健康寿命を延ばすには、どんなことに気を付ければいいのか。医師の玉谷実智夫さんの書籍『医学的に正しい健康長寿365日』(自由国民社)より、百寿者の共通点を紹介する――。
(第4回)
■アメリカの研究で分かった「長寿の条件」
100歳を超えた人のことを、百寿者といいます。その人たちにはある共通点があることを知っていますか?
それは、インスリンです。
糖を細胞に取り込むホルモンである「インスリン」の血中濃度が低いという共通点があるのです。
アメリカのボルチモアで65歳以上の男性を対象に、25年間行われた研究があります。それによれば、100歳を超える人が多い地域ではインスリンの濃度が低く、糖尿病が少ないこともわかっています。
インスリンといえば、糖尿病とセットで語られることが多いものでした。インスリンの効きが悪いと糖が細胞の中に入れず、血中に糖が溢れます。それが糖尿病の名前の由来です。
しかしインスリンの大切さは、糖尿病だけに限りません。インスリンが細胞の受容体にくっつくことで、さまざまな連鎖が起こります。その流れの中で長寿や老いに関わるセンサーが刺激を受けるのです。
この一連の流れをインスリンシグナル伝達系といますが、これが不老長寿の鍵と言えます。

糖尿病の話によく出てくるインスリン。でも今一つよくわからない、という人も多いのではないでしょうか。
インスリンとは平たく言えば、「鍵」のようなものです。
細胞にはドアがあって、インスリンという鍵が差し込まれることで開き、ブドウ糖が細胞の中に入っていくことができます。中に入ったブドウ糖は主にミトコンドリアの中でエネルギーを生みだすために使われます。
■インスリンは「エネルギーの鍵」
つまりインスリンは「エネルギーの鍵」なのです。
もし鍵を差し込んでもドアが開かなかったら大変です。ブドウ糖が細胞の中に入れないと、エネルギーが不足します。そして細胞だけでなく臓器、やがて全身の機能が落ちてきます。
またドアが開かないことで、ブドウ糖は血液の中に残ったままになります。血管や臓器にダメージを与え、目や腎臓、神経などの機能が落ちてきます。こうした症状が、いわゆる「糖尿病」と言われるものです。

インスリンは「エネルギーの鍵」。わかりやすく、そう覚えておきましょう。
「なんとなく元気がでない…」
そんな日もありますよね。
でもあまりに長く続くようなら、インスリンの効きが悪くなっているのかもしれません。
インスリンは「エネルギーの鍵」のようなもの。
ブドウ糖を細胞内に取り込み、エネルギーを生みだす回路に送りだします。
もしインスリンの効きが悪いとエネルギーが不足しますから、身体は優先順序をつけてエネルギーを分配することになります。
もっとも優先されるのは脳で、その中でも生存に欠かせない中心部の「脳幹」が最優先。
逆に言えば、脳以外の臓器はエネルギーが後回しになります。脳幹以外の脳も同様です。
身体や脳を動かすエネルギーが不足すれば、元気がなくなるのは当然ですね。血糖値が極端に上下してしまうとインスリンの効きが悪くなっていきます。

日頃の食事では糖質を少なめにして、血糖値が上がり過ぎないようにしましょう。
また食事の間隔が空きすぎると血糖値が下がりますから、補食で糖質を摂るのもおすすめです。
■「お腹まわりが太い人」は気を付けたほうがいい
ひと口に「太っている」といっても、実はその種類には違いがあります。
男性に多いのは、お腹まわりが太くなってくるタイプです。
これは内臓脂肪型肥満といって、内臓周辺や横隔膜より下のお腹の内側に脂肪がつきます。
女性に多いのは、お尻や太ももが太くなってくるタイプ。内臓ではなく、皮下に脂肪がついてきます。
長寿のキーワード「インスリン」との関係でいえば、どちらかというと内臓脂肪型のほうが問題になりやすいです。
というのも、こちらのタイプのほうが、よりインスリンの効きを悪くするため、糖尿病になりやすいからです。
脂肪から出るアディポカインという物質が、インスリンの働きを妨げてしまいます。
同じ肥満でも、長寿に与える悪影響には違いがあるのですね。中高年男性の方は、ぜひ気に留めておいてください。

