【連載】
松井大輔「稀代のドリブラー完全解剖」
最終回:久保建英
日本代表の中心選手として存在感を発揮する久保建英は、ほかの代表選手とは異なるキャリアを積み上げてきた。とりわけ小学生時代にバルセロナのカンテラ(下部組織)「ラ・マシア」に入団したことは、日本出身選手のなかでは異色と言っていい。
その約3年半で手にした技術的・戦術的素養は、久保本人はもちろんのこと、すぐに日本サッカー界の財産へと直結する。帰国後、飛び級で年代別の日本代表でプレーすると、2019年6月9日(エルサルバドル戦)には18歳5日でA代表デビューを飾るに至った。
しかもその直後には、FC東京から世界的名門レアル・マドリードに移籍するという画期的なキャリアアップを果たし、1年目はローン先のマジョルカの選手としてラ・リーガでデビュー。以降、スペインで着実に成長を遂げ、スペイン7年目の現在もレアル・ソシエダで主軸を張る。
これまで日本国内には「早熟の天才」と呼ばれた選手は数々いたが、周囲の期待を裏切ることなく、日本代表の主力にまで上り詰めた選手は決して多くない。そういう意味でも、久保こそが近年における日本サッカー界の至宝と言っていいだろう。そんな特別な才能を持つ久保にとって、最大の武器となっているのがドリブルだ。これまで世界の一流選手を手玉に取ってきた久保のドリブルには、どのような特徴とテクニックが潜んでいるのか。
現役時代はドリブルマイスターとして知られ、現在は育成年代を指導しながらFリーグ(日本フットサルリーグ)理事長を務める松井大輔氏が解説してくれた。
※ ※ ※ ※ ※
「最大の特徴は、細かくボールタッチしながら、スピードを落とさずに仕掛けられるという点です。
ただし、自分から仕掛けるケースは少なく、ボールを左足で細かくタッチしながら相手の出方を待って、相手が足を出した瞬間に逆を突いて一気に抜き去るというのが、最も得意とするドリブル突破の形と言えます」
【得意はカットインからのシュート】
松井氏は続けて久保の特徴を挙げる。
「わかりやすく言えば、『後出しジャンケン型のドリブラー』ということになります。ディレイを選択するディフェンダーが多い日本と違い、ヨーロッパのディフェンダーは自分でボールを奪いにかかるタイプが主流なので、このタイプのドリブルはより効果を発揮しやすいと言えるでしょう。
ボールを少しさらすイメージで前進しつつ、いつ相手が足を出して奪いにかかってきても、その逆を突くことができる。メッシもそうですが、細かくボールにタッチするドリブラーは、それができるのが強みになります。
しかも、彼は顔を上げた状態でドリブルができる。それによって、相手の一瞬の体重移動や足の動きを感知することができるのと同時に、対峙する相手からすると、いつでもボールタッチできて、右にも左にも突破できる状態のまま向かってくるので、なかなか足を出すのが難しい。
簡単に飛び込むと、あっという間に置き去りにされる。そのため、どうしても後手を踏んでしまいやすくなります」
久保のドリブルに対する第一印象をそのように語った松井氏が、次に言及したのはボールの置き場所と運び方の特徴だった。
「彼は左利きなので、基本的にボールを持つのは左足です。そして、いつでもボールをタッチできる場所に置きながら、相手の出す足が1歩では届かないようなところ、つまり2歩以上のところにボールを出して運びます。それができていれば、相手との駆け引きのタイミングで誤差が生じても、ボールをロストする確率はかなり低くなるはずです。
また、アタッキングサードでは、右サイドから左足でボールタッチしながらカットインして、相手を抜いたら素早くシュートやパスを選択するプレーを得意としています。ベストな形はカットインからのシュートで、実際に彼はそのパターンでゴールを決めるプレーを何度も見せています。
カットインプレーだけでは相手に読まれてしまうので、縦に抜いてから、素早く右足で精度の高いクロスを供給できるかどうかが重要なポイントになります。
カットイン後のシュートやパスの精度は、まだ進化の途中だと思います。それがレベルアップすればするほど、さらに相手の脅威となる選手に成長できるでしょう」
【本田圭佑が大化けした夢舞台】
では、久保が現在以上の地位に上り詰めるには、どのようなことが必要になってくるのか。松井氏が、独自の見解を示してくれた。
「ひとつ言えるのは、ワールドカップで活躍することですね。
これは自分の現役時代に経験したことですが、たとえば本田圭佑がそうでした。彼は2010年の南アフリカワールドカップの初戦・カメルーン戦でゴールを決めましたが、その1ゴールで自信が確信に変わり、その瞬間に大化けして急成長しました。
おそらくあのゴールