連日お伝えしている「原油不足」の影響。トランプ大統領のイランとの停戦合意を受けて、昨日原油価格は急落しましたが、現場の混乱は続いています。

重油不足で「カンパチ祭り」延期

その一つが、お寿司でもおなじみの「カンパチ」。中でも国内生産量日本一を誇るのが、鹿児島県垂水(たるみず)市。毎年ゴールデンウイークに実施していた「垂水カンパチ祭」について今年はちょっと苦しい決断を下したそうです。垂水市漁業協同組合の、篠原 重人さんに聞きました。

「垂水市漁業協同組合」組合長 篠原 重人さん

今回5月3日(日)に行うところだったんですけれど、それを延期にしました。延期です。ちょっとホルムズ海峡の影響で、「重油」の方が入手困難になったものですから、「やってる場合ではないですよね」っていう決断をいたしました。

僕ら「養殖業」を営んでますから、中国の海南島で畜養されたものを、船を介して1週間かかって日本の方に運搬するんですけれども。その中国を行き来する2週間、行って帰ってきてかかる船の「重油」がないんですよ。とっても大変です。歩留まりがとっても悪い魚なものですから、とても頭が痛いです。

お刺身からカンパチが消える?”原油高”と”巨大化した稚魚”の画像はこちら >>
<2026年の実施延期が発表された「垂水カンパチ祭り」の案内(垂水市漁業協同組合のインスタグラムより)>

本来ならカンパチのつかみ取りや、漬け丼の早食い大会などで賑わうお祭りですが、今年は延期を決めました。

そもそも「カンパチ」は暖かい海で生まれる魚で、日本の近海で、養殖用の「稚魚(赤ちゃん)」を確保するのが非常に難しいんです。

そのため9割を中国からの輸入に頼っているんですが、いま、その買い付けに行く船の「燃料」が足りません。

さらに、資材不足も深刻です。原油不足でナフサが足りず、船底の塗料や、いけすを浮かべる「フロート」などの石油製品が激減。買い足すことすら困難な状況で、「エサやりができない」「道具も直せない」。まさに、「お祭りどころではない」という判断だったようです。

「大きくなったら、積めません」中国でスクスク育つ稚魚

ただ、問題は燃料だけではないようです。仮に今後「ホルムズ海峡が開通しました」「重油が入ってきました、さあ中国に稚魚を買いに行きましょう」となっても、別の問題もあるようです。日本で初めてカンパチの輸入を始めたパイオニア、宮崎県「マルエイ水産」の大野 隆由さんに伺いました。

「マルエイ水産」代表 大野 隆由さん(宮崎県)

中東の問題のあおりを受けて、船が行けない、当然向こうでは魚が大きくなる。そうすると、一度に運んでくれる尾数っていうものがググッと制限されるねですね。例えば「30センチ」だったら10万匹積んでこれた船が、向こうに置いていることでどんどん大きくなって、「40センチ」になりましたってなったら、その半分しか積めないんですよえ。船のいけすの占有率が大きく変わるためですね。積める量が変わるということは、大きくですね、カンパチの輸入量が減る可能性があるんです。

そうすると、今はまだよくても、去年の魚があるから。来年の今頃は魚が全然ない状況になるんです、国内においてカンパチというお刺身がなくなるということになる。だから、それも非常に大きな問題ですね。

お刺身からカンパチが消える?”原油高”と”巨大化した稚魚”
<カンパチ(イメージ)>

例年なら20センチほどの稚魚を運ぶところが、足止めされている間に大きくなってしまう。一気に運べない分、一匹あたりの運賃は、跳ね上がってしまいます。(中国ではカンパチをナマで食べる習慣があまりなく、引き取り手がないらしい)

しかも、ピンチはこれだけではなりません。運送コストの次は、「お魚そのものの値段の問題」。その一つが「税金」です。本来30センチを超えるカンパチを輸入すると10%の関税がかかるルールがあるそうです。これは外から大きな魚が入ってきて、国内の価格が崩れないよう日本の漁師さんを守るためルールですが、向こうでどんどん大きくなれば、輸入する時にはこの「30センチ」の枠を超えてしまいます。

政府の特例すら「焼け石に水」

そこで政府は先週、特例として「50センチまではこの関税を免除する」と発表。「無税でいいですよ」という方針ですが、これで現場の不安は解消されるのか。

再び大野さんです。

「マルエイ水産」代表 大野 隆由さん(宮崎県)

もちろんありがたいけど、それだけでは足りないですよね。それが仮にできたところで、今度は生産者がね打撃をまた受けるんですよ。それは何かと言ったら、大きな魚ということは、それだけ「単価も高い」わけです。例えば、1匹が1000円だったものが、1200~1500円になっちゃうわけです、仕入れ値が。それはそうですよね魚が大きいですもん。

そうすると、例えば私の会社は10万匹のカンパチを養殖してますと、計画が10万匹ですと。それが価格が上がったことによって7万匹しか養殖できませんでしたってことになりうるわけです。それを10万匹のまま同じような計画したら、明らかに資金繰りを圧迫するので、できなくなるから減産するしかないんですね。だからどっちに転んでも、この状況っていうのはもうすでに、「カンパチの養殖の生産量が減る」ことを示唆しているわけです。

カンパチの稚魚は9割中国に依存しているっていうことはね、やっぱり以前から私ども問題視はしてました。だからね、二重苦、三重苦で結構岐路に立っている生産者は多いと思いますよ。

つまり関税がなくなっても、「仕入れ値」自体が高くなっているから、予算内で買える数が減ってしまう。結果的に、日本のカンパチの生産量が減ってしまうという構造です。

対策として、一部の業者では魚種転換を模索し始めて、同じブリ属の「ヒラマサ」の養殖に変えるところも出てきているそうです。また、究極の解決策は「中国に頼らない、国内での完全養殖」。ただ、すでに技術は確立されていて一部で生産も始まっていますが、供給量はまだわずかで。大野さんは、「とにかくカンパチ稚魚を確保していきたい」と。国内産の稚魚への切り替えも含めて模索していきたいと話していました。

考えてみれば、カンパチ一匹が食卓に届くまでに、重油、資材、そして稚魚そのものと、私たちはいくつもの「海外依存」という綱渡りをしていたことになります。その一箇所が詰まるだけで、日本の食卓は途端にピンチに陥ってしまう。今回の原油高騰は、私たちが当たり前だと思っていた美味しさが、いかに脆い足元の上に立っていたかを、改めて突きつけています。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)

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