■「気持ち悪い」と言われた公式キャラの逆転劇
※最初にお断り申し上げたい。一般的なゆるキャラが「独立した生命体」「妖精」といった設定であることに疑いはないが、この記事では「中に人が入っている」「着ぐるみ」といった表現を使用する。説明手段として苦渋の選択肢であることを、ご理解いただきたい。
3万3197件の公募から「ミャクミャク」が選ばれ、お披露目されたのは万博初日から1000日前のこと。赤色部分が細胞、青色部分が水で形成され、目が合計6つあるというルックスに「どう見てもバケモノ」「ちょっと怖い」との声が上がり、万博ともどもネガティブに語られがちであった。
ところが、状況はこのあとガラッと変わる。
2025年4月の万博開幕後に、会場東門・西門のミャクミャク像が撮影スポットとして拡散され、“着ぐるみ”ミャクミャクもコミカルな動きでX・Tiltokを中心にSNS人気が沸騰。ハイタッチ会が数時間待ち(ヘルスケアパビリオンにて。筆者体験)という、トップクラスの人気を誇るゆるキャラに成長してしまったのだ。
グッズ販売も会場だけでなく、JR大阪駅や阪神・大丸・近鉄などの各百貨店のオフィシャルストアに人々が押し掛けた。
■百貨店の業績まで押し上げたミャクミャク特需
特に百貨店「あべのハルカス近鉄本店」では、中国からのインバウンド観光客激減によって免税品の売り上げが3割減少していたにもかかわらず、ミャクミャク関連の“爆売れ”によって、全体売り上げが「前期比で9.0%増・純利益は6.4%増」(2026年2月期)と、逆に業績を伸ばしてしまった……ミャクミャクグッズの売れ方が、いかに異次元のものであったかが、お判りいただけるだろうか?
想定を超えるミャクミャク人気で、グッズ販売の高額転売が相次ぐほど売れに売れて、グッズだけで年間約1600億円を売り上げる「くまモン」に迫る「年間1291億円」を記録。うち最大10%のライセンス料が積もりに積もって、63億円という利益を万博協会にもたらした。
また、他館の撤退の穴埋めで開設された「ミャクミャクハウス」来訪や、会場内オフィシャルストア内の「ミャクミャクぬいぐるみくじ」が主目的で会場に足を運ぶ人々も多く、万博会期の後半で集客力が上がる要因ともなった。
関係者にここまで莫大な利益をもたらしたミャクミャクを、2026年3月で終了させるという選択肢はない。だからこそ、一律終了するはずであったライセンス契約の「2年延長」(2028年3月まで)が、土壇場の2026年3月16日に決定したのだ。
■本当は万博終了で消えるはずだった
そもそも、ミャクミャクはもっと早期に消える予定であった。万博最終日(2025年10月13日)にライセンス契約を終了したうえで、各業者は期間内に製造したグッズだけを、売り切って終了する筈だった。
しかし、万博そのものの後半の盛り上がりとともに、ミャクミャクグッズの売れ行きは加速するばかり。入店待ち・レジ待ちだけでパビリオン並みに待つような事態が続き、万博会場内ですらミャクミャクグッズをまともに購入できない有様であった。この時点で販売業者から苦情と契約延長の要請が相次いだこともあり、2026年3月まで半年だけ契約期限を延長したという経緯がある。
あと半年はグッズを作ってもらうとして、さすがに年をまたぐと忘れられるだろう……万博協会がそう判断を下すのは当然。しかし実際には、期間中とは比べ物にならないほどに、ミャクミャク人気がヒートアップした。
ここからは、先に述べた通り「ミャクミャクに数十万円を注ぎ込んだ」という筆者の妻とも話しながら、万博と関係なくキャラクタービジネスとして優秀であった「ミャクミャク」の魅力・強みを窺っていこう。
■「何にでもなれる設定」がグッズ展開を加速させた
理由① 豊富なカラバリ・ポーズを可能にした「細胞と水」設定
ミャクミャクグッズが売れる最大の理由は「ミャクミャクが可愛い」。それ以外で、グッズ展開が成功した理由は「形態・色・種類のバリエーションの豊富さ」にあるだろう。
実は、グッズ展開において、他のゆるキャラにはない「公式設定」が優位に働いている。通常のゆるキャラは決まったポーズ・カラー構成でグッズを発売するが、ミャクミャクは「細胞と水で構成」「なりたい姿になれる」という設定がある。
だから、変態=スタイルそのものの変化、変色=カラーバリエーションなどが容易で、世界観を保ったまま豊富なグッズ展開が可能なのだ。
フォルムひとつ取っても、低身長・短駆で筒状の「でぶミャク」、胴体がない「顔だけ」などのバージョンがあり、リング状の細胞が“顔ハメ”状態で「ラブブ」「リラックマ」などの他キャラと融合しているものも。
