現在放送中のテレビアニメ『AIの遺電子』(原作:山田胡瓜)のオープニングテーマを務めている、Aile The Shota。人間とAI/ヒューマノイドの共存をテーマにした『AIの遺電子』について、Aile The Shotaは一体どんなことを考えて主題歌「No Frontier」を書き下ろしたのか――このインタビューを終えて今思うことは、『AIの遺電子』の主題歌を務めるのにこれ以上ふさわしいアーティストはいないということだ。


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Aile The Shotaは現在、初のワンマンライブであり初の全国ツアー『Aile The Shota – 1st Oneman Tour”Prologue”-』を開催中。ツアー初日をKT Zepp Yokohamaで観た数日後にこのインタビューを敢行した(本文ではZepp Yokohama公演にも触れているが、この先の公演ではセットリストが変わるようなので、これからツアーに行く人もネタバレを恐れず安心して読んでほしい)。今回のインタビューでひとつテーマにしたのは、「なぜAile The Shotaは『愛』にまつわる哲学を音楽で表現するのか?」ということ。Aile The Shotaの根底にある変わらない思想と、変わり続ける繊細な想い、それら両面を聞かせてもらった。

—「No Frontier」、去年の5月頃から作り始めていたそうですね。きっとShotaさんにとっては、ようやく世に放つことができるという感覚ですよね。


いや、そうなんですよ。お話をいただいて、Ryosuke ”Dr.R” Sakaiさんと初めてセッションしたのが5月で。

―Ryosuke ”Dr.R” Sakaiさんを「No Frontier」のプロデューサーとして迎えたのは、どういった理由からですか?

Dr.RサウンドはSKY-HI、BE:FIRST、ちゃんみなとかでも聴き馴染みのあるもので、僕の中ではJ-POPシーンの真ん中で鳴る音像というイメージがあって。これまで僕が書きたかったテーマはもっとパーソナルなものだったので、Dr.Rサウンドに自分の声が乗っている想像がずっとついてなかったんです。だから挑戦でもありました。それくらいのことをしないと次のAile The Shotaには行けないだろうなという気持ちもあって。
J-POPシーンのど真ん中でAile The Shotaの音を鳴らせるというマインドが、まさに強くなり始めていた時期で――今はよりそのマインドが強いんですけど――そう思ったときにSakaiさんとのセッションは絶対に正解だと思いました。ちょうどBMSG ALLSTARSの「New Chapter」とほぼ同時期でしたね(「New Chapter」もRyosuke ”Dr.R” Sakaiプロデュース)。

―近未来的な世界観の中に温かみもある音像だと感じたのですが、『AIの遺電子』側からはどんなリクエストがあって、Shotaさんとしてはどういうことを表現したいと思ったのでしょう。

お話をいただいたときに僕はまだ原作を読めてなかったんですけど、日高さん(SKY-HI)が大ファンで。最初のセッションに入る前に読んで、僕が生きているリアルと作品がシンクロするなあと思えたのが書けたきっかけでした。(山田胡瓜)先生からは「ディストピア」や「希望」、「不安定感」とか、鍵になりそうなワードをいただいて、「ポジティブ/ネガティブ」が混ざっているような曲を求めてもらっているんだろうなとも思って。
Sakaiさんにもそのイメージを共有して、最初のセッションではSakaiさんがビートを作っていくのをうしろで座って聴きながら「いいっすね!」「あ、こっちっすね!」みたいな(笑)、メロディを何本かバンバン試して、そこでほぼ原型ができた気がします。

―AIやヒューマノイドに対する「ポジティブ/ネガティブ」といったところを、Shotaさんとしては原作を読んでどんなことを考えました?

「これが正解です」という話じゃないし、一話完結の中にも重たい話とかちょっと笑えるような話とかいろんな角度の話があって、読む人によっても受け止め方が違うと思うんです。深く考えるきっかけをくれる漫画だったので、曲もそういうものにしたいとは思ってました。余白を生み出しながら、僕の目線と主人公の須堂(光)の目線を描く。主人公の葛藤も美しく見えたし、答えがないからいいなと思ってましたね。

―AIの善悪とか、どういった行為が正解/不正解であるかとか、何かひとつの答えを提示するものではなく多面的なものをテーブルに広げて見せてくれるような作品ですよね。


『AIの遺電子』の物語は、人間とヒューマノイドの境じゃないところにあるような気がして。それが何かというと、結局、僕の中でまた「愛」みたいなところに帰結するんですけど。今現代で起きていることに対して大事なのは、人を思いやることとか、誰もが持っているはずの心、という単純なことだと思うんです。「愛」って、難しいことじゃないけど難しい。みんな考えたことのあることだろうけどわかりきれてないから起きてしまうことが多すぎる。そんな中で僕らが歌えることって限られているなあと思うけど、「誰でも唯一無二」、「あなたはオンリーワンだし、それが当たり前である」ということを言い続けるしかないなって。
『AIの遺電子』で描かれる道徳感とか人権の話が、この1年で現代に強くリンクするようになったとも思っていて。そうはなってほしくないなと思っていたけど、いろんな面で「境界線」という言葉の重たさがこの1年でだいぶ変わったなと思って。

