※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■部下を成長に導く「4ステップ」の質問
部下を成長させるための問いかけには、「目標設定」「現状把握」「選択肢の検討」「意思決定」という4つのステップがあります。
ここで紹介するフレームワークは、それぞれの英語の頭文字を取って、「GROW」(英語で「育つ」の意味)モデルと呼ばれています。
このモデルは、部下自身に目標を設定させ、達成までのプロセスを自らの頭で考えさせることで、主体的な思考を促すことを目的としています。
主体性を引き出す上では上司による「問いかけ」が重要な役割を担い、4つの段階すべてにおいて部下が常によい判断を下せるよう質問を繰り返します。
この手法は、単なる指示や助言ではなく、部下の思考を自立させるための「判断のワークフロー」として機能します。
■「やらされ仕事」から「自分の仕事」へ
具体的には、次の手順に従って、部下に質問を投げかけていきます。
【ステップ①】「Goal」(目標設定)
意味のある目標を作る質問
目標設定の本来の目的は、部下を管理したり統制したりすることではありません。
組織や個人が進むべき方向性を示すことが、本来の役割です。
優れた上司は、一方的に目標を押し付けるのではなく、部下自身が納得感のある目標を言葉にできるよう、適切な問いかけを行います。
部下が自分の言葉で語る目標は、受動的な「やらされ仕事」を、主体的な「自分の仕事」へと変えていく力を持っています。
上司は、具体的な対話を通じて以下の要素を明らかにしていきます。
①5年後にどんな状態になっていたいですか?
②なぜ、その目標を達成したいのですか?
③何をもって達成と考えますか?
④目標達成は何をもたらしますか?
⑤達成できる確率は何%ですか?
まず5年後にどのような状態になっていたいかを部下に問い、中長期的なビジョンを描かせます。
次になぜその目標を達成したいのかという内発的な動機を掘り下げて、何をもって目標を達成したと見なすのかという判定基準を明確に定義させます。
その目標達成が自身や周囲にどのような価値をもたらすのかを具体化させた上で、現時点で達成できる確率が何パーセントであるかを部下自身の感覚で提示させて、実現可能性を検証します。
■優先順位を判断するのは人間にしかできない
【ステップ②】「Reality」(現状把握)
現状認識と問題点を確認する質問
次に必要なのは、冷静に現状を認識することです。
多くの上司は、現状を十分に把握しないまま即座に解決策を提示しようとしますが、世界の一流の上司は対策を講じる前に必ず一度立ち止まります。
AIは客観的なデータを提示できますが、「何が重要か?」という優先順位を判断するのは人間にしかできない役割です。
この現状を直視するステップを積み重ねることは、リーダーとしての判断力を鍛える訓練にもなります。
①現在、目標の何%まで進んでいますか?
②目標達成のために、どんな行動をしていますか?
③何か問題に直面していますか?
④問題が起こっている原因は何ですか?
⑤どんなリソースがあれば目標に届きますか?
具体的な現状把握においては、まず目標に対して現在何パーセントまで進捗しているかを正確に確認して、その目標を達成するために現在はどのような行動をとっているのかを整理します。
その次に、進行を妨げている問題の有無を明確にし、その問題が発生している根本的な原因を特定し、目標に到達するためにどのようなリソースが不足しているのかを洗い出します。
■すぐに答えを与えず、部下の判断力を養う
【ステップ③】「Option」(選択肢の検討)
他の可能性を探る質問
ここでの目的は、最善策を即決することではなく、選択肢の幅を広げることです。
上司としては、ついアドバイスをしたくなる場面ですが、すぐに答えを与えてしまうと、部下は自ら考えることをやめてしまいます。
あえて複数の選択肢を考えさせるプロセスが、部下の判断力を養います。
①試してみたい方法はありますか?
②どんなスキルがあれば、目標を達成できますか?
③どんなサポートがあれば目標に届きますか?
④他の人なら、どんな方法を選ぶと思いますか?
⑤目標達成のために、他にできることはありますか?
まずは、部下自身が試してみたいと考えている具体的な方法を問いかけます。
次に目標を達成するためにどのようなスキルを習得すべきかを確認して、周囲からどのようなサポートがあれば目標に届くのかを明確にさせます。
自分以外の視点を取り入れるためには、「他の人なら、どのような方法を選ぶか?」を想像させることも有効です。
目標達成のために、他にできることはないかを検討して、考えに漏れがないかを確認します。
■責任を背後から支える「アンカー」として機能
【ステップ④】「Will」(意思決定)
具体的な行動計画を確認する質問
最後は、行動へのコミットメントを確立します。
ここで上司が担う役割は、部下の行動を細かく監視することではなく、本人の責任を背後から支える「アンカー」として機能することです。
①まず何から始めますか?
②どのように行動する予定ですか?
③誰かにフォローを頼みますか?
④計画通りに進められそうですか?
⑤進捗状況はいつ報告してくれますか?
ここでは、「まず何から着手するのか?」という初動を明確にします。
その次には、「どのような手順や方法で行動する予定なのか?」という具体的な実行プロセスを問いかけます。
その際には、自分一人で進められるのか、周囲の誰かにフォローを依頼するのかについて確認することで、計画が滞りなく進められそうか、実現可能性についての見通しを本人に立てさせ、「進捗状況をいつ報告するのか?」という期限を約束することで、確実な実行へとつなげます。
■仕事の論理や考え方を設計する存在へ
ここで紹介したGROWモデルを継続的に活用することは、チームに3つの変化を同時にもたらします。
部下は指示を待つ姿勢を改め、自律的に思考し行動するようになります。
これに伴って、個々の現場に判断が分散されるため、上司が抱えていた過度な業務負荷が軽減されます。
人間による意思決定とAIのサポートが、現場のオペレーションの中で自然に調和するようになります。
こうした変化を通じて、上司の役割は自ら実務を担う「実行者」から、仕事の論理や考え方を設計する存在へと進化します。
1on1ミーティングで対話の進め方に悩む上司にとっても、このモデルは確かな思考の型として機能し、面談の質を安定させます。
人を統制することに主眼を置いた時代は、すでに終わりを迎えつつあります。
これからの上司には、部下の行動を細かく管理するのではなく、思考のプロセスや判断の仕組みを設計することが求められているのです。
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ピョートル・フェリクス・グジバチ(ぴょーとる・ふぇりくす・ぐじばち)
プロノイア・グループ代表
TimeLeap取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。
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(プロノイア・グループ代表 ピョートル・フェリクス・グジバチ)

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