カラーも、万博終了後に人気が爆発した「黒ミャク」や緑・黄色・桜柄などがある。これらが絶え間なく期間限定・数量限定で小出しにされ続けるため、飽きられずに話題をさらい続けることに成功したのだ。
「ご都合主義の設定」と言ってしまえばそれまでだが、現在の「ぬい活」(ぬいぐるみを持ち歩いたり、写真を撮る活動)のトレンドである「もちぬい」(モチモチしたぬいぐるみ。抱きしめたくなるから人気)を種類豊富に揃えるなど、ファンの身近に置いてもらうための工夫は欠かしていない。
だからこそ、お目当て商品のために「ぬい服」(ぬいぐるみに着せる服)を先に準備して、寝袋持参でショップの前に並ぶファンもいるほどに、ミャクミャクは支持されているのだ。
■ファンが勝手に世界観を広げていった
理由② 二次創作界隈に優しい
もうひとつ、ミャクミャクを推してきた妻によると、特筆すべきは、ファンを巻き込んだ「二次創作への寛容さ」にあったという。
通常のキャラクターやゆるキャラは、決められた設定や行動やイメージを避けるべく、イラスト投稿や自由な創作を制限されることもある。特に国家イベントだと作り手が委縮する場合も多く、東京オリンピックのイメージキャラクター「ミライトワ」「ソメイティ」のように、創作も人気も広がらないままに存在が消えたような例を思い出す。
一方でミャクミャクは、デザイナー・山下浩平さんやクリエイティブディレクター・引地耕太さんが二次創作に寛容な姿勢を示したこともあり、SNSを中心にかなり自由な創作の題材となった。
通常のゆるキャラ界隈だと削除や注意の対象となる「自作ぬいぐるみ・グッズ作成」「度を超えたイラスト投稿」でも注意されず、ちょっと尖ったpixiv(画像投稿サイト)投稿作品ですら野放し状態。なかには「バイキングで人の皿に無断でアホほど盛ってきそう」などという性格設定までなされる時もあったほどだ。
こういった二次創作は、時としてキャラクターに親しみ・奥行きを与える役割を果たす。いわば、ミャクミャクはネタにし放題・イジり放題という環境の中で、ファンによって寄ってたかって世界観が膨らんでいったもの。だからこそ「みんなが作るミャクミャク」として、雪だるま式にファンを取り込んでいったのだ。
そんな自由な環境の中から、新キャラクター「こみゃく」が生まれたのも印象深い。ミャクミャクの目の部分が独立したかのように見えるパーツは、もともと「ID」という仮称で呼ばれていたのが、なぜか自然発生的に「こみゃく」と呼ばれ始めた。
公的な場所ではピクトグラムなどで活用されるだけでなく、こちらもグッズの題材としてしっかり売れ、利益をもたらした。それにしても、万博という一大イベントにもかかわらず、臆することなく愛称を付けて遊んでしまうあたり、関西ならではだ。
■「場持ちさせるスキル」がずば抜けている
理由③ 着ぐるみなのに踊れて喋れる“中の技術”
よく「ゆるキャラ」と称されている着ぐるみは、“ずんぐり・むっくり”体系である場合も多く、緩い可愛らしさでファンを魅了する。しかし妻によると、ミャクミャクは、ステージやテレビ出演での「操演力」「(着ぐるみとして)場持ちさせるスキル」がずば抜けていることも武器になっているという。
なかでも、万博最終日に会場で見せたダンス集団「アバンギャルディ」との激しいダンスは、各社ともトップ扱いで報じられた。一糸乱れず踊るシンクロダンスを、お腹もぽってりしたミャクミャクが、着ぐるみのまま一緒に踊る……万博最終日まで隠し持っていたダンススキルを公開したことで出演依頼が相次ぎ、気が付くと年末にはHey! Say! JUMP・Kis-My-Ft2のメンバーなどと踊るようになり、「天童よしみ・CANDY TUNEとともに紅白歌合戦に出演」という快挙まで勝ち取った。
さらに、万博開幕前から関西のローカル番組出演が多かったこともあり、吉本新喜劇のメンバーや、灰汁の強い関西の芸人と絡めるだけのトーク力・アドリブ力を持つ。(ゆるキャラなのに、トークショーやラジオ出演をこなすのはミャクミャクくらいだろう)
“何にでもなれる”設定の有利さはあるが、ミャクミャクは持ち前の「操演力」を活かし、節目ごとに「トーク」「ダンス」「歌」「黒ミャク登場」と小出しに特技を解禁することでファンを飽きさせなかった。だからこそ、継続性が認められて「2年延長」を勝ち獲れたのだ。
