外国人客が「世界最高の雪」と絶賛する北海道・ニセコ。雪に魅せられた外国人マネーが押し寄せた結果、5年で地価は70%高騰し、地元住民は自分たちの生活圏から追い出されつつある。
観光客が急増する白馬では騒音や迷惑行為に罰金5万円を科す条例が施行され、妙高では冬だけ灯りがともる温泉街が出現した。日本のスキーリゾートで何が起きているのか。その動向に海外メディアが注目している――。
■世界から注目を集める日本のパウダースノー
「世界最高の雪だ」
オーストラリアから来た29歳の観光客ギデオン・マスターズさんは、北海道ニセコのゲレンデの麓でスノーボードを手に、AFP通信にそう語った。「ふわふわのパウダースノーだし、素手でつかんでも冷たさすら感じない」と絶賛する。
だが、この粉雪に魅せられて世界中から人とカネが押し寄せた結果、地元の暮らしは一変した。
リゾートエリアのひとつ、比羅夫(ひらふ)。2020年からのわずか5年で、地価は70%急騰している。
町のスーパーの棚には、いまやウニやドン・ペリニヨンが並ぶ。高級食材が増えただけなら喜ばしいとも言えるが、実際には野菜など毎日必要な食材までが軒並み値上がりし、物価高に耐えかねて隣町まで買い出しに走る住民もいる。
物価上昇は食品だけではなく、土地を買うことも困難にした。地元で塗装会社を営む42歳男性はAFP通信の取材に、「地元の人にはもはや手の届かない値段で売られている」と嘆く。

ニセコ周辺の中核都市・倶知安町には、冬季になると70カ国から約3000人が押し寄せ、町の人口の約2割を占めるに至る。
昨今の円安も、状況に拍車をかけている。東京の高級不動産会社のハウジング・ジャパンは、円相場が2021年の1ドル約110円から150~160円台まで下落しており、外国人投資家の実質的な購買力は約27%向上したと分析する。
■外国人に日本の土地が買われている
日本ほど通貨安で土地が割安となっており、かつ外国人の不動産取得に制限がない国は、先進国ではめずらしい。結果として、海外マネーによる土地の購入が進む。
押し寄せる海外客をターゲットとした結果、物価が押し上げられ、続いて地価も高騰。やがて地元住民たちは自分たちのものであったはずの生活圏から追い出されていく。
ニセコで確立されたこの構図は、「ニセコ化」とでも呼ぶべきパターンだ。白馬や妙高といった本州の山岳リゾートにも、同じ構図が広がり始めている。
米ビジネスニュース専門局のCNBCは日本政府観光局のデータをもとに、2024年12月から2025年2月に日本を訪れた外国人旅行者は1050万人にのぼり、コロナ禍前の同時期を33%上回ったと報じた。
スキーリゾートに絞れば、外国人観光客数はさらに急激に増えている。外国人スキー客の数は2023年冬にすでにコロナ禍前を超えていたが、今冬はそこからさらに50%増え、過去最多記録を塗り替えた。
冒頭のマスターズさんさえ、「でも、これほど人で溢れかえってしまったのは残念だ」と嘆くほどだ。
国籍別では、南半球に位置するオーストラリアが約30%で最多だ。現地が夏の期間、赤道を越えればパウダースノーが待っていることから、日本旅行の人気は高い。続いてアメリカが約20%、東南アジアが約15%と続いている。
■激減した日本人スキーヤー
外国人スキーヤーは1日あたり平均で国内スキーヤーの3倍超の金額を消費しており、その経済的存在感は大きい。
スキーリゾート地としては、こうした海外客に依存する構図が広がる。国内スキーヤーが減少する一方だからだ。
CNBCは、ブーム全盛期の1993年に1860万人を数えた日本のスキー・スノーボード人口が、2023年にはわずか460万人にまで落ち込んだと分析。実にスキーファンの4人に3人がゲレンデを去った。
少子高齢化の影響で若い世代がゲレンデから遠のいたことに加え、気軽に訪れられるゲレンデ自体も減っている。1985年に1669カ所あったスキー場は、2021年時点で449カ所しか残っていない。
こうして今、スキー客の主軸は外国人へと移りつつある。
そしてその訪問先は、特定のリゾートに極端に集中している。
CNBCが報じた決済大手ビザの分析によると、昨シーズンには海外スキー客のほぼ半数がニセコ一カ所に集まった。訪日外国人旅行者による消費額で見ても、冬のピーク時にはその過半数がニセコに集中している。
ビザによれば、中国本土の旅行者も積極的に日本のゲレンデを訪れているという。スキー旅行先として、一昨年まで首位だったアメリカに代わり、昨シーズンは日本が最も多くの旅行者に選ばれた。
