今年6月から7月にかけて、北中米3カ国で共催されるFIFAワールドカップ2026。共催国のアメリカ合衆国、カナダ、メキシコは高温となることが予想されるなか、大手イギリスメディア『BBC』は、気候面に精通する世界の学者20名が署名した書簡の内容を公表。
現在の暑熱対策は不十分であり、選手たちの健康面にリスクがあると警告した。

 FIFAワールドカップ2026の開催期間、アメリカ南部とメキシコ北部の一部地域では、日中の平均最高気温は通常30℃台前半から半ばほどと見られているが、日によっては40℃近くまで上昇することが予想されている。気温、湿度、風速、日照強度を考慮に入れると、これらの都市で行われる試合に臨む選手たちは、身体が極度の高温になるリスクが高まっている。

 このような状況を受けて、現在、FIFAは今大会期間の「選手の健康への配慮」の一環として、天候や気温、開催地、試合会場の屋根の有無に関わらず、FIFAワールドカップ2026の全試合において、前後半途中にそれぞれ3分間の飲水タイムを設けることを義務付けている。また、屋外で行われるすべての試合において、テクニカルスタッフやサブメンバーのため、空調を完備したベンチが設置される。

 また、『BBC』によると、FIFAはスポーツにおける暑さの測定基準として、湿球黒球温度(WBGT)という指標も採用しているという。これは、熱と湿度を組み合わせて身体への熱ストレスを評価する指標。一般的に、WBGT数値が26を超えると、体を冷やすための休息が必要とされており、28を超えた場合は、プロアスリートがプレーを続けるのは危険だとされている。FIFPro(国際プロサッカー選手連盟)は、WBGT数値28を超えた場合は、プレーに危険な水準とみなしている。

『BBC』が伝えたFIFAの救急医療マニュアルによると、WBGTの測定値が32付近、またはそれ以上の場合、試合主催者は熱中症などの発生を防ぐための予防措置を講じるという。同時に、観客向けには、未開封のペットボトル飲料水を持ち込むことができ、試合会場では日陰エリアの設置、ミスト噴霧システムの導入、冷却バスの運行、給水設備の拡充など、追加の暑熱対策を実施する予定だ。

 だが、今回の書簡では、現状のFIFAの暑熱対策は不十分だと警告されている。
今回公表された書簡の中では、FIFAワールドカップ2026で使用される16のスタジアムのうち、14のスタジアムで、気温が危険なレベルを超える可能性があると指摘。その上で、「WBGT(暑さの指数)が28℃を超えると試合を延期または中止する」、「少なくとも6分間のクーリングブレイクの導入」、「選手向けの冷却設備の改善」、「最新の科学に基づいたガイドラインの定期的な更新」などを、大会主催者のFIFA(国際サッカー連盟)に対して要求した。

 この書簡を取り持ったニュー・ウェザー・インスティテュートの所長であるアンドリュー・シムズ氏は、『BBC』に対して、「選手の安全は喫緊の課題です。なぜなら、人は一度熱中症になってしまうと、事態はあっという間に悪化する可能性があります」などと発言した。

 同時に、署名者の1人であるコネチカット大学のダグラス・カサ教授も、『BBC』を通して、「FIFAの現在のガイドラインの大部分は理想とは程遠い」と述べている。「前後半のクーリングブレイクは絶対に3分より長くする必要があり、少なくとも各休憩は5分、できれば6分であるべきです」と語っただけでなく、「この公開書簡がきっかけとなり、FIFAがワールドカップ開催前に暑熱対策のガイドラインを改訂することを願っています」と話した。

 過去、アメリカ合衆国では1994年の同時期にFIFAワールドカップが開催されたことがあるが、気候科学者集団のワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)によると、当時と比較して、今大会では選手やファンが過酷な暑さと湿度にさらされるリスクがほぼ2倍に跳ね上がっていることが、データの観点からも明らかになっている。今大会の全試合の約4分の1はWBGT数値が26を超える環境で行われる可能性があり、そのうち約5試合はWBGT28を超える可能性を秘めているようだ。

 なお、『BBC』は、FIFAの広報担当者による回答を紹介。同書簡への直接的な返答は避けたものの、FIFAは大会期間中、本部および開催都市全体で専門の気象サポート体制が整えられており、WBGTやヒートインデックスのモニタリング結果に基づいて意思決定が行われると説明。日程面も気候を考慮に入れた上で組まれており、気温が高くなりやすい試合は屋根付きスタジアムでの開催を優先していることも付け加えた。状況をリアルタイムで監視し、開催地当局や医療専門家と連携を図りながら、大会の安全性を確保すると主張している。

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