―もう少し具体的に聞くと、Shotaさんから見て、どんなところで「境界線」の重たさが変わっていると実感しますか。

マイクを持ってステージに立って、いわゆる「影響力」を持ったときに、思想が必要だと思ったというか。音楽で何を伝えようかと考えると世界的なところに目線がいくので、だからこそより境界線を強く感じるようになったというのもあると思うんですけど。相変わらず戦争も止まらないし、ジェンダーであったり、肌の色とか、コロナ禍がちょっと止んできて日本と国外の繋がりもまた見えてきたタイミングで、そういうことが結局気になるというか、無視はできないなってより強く思うようになりました。
でも”境界線に愛はない”という、そこまで具体性を持たせてない言葉にしたのは正解だったなと思います。今後は「これを言いたい」というものがあって具体的に刺しにいく曲も生まれるような気がしているんですけど、今の段階ではこれが一番僕のマインドに近いかな。

—話してもらえばもらうほど、Aile The Shotaのコアの部分が『AIの遺電子』という作品にさらに引っ張り出されて完成した曲だというふうに思えてきます。この楽曲の制作のあとに「愛」と「エゴ」をテーマにした3rd EP『LOVEGO』をリリースしていて(2022年11月23日リリース)、今はそれをテーマに掲げたツアーをやっている最中ですけど、『LOVEGO』を作る前から「愛」と「エゴ」というテーマの欠片を掴んでいたということですよね。

そうですね。タイミングとしては「No Frontier」を書いたあとに「gomenne」を作って、そこでも”Love yourself”と歌っているし、「No Frontier」で歌ってる”身勝手な愛”がまさに「LOVEGO」なので。『LOVEGO』を作っているときに「あ、全部愛とエゴだ」って言語化できた感じがします。それはこれからもずっとテーマになるだろうし、それを表現する人間なんだなって。主軸が定まったので、今後もタイアップなどでないにしろ、何かを僕と重ねて曲に人格を持たせるような作品が書きやすくなったなと思います。『AIの遺電子』があったから「境界線」というワードが生まれたのかもしれないですけど、僕がまだ掴んでないところを引っ張り出してくれて、それを1年かけて掴んだのかなと思います。

なぜ「愛」を音楽で表現するのか?

―実は今日の取材で、なぜAile The Shotaは「愛」の深いところまでを音楽で表現するのか、というのをひとつテーマにしたいなと思っていたんです。7月2日に『Aile The Shota –1st Oneman Tour ”Prologue”-』初日を観させてもらって、そこでもAile The Shotaは愛とは何かを深く追求し、それをステージで表現しようとしているアーテイストなんだということを強く感じて。ポップミュージックで表現できる器を越えた深い哲学を、舞台上で表現することに挑戦しているようにも見えたんですよね。

ワンマンは、自分の音楽および自分のことを好きでいてくれる人しかいない空間で、影響力がブーストしている状態じゃないですか。だから僕が言ったことが正解になっちゃう可能性もあるし、それは危険だし、誤解もされちゃいけない。そこで何を言えるのか、何を言ったらいいのか、ということがものすごく重たかったですね。だからものすごく緊張もしました。自分の音楽をもっと大きいところで鳴らしたい、もっとJ-POPシーンの先頭で、と思うと……愛を語ることって、誰かを傷つけることがないと思うんですよね。緊迫したマインドでもそういった言葉が出てくるのは、やっぱり自分の中で大事にしているものなんだなとも思いました。

―MCでは愛にまつわる想いがいろんな角度から語られていたし、「I LOVE YOU, ALL」というシンプルな言葉を何度も発していたし、Shotaさんとオーディエンスやゲストのあいだでも愛の応酬がめちゃくちゃ濃く生まれていた空間だったと思うんですよね。

なんで愛をあんなに思うんだろう、っていうのは自分でも不思議なんですけど。すごくつらかった時代があったタイプでもないというか――別につらいことが一個もなかったわけじゃないですけど、愛に関して大きな傷があって、というタイプでもなくて。だから逆に、ニュースとかを見て「なんでこの人はこうなったんだろう」って考えちゃうのはありますね。どういう思考でそこに至るのか、みたいなことを考えてきた時間は長くて、もしかしたらそれは愛を歌うときに厚みとして出ているのかもしれないです。一番日常で考えているのがこれだからだと思う。

―日常的に愛について考える、というのはアーティストになる前からありました?