なお、4月からの体制変更とともにミャクミャクの登場範囲を増やすべく、「イベント出演は1日26万円(関西・関東の場合。スタッフの手配料込み)」「冷暖房完備・プライベートを確保できる控室確保必須」という出演要綱が公開されている。若干夢のない文言ではあるが、スタッフ・「操演者」(中の人)に、しっかりミャクミャクを続けてもらうために必要なルールだ。
■くまモンが証明した「動けるゆるキャラ」の強さ
こうして見るとミャクミャクは、ゆるキャラビジネスにおける「着ぐるみショーで知名度アップ、グッズの売り上げで運営費用を回す」という法則を、見事にクリアしていることになる。ゆるキャラに不可欠な「操演力アップ・場持ちスキル向上」は、ゆるキャラ界の草分けである「くまモン」がたどった道だ。
2011年の九州新幹線延伸を盛り上げるべく誕生したくまモンは、行動を共にする“おねえさん”と激しく踊る「くまもとサプライズ!」(テーマソング)、大阪への長期出張によって身につけた、恐ろしいまでのアドリブ力を活かした交流パート(中の人は喋らないため、おねえさんに突っ込んでもらう)で、ダンス・アドリブともに凄まじく見ごたえがあるステージ出演をこなしていた。
そんなくまモンのショーを誘致できる条件は「熊本県のPRに繋がれば出演無料」(実費のみ)。全国の物産品展やデパートのイベントは、ことごとく熊本県メインで開催されるようになり、熊本県が拠出した「年間2億円」という「関連商品の年間売上・約1500億円」という間接効果を得ることができた。
なおくまモンの場合は、運よく生じた「ゆるキャラブーム」に乗って、「ゆるキャラグランプリ」第1回優勝という幸運を掴むことができた。かつ、テレビ出演で見せた「バンジージャンプ」「(着ぐるみのままで)温泉に入る」などの暴挙の様子がSNSで爆発的な“バズり”を呼び、予算をかけずに世界レベルでの拡散に成功した。
この珍事も、「同じ筋書きがない」と言われるほどにステージ・イベント出演をこなしてきたくまモン、いや「熊本県庁+くまモン陣営」が生んだ奇跡と言えるだろう。
■ハローキティとは違う“ゆるキャラ経済圏”
なお、一般的なキャラクタービジネスでの勝者である「ハローキティ」「ラブブ」と、ゆるキャラとの違いは何だろうか?
例えば「ハローキティ」などは、「サンリオ」などの企業が綿密なマーケティングに基づいて開発した上で、自社のメディアミックスによって知名度を維持し、「キャラクタービジネス(IPビジネス)」として、継続して利益を獲る。
一方で「ゆるキャラ」は自治体・NPOがバックにつくが、自前でそこまでのネットワークを持っている訳もなく、操演力の向上で見ごたえのあるショーを開催しつつ、SNSやYouTube・TikTokで存在を広めてもらうしかない。分かりやすく言うと、「キャラクタービジネスは営利目的、ゆるキャラは波及効果目的」と言えるだろう。
そういった面で、くまモンは「熊本県のPR」、ミャクミャクは「万博PR」のために全力を尽くし、結果としていまも生き残っている。
ただ、くまモンとミャクミャクの違いは、くまモンが熊本県の出資で生き残っているのに対して、ミャクミャクは「万博は既に終了しているので出資はナシ、『2025大阪・関西万博マスターライセンスオフィス』(伊藤忠商事・電通が運営受託)を動かす程度の利益は必要」ということ。
ミャクミャクは、2025年の万博終了後に「ゆるキャラ」から「キャラクタービジネス」に移行する途中であり、キャラクターとして自分の足で立てるのか。今後の2年間で人気を維持できないと、また「契約終了」が訪れる。
■カワイイだけでは生き残れない時代へ
次の万博(2027年国際園芸博覧会)も間近に迫っており、新キャラクター「トゥンクトゥンク」グッズも、既に盛大に販売されている。ミャクミャクは今後どうキャラクターとしての人気を維持して、トゥンクトゥンクと棲み分けていくのか?
ミャクミャクの実力と真価は2027年の万博も終了したあと、2028年3月に訪れる「次の契約更改」で試されるだろう。2015年には「ゆるキャラグランプリ」に1727体も参加していたのに、既に299体(後継イベント「ゆるバース」参加数)まで減少しているゆるキャラ界隈、「カワイイ」だけでは生き残れない。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。
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(フリーライター 宮武 和多哉)

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