インスリンは糖を取り込む以外にも、大切な働きをもつホルモンです。
もしインスリン抵抗性が高まって効きが悪くなると、次のような症状が出てきます。
・脂肪が増え太りやすくなる

・便秘をしやすくなる

・なかなか疲れが抜けなくなる

・血圧が高くなる

・気分が落ち込みがちになる

・記憶力が低下する
■インスリンが長生きの秘訣
なぜこのように広範囲な悪影響があるのかというと、インスリンには活性酸素を抑えたり、血圧を下げたり、血栓が出来にくいようにする働きがあるからです。
もし不調が歳のせいだと思っていても、実は血糖値が乱高下する食生活によって、インスリンの効きが悪くなっているのかもしれません。
日々の食事を見直し、糖質を取りすぎないようにしたいものです。
インスリンというと糖尿病との関連ばかりが注目されがちですが、もっと多くの人に気にかけてほしいと思います。
不老長寿の話になると、さまざまなキーワードが出てきます。
身体を浄化する「オートファジー」や、長寿遺伝子「サーチュイン」。あるいは命の回数券といわれる「テロメア」や、超善玉ホルモンといわれる「アディポネクチン」などなどです。
これらのキーワードは実は、たった1つのことに深く関係している、と言ったら驚くでしょうか?
その1つのこととは、「インスリン」です。
インスリンはドミノ倒しによって、不老長寿のさまざまなしくみを働かせる起点なのです。
インスリンが細胞の受容体にくっつくと、細胞内でリン酸化という、たんぱく質を変形させる指示がでて、それは次々と連鎖していきます。
その過程で、オートファジーやサーチュインが活性化されます。
またアディポネクチンにはインスリンを助ける働きがありますし、テロメアが短くなると、インスリン抵抗性が高まる、という関係もあります。
インスリンと上手に付き合うことが、長生きの秘訣なのです。
■糖尿病は健康寿命を縮める
糖尿病は、さまざまな合併症のリスクがあるだけでなく、健康寿命にも悪影響があることで知られています。
たとえば網膜症や腎症、神経障害などの合併症。あるいは脳血管障害や動脈の疾患などが起こると、介護が必要になる可能性も大幅に上がります。
さらには認知症やがんも糖尿病によって起こりやすく、これらも健康寿命を縮めることにつながってきます。
しかし、悲観ばかりしている必要はありません。
なぜなら適切な治療をすれば、健常者と変わらない寿命をまっとうすることも可能だからです。
私のクリニックには、重度の糖尿病の方や若くして糖尿病になった人など、多くの患者さんが訪れます。
ですが熱心に治療に取り組めば、健康な人と変わらない日常生活を送れるようになる方もたくさんいるのです。
そのポイントはやはり、生活習慣。

食事と運動を基本として、必要に応じて薬も利用すれば、血糖値を適切な範囲に維持できます。
一度糖尿病と診断されても、健康寿命を縮めずに済むことも可能なのです。糖尿病になっても、いや、なったからこそ、ご長寿生活習慣を実践してほしいと思います。

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玉谷 実智夫(たまたに・みちお)

医師・玉谷クリニック院長

1960年、兵庫県生まれ。京都大学薬学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院、東大阪市立病院(現 東大阪市立総合病院)で研修した後、最先端医療を学ぶためアメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学。帰国後、大阪大学で循環器・糖尿病・脳梗塞・老年病の研究に従事し、博士号を取得。最高権威の「ネイチャー メディシン」はじめ、医療ジャーナルに論文が数々掲載される。2008年に玉谷クリニックを開院。「東淀川区のかかりつけ医」として、高血圧・糖尿病・脂質異常症などで苦しむ10万人以上の患者を診断してきた。健康セミナーやテレビ、YouTubeなどでの発信も行うなど、地域の健康増進に努めている。著書に、『“世界一わかりやすい”最新糖尿病対策』(時事通信社、2021年)、『血糖値がどんどん下がる1分早歩き』(自由国民社、2022年)、『糖尿病の名医が「血糖値」よりも大切にしていること』(サンマーク出版、2022年)などがある。

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(医師・玉谷クリニック院長 玉谷 実智夫)
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