■白馬村が決断した「騒いだら罰金」の条例
旅行客の増加は経済面では日本全体にとって好ましいニュースではあるものの、その裏側で、地元はマナーや文化摩擦の問題に悩まされている。
急増する外国人観光客への対策として、長野県白馬村は罰金・罰則条項付きの「白馬村マナー条例(正式名称:美しい村と快適な生活環境を守る条例)」の制定に踏み切った。泥酔した外国人観光客の迷惑行為に住民が不満を募らせたのを機に、丸山俊郎村長が新たな罰則の導入を決めた。
この動きはCNNなど海外でも伝えられている。対象は騒音の禁止や、深夜の花火の禁止など。8つの行為を対象に今年7月から、村の中止命令に従わない場合、5万円以下の罰金が適用される。
白馬村は10年前にも同種の禁止条例を設けている。
だが罰則規定がなく、有名無実だった。今回は地元事業者から切実な陳情を受け、罰金付きの条例に踏み込んだ。
客離れを招くリスクはないのか。丸山氏は、「そういう方々が他の場所に移るのなら、それはそれで悪いことではない」と言い切る。
罰則を強化せざるを得ない背景に、客層の劇的な変化がある。
2025年に白馬を訪れたスキー客は、106万4000人。ピークだった1992年には278万5000人が訪れ、来訪者のほぼ全員が日本人だったと丸山村長は振り返る。スキー客の総数は30年余りで約4割にまで縮小した。
客が減った一方で、問題は増えた。日本人から外国人へと客層が入れ替わったことで、住民は生活習慣の違いからくる新たな摩擦に直面している。海外客全員のマナーが悪いというわけではないが、バケーションで訪れる性質上、ハメを外す衝動に駆られることもあるだろう。
海外客の急増に伴い、安全面にも問題が生じている。
今シーズン、北海道のバックカントリー(スキー場の管理区域外の自然地形)で救助を要した人の80%以上が外国人スキーヤーだったことが、日本側当局の発表で明らかになっている。
■冬だけ賑わう温泉街
高原リゾートとして知られる妙高にも、混乱は広がった。
新潟県妙高市の赤倉地区は、200年の歴史をもつ温泉街だ。ここでは冬と夏で、町がまるで別の姿になる。
赤倉では近年、外国人による買収が相次いでいる。対象となる不動産は、旅館、スキーレンタルショップ、飲食店などなど。
だが、新たなオーナーの多くは雪にしか関心がないと、英通信社のロイターは指摘する。冬のあいだだけ店を開き、雪が溶けると店のシャッターを閉じて去っていく。かつて温泉客で四季を通じて賑わった街並みも、いまやシーズンオフには人影がまばらだ。
「夏に赤倉に来ると、夜は真っ暗ですよ」。赤倉温泉旅館組合の組合長で、地元で旅館「古屋」を営む中嶋正文氏は、ロイターの取材にそう明かす。
地区内にある約80軒の宿のうち、通年営業を続けているのはわずか10軒ほど。
200年続いた温泉街の大半が、冬の数カ月にだけ灯りのともる「季節営業」の町へと変わり果てた。冬の営業期間中でさえ、外国人事業者と地元は歩み寄れずにいる。海外の事業者の多くは、地元の観光協会にすら加わろうとしないという。
中嶋氏はロイターに、海外オーナーや観光客の多くが、ごみの不適切な処理や駐車違反、深夜の花火など、ルール違反を繰り返すとコメント。注意しようにも、「誰が来て何をしているのかまったくわからない。12月にやって来て、春になると消えてしまう」と嘆く。
最近になって中嶋氏は、外国人事業者を対象に町のルールを伝える講習会を開き始めた。
■「大規模リゾート構想」に戸惑う住民
こうして様変わりした赤倉のすぐ近くでは、桁違いの開発計画が動き始めた。総投資額、実に約2100億円。
シンガポールの英字日刊紙のストレーツ・タイムズが報じるこの構想は、シンガポール政府系ファンドGICの元日本代表、チャン・ケン氏(56歳)が主導する。
自らのファンド、ペイシェンス・キャピタル・グループを通じ、妙高高原をアメリカのアスペンやカナダのウィスラー、スイスのサンモリッツに肩を並べる高級リゾートへ変貌させる計画だ。
都合約10年をかけた少なくとも3つのフェーズを通じ、高級ブティックや一流レストランが山中に立ち並ぶ青写真を描く。
実際、過去2年は円安を追い風に、周辺の土地を割安に買い集めてきた。約19年かけて自然発生的に育ったニセコとは対照的に、まず土地を押さえ、開発を一気に加速させる戦略だ。
壮大な構想とは裏腹に、地元の人々は不安を拭えずにいる。