うん、それこそ命とかを考えるタイプで。小学生の頃から「死にたくない」というマインドが強くて、一回きりの人生を後悔したくないというところから、徐々に「愛」にフォーカスがいって言葉を紡ぐようになったのかなと思います。

―死にたくない、と強く思うのはなぜなんでしょうね。

なんでだろう? 無になるのが怖くて。「Like This feat. Nenashi」とかまさにそのことなんですけど。未だに消えないですね。どうしようもなく不安になって眠れないこともたまにあるので。想像できない不安というか。宇宙とかに抱くものと同じですけど。だから自殺とかのニュースを見ているとすごくセンシティブになるし。そこで「愛があれば」とか思うようになってからだと思いますね。それをやっぱり伝えたいよなあって。

―そこからさらに愛はエゴにもなる、というところにまで焦点をあてて表現するのがShotaさんの深さだとも思うんです。その考えを持つようになったのはいつ頃からだと実感してますか。

エゴが見えたのは、Aile The Shotaになってからですね。それまでは30人とかの前でライブをやっていたので、「俺の仲間がめっちゃアガってくれて嬉しい」みたいな中で音楽をやり続けていて、マイナスなリアクションが返ってきたことが一回もなくて。望んでないリアクションというものに出会ったのが『THE FIRST』に出てからで、ものすごい量のポジティブが入ってくると同時に、ネガティブも入ってくるようになって。自分の名前が大きくなったからこそ受けたエゴもあるし、エゴを受けたことで僕が持っているエゴに気づくこともありました。そこから私生活でも「この感情はラブのつもりだけどエゴだよな」と思うようになった気がします。

—ライブを観ながら思ったのは、Shotaさんは今の時代における愛やエゴのあるべき形のひとつを体現してくれている存在だということで。今は「他者への尊重」をどう実践していくべきなのかをみんなで模索しているような時代だと思っていて。愛とエゴの境界線をみんなが模索する中で、愛だと思っているものがエゴにひっくり返る怖さを直視することとか、自分のエゴだと思うものこそ愛を持って相手と接しないといけないこととか、日々感じている難しさへのヒントをくれるようだと思ったんですよね。

僕は「これが答えです」ということを示すタイプの表現者でもないので、「一緒に考えましょう」というのが多分、正解なんだと思ってますね。僕も正解が何かを全然わからずに歌っているので、全部鵜呑みにしてほしくもないし。「No Frontier」もそうですけど、僕はこう思ってるから一緒に考えよう、みたいなところなのかな。

「シーンの垣根なく」を考えた

―Zepp Yokohama公演は、ダンスクルーのGANMI、Dot.、さらにJs Morgan、Kia Vella、そこにデビュー前に一緒に曲を出していた無雲もゲストとして登場して。今の世の中、みんなに降り掛かっている問題が山積みだからこそ、手を取り合っていかないといけない、罵り合ってる場合じゃない、奪い合ってる場合でも戦い合ってる場合でもない――そういう面でも、これからの時代における他者への愛のあるべき形をひとつ見せてくれたように思いました。

まさに客演を呼んだセクションは「シーンの垣根なく」ということを考えていましたね。Aile The Shotaの今の立ち位置を考えたときに、Aile The Shota自身がもう一段階上がって呼ぶ側にならねばと思うようになりました。今の位置で自分を突き詰めながら、フィールしてくれる人を呼ぶ。もっともっと自分がシーンの真ん中にいって、「Aile The Shotaに呼ばれた」ということが箔であるようなところにまでいかないとなという感覚になりました。後輩という立場のKia VellaとJs Morganを呼んで、僕の大事なルーツである仲間の無雲を呼んで、ダンスカルチャーを引っ張り上げたいというマインドからGANMIとDot.も呼んで。力を貸してもらってるけど引っ張り上げたい、という相互関係が誰に対してもあったので、いつもと違う責任感を感じてめっちゃ緊張しましたね。でもシーンを引っ張るという意味での客演の呼び方はできたかなという気がします。RADWIMPSとZORNが一緒に曲やっているのを見ても思いましたけど、ああいうのがしやすくなった時代だと思うので。そういうアーティストになりたいなって思いますね。

