達成・未達を判断できる基準がある

③ Achievable(達成可能)現実的で努力すれば届く水準にある

④ Relevant(関連性)会社やチームのゴールと整合性がある

⑤ Time-bound(期限)いつまでにやるかが決まっている
SMARTという手法が有効なのは、目標に含まれる曖昧さを意図的に削ぎ落とす機能を持っているからです。
■部下を育てる世界水準のマネジメントの本質
適切に設定された目標は、抽象的な期待を具体的な判断基準へと変換し、部下の行動を力強く前に進めます。
評価の軸が共有されることで、組織内の公平性が保たれ、チーム全体のパフォーマンスが底上げされます。
欧米企業やグローバル企業で成果を出し続ける上司は、戦略、現場、人材という複数の視点から見て、妥当な目標を設定する能力に長けています。

彼らは単に結果を求めるだけでなく、「どのような判断が現場で求められているのか?」を明確化することで部下を育てており、これが世界水準のマネジメントの本質ということができます。
欧米企業の上司が自ら目標を設定するのに対して、日本企業の場合は、そもそも目標設定の権限が与えられていないケースが少なくありません。
大企業であれば、経営企画部が各チームの目標を設定し、中小企業ならば、社長や経営幹部から有無を言わせない目標が降りてきます。
多くの日本企業では、目標を自律的に「設計する」ことよりも、上層部から与えられた目標をいかに「達成するか」という点に重心が置かれています。
こうした環境に慣れてしまうと、どんなに優秀な上司であっても、それを「当然のこと」と受け入れるようになり、次第に何の疑問も持たなくなるようです。
■思わず絶句した日本人の部門長の言葉
僕が遭遇した日本人上司のエピソードを紹介します。
ある外資系企業のコンサルティング案件で、僕はその地域を統括する外国人駐在員の責任者と日本人の部門長と一緒に、チーム運営の課題について議論していました。
日本人の部門長の口から、「ウチの会社には経営企画部がないから、我われはどうしたらいいかわからないんです」という愚痴というか、不満が飛び出したのです。
その言葉を聞いた瞬間、外国人責任者と僕は思わず絶句しました。
外資系企業では、マネジャー自らが担当部門の目標を設定することが大前提とされていますが、日本人の部門長は「目標が上から降りてこない」という状況に対して、強い不安を抱いていたのです。
■現在の日本企業が直面する極めて深刻な課題
この反応は、本人の能力不足が原因ではありません。
長年にわたって、「目標は与えられるもの」という環境でキャリアを重ねてきたため、自ら目標を立てて、その結果に責任を負う……という行為が、許容範囲を超えた過度なリスクとして感じられるようになっていたのです。

そのポジションに就いているのは、高い業務遂行能力が認められた結果です。
それほど優秀な人材であっても、いざ目標設定の局面になると、その権限を誰かに委ねたいという心理が働いてしまうのです。
自律的な目標設定を回避して、外部からの指示を求めてしまう構造こそが、現在の日本企業が直面している極めて深刻な課題であるといえます。

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ピョートル・フェリクス・グジバチ(ぴょーとる・ふぇりくす・ぐじばち)

プロノイア・グループ代表

TimeLeap取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAYWORK』(PHP研究所)など著書多数。

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(プロノイア・グループ代表 ピョートル・フェリクス・グジバチ)
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