地元で饅頭を売る男性は、ロイターの取材に、「もともといらっしゃる日本のお客様に加えて、外国のお客様も来ていただけるのであれば大歓迎です」との姿勢を示す。
ただし、「今まで来てくださっていた方々が来られなくなって、海外からの観光客だけになってしまうのであれば、それは心配です」とも添えた。
もっとも、プロジェクトはまだ緒に就いたばかりだ。ストレーツ・タイムズによると、第1フェーズだけで今後3~4年間に5億ドル(約800億円)近くの資金が要る。スキー人口の減少が続くなか外国人観光客に頼らざるを得ないが、富裕層の流入を地元がどう受け止めるか、答えはまだ出ていない。
■海外客に頼らざるを得ない地方リゾート
とはいえ、外国人を締め出せば問題が解決するわけではない。地方のリゾートは長年の経緯を経て、外国資本に頼らざるを得ない状態になっている。
バブル景気にわいた1980年代には各地のリゾートへの投資が殺到し、1990年代初頭にはスキーが国民的レジャーとして全盛期を迎えた。だが、バブル崩壊で一変。スキー人口は急減し、過剰な施設を持て余した地方リゾートは衰退した。
少子高齢化と人口流出にも追い打ちをかけられ、地域経済を自力で回す体力は、もはや残っていない。
約20年にわたり日本を訪れ、スノーボード旅行を続けてきたというカナダ人のハービー・グリック氏は、CNBCの取材に、「この20年間で信じられないほどの変化を目の当たりにしてきた」と振り返る。
実際、本州や北海道の地方部には、廃業したスキーリゾートや、かろうじて存続しているだけの施設が少なくない。外国人観光客の恩恵が及ばないスキー場ほど、生き残りの道は険しい。
■外国人旅行者は日本の貴重な収入源
国内のスキー人口が縮小を続けるなか、業界は「国内客より消費額が多い」外国人スキーヤーを収益の柱に据える方向へ舵を切った。
グリック氏は海外勢の狙いを、「日本というラグジュアリーブランドを作り上げようとしているのではないか。スイスのような感じだ」とみる。
この路線の旗手がニセコと白馬だ。いずれも英語対応スタッフを擁する高級リゾートが軒を連ね、外国人観光客の口コミでも高い評価を得ている。
こうした業界の転換を後押ししているのが、インバウンド観光を成長の柱とする、他ならぬ政府自身の方針だ。
CNNも取りあげているように、2025年の訪日外国人旅行者数は4260万人に達し、観光業は年間9.5兆円規模の日本第2の輸出産業に成長した。
政府が掲げる2030年の誘致目標は、年間6000万人。日本は外国人旅行者への依存を意図的に深めている。
■表面化してきた海外依存の弊害
とはいえ、続々と日本の土地を買ってゆく海外の事業者や個人に対し、国内では不安の声も大きい。このジレンマの解消に、政府もようやく動き出した。
法務省は昨年12月、不動産の所有権登記にあたり、すべての購入者にパスポートなど国籍を証明する書類の提出を義務付ける新制度を発表した。今年度中の運用開始を目指す。
外国人による投機的な購入に押され、日本人が住宅を取得しにくくなっているとの危機感が背景にある。海外でも米ブルームバーグなどにより、こうした日本側の対応が報じられている。
加えて法務省は、高市早苗首相が掲げる外国人管理強化の路線に沿って動いている。高市氏は「調和ある共存」をうたいつつ、入国審査から在留期間の管理、不法就労の取り締まりまで矢継ぎ早に規制強化を打ち出している。
この流れの一環として、政府はまた、外国人の土地取得に関する規制の見直しを検討している。「国家安全保障」を理由とした対策だ。
もっとも、外国人を規制するだけでは根本的問題は解決しない。すなわち、日本の出生数の減少だ。昨年で10年連続の減少となった。
AFP通信は、外国人労働者なしには、もはや経済が回らないと指摘する。
格差は北海道の内部でも鮮明だ。北海道内では、観光と外資の影響を受けた地域が全国有数の地価上昇を記録している。一方、人口減が進む地域では下落幅が最も大きい。
倶知安(くっちゃん)町の文字一志町長は「この地域の美しさを世界中と分かち合いたいなら、国籍による壁を乗り越えなければならない」とAFP通信の取材に語る。
勢いある海外資本を、地元の発展にどう組み込むか。地方自治体の模索が続く。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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