◆第107回全国高校野球選手権宮城大会 ▽準々決勝 仙台育英3-2東北(21日・石巻市民)
自慢のカットボールに、バットは空を切る。最終回を3者連続三振に斬ってとり、仙台育英・吉川はこの日一番の雄たけびを上げた。
9回2死、この日2安打の東北エース・川原輝陽(3年)を追い込んだ4球目。信じ抜いた伝家の宝刀で、投手戦の幕切れとなる10個目の三振を奪った。
「平常心でやりなさい」。「世界NO1リベロ」とも称されたバレーボール全日本リベロ第1号の母・博子さん(55)の教えは大一番で発揮された。1点リードの5回、「全然走ってなかった」という直球を狙われ、2本の長打で2失点。逆転を許したが、左腕は崩れなかった。
須江航監督(42)は振り返る。「いい時だけいいなんてのはエースじゃない。今日で一皮むけて、新しい吉川が生まれたんじゃないかな」。NPB7球団12人のスカウトが見守る中、カットボールとスライダーを軸に尻上がりに調子を取り戻した。
逆転直後の7回、1死二、三塁のピンチでは、「自慢のボールを信じ続けて投げた」とカットボールで連続三振。1点のリードを守り切った。
吉川の父・正博さん(62)は元バレーボール女子日本代表監督。勝負根性を育てたのは、母・博子さんの「常に普段通り、平常心でやりなさい」という言葉だった。自慢の母を信じ、左腕は押しも押されもせぬエースとなった。
父・正博さんはその成長を喜ぶ。「チームのために頑張ろうとする姿が見えたのがとてもうれしい」。須江監督は明かす。「大会直前、気の抜けた練習をしてる日があった。激怒するようなことではなかったけど、果たしてそれで本当にいいのか?と問いかけた」。全身全霊で伝えたというメッセージは、吉川の決意を形作った。「仲間を絶対に甲子園に連れて行く。