―GANMIと新曲をやったのもスペシャルだったし、Dot.と一緒に「DEEP」を歌いながら踊ったシーンもめちゃくちゃよかったです。

いやあ、嬉しい。ダンサーに自分の曲で踊ってもらうのは、ダンスカルチャー出身者としては夢みたいなことなので。Dot.にはバッチリかましてほしいなと思って、今回のためにDot.ダンスショーケース用の音源をHIRORONさんと僕で作ったんですよ。ダンサーにしっかりフォーカスがあたるようにしたくて。だからDot.ショーケースの湧き方すごく嬉しかったです。「ダンスイベントかよ」って思うくらい、歓声がとんでもなくて(笑)。めちゃめちゃいいじゃんって思いました。

―ジャンルとか育ってきた環境を超えて手を取り合っていくことの姿勢を、音楽的な技術と振る舞いからも見せてくれるのがAile The Shotaなんだなと思います。

僕とライブを観てくれている人のあいだにも、客席で隣になった人同士にも、共通項は絶対にあるから。僕がフィーチャリングしたいアーティストとも、育った環境が違っても音楽が好きだとか音楽を通して何かを伝えたいという共通項があるからこそ、一緒にやりたいし。そこですよね。線を引かずに共通項とかを見つけることが、”境界線に愛はない”という言葉に込めたことだったりもします。線を引いちゃったらそれまでなので。そういうところが大事だなって、僕の活動のすべてにおいて思いますね。本当に”境界線に愛はない”という感じ(笑)。

―「No Frontier」の話からライブの話へいって、またきれいに「No Frontier」に帰ってきましたね。つまりは主軸がひとつ通っているということですよね。

そんな感じがします。次に出すEPで4部作が終わるんですけど、そこから「こういうアルバムを作りたいな」みたいなこともなんとなく構想中です。一緒にやりたいアーティスト、プロデューサーが多すぎてやばいなと思って(笑)。ここまでを無駄にしないようなアルバムにしたいなとは思いますね。

Aile The Shotaが語る、愛とエゴの「境界線」、J-POPへの真摯な想い


何かを考えさせられるきっかけでありたい

―デビューからまだ1年半なのに濃密な活動を積み重ねてきましたよね。

でもこのスピード感でやらないといけないんだなって、最近すごく思うので。インディーズだからこそですね。周りのSKY-HI、Novel Core、BE:FIRSTが全員メジャーなので、その中でAile The Shotaに何ができるかを考えながら、でも絶対に同じスピード感ではいたいので。頑張らないとなって思いながらワンマンを回ってる感じです。デカくならねば、という気持ちはすごくありますね。

―デカくならねば、という想いがどんどん大きくなっているんだなということを今日話を聞いていて感じました。

なりましたね。毎回のインタビューで全然変わってる気がします。

―それに合わせて、ステージに立つ上では思想を持っていたいし、同時に自分が発する言葉の影響力に対して慎重になっている、という感覚ですか。

ですね。デビューしたときは「自分が好きな曲を作ろう」「自分の仲間とかが好きでいてくれる曲を作ろう」という感じだったんですけど、「ステージに立って何が言えるんだろう」ということを考えるようになりました。時間をかけて、命をかけて、自分の音楽を聴いてくれている人に何かを伝えたいよなって。「伝えられるのにもったいない」というところもあるかもしれないですね。いつ死ぬかわからないし。ただ気持ちいい音楽で終わらないよさがあるなとも思って。「Like This feat. Nenashi」も深読みしてもらったらその人の死生観にリンクすると思うし、「LOVE」もその人の考えるきっかけになるような曲だと思うので。そういう考えは日高さんとしゃべって芽生えてきたことでもありますね。日高さんもちゃんと考えがあって、カルチャーを作ると言っているくらいの人なので。

―ライブでも「俺にしか見せられない景色があると思ってる」とおっしゃっていましたが、Aile The Shotaはどんなアーティストでありたいと今思っているのかを、最後に改めて言葉にしてもらえますか。

それぞれの愛に触れたいとは思いますし、何かを考えさせられるきっかけでありたい。でも第一は「こいつの音楽まじやばいな」っていうところですね。J-POPをレペゼンできるようになって、世界から見て「J-POPがかっこいい」となる要因のアーティストでいたいなと思います。

<INFORMATION>

Aile The Shotaが語る、愛とエゴの「境界線」、J-POPへの真摯な想い

「No Frontier」
AIle The Shota
BMSG
配信中
https://bmsgv.lnk.to/NoFrontier

Aile The Shota –1st Oneman Tour”Prologue”-

-LOVE-
7月21日(金)名古屋 ElectricLadyLand
OPEN 18:30 / START 19:30
info:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100(12:00~18:00)

-LOVEGO-
7月29日(土)大阪 GORILLA HALL
OPEN 17:00 / START 18:00
info:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00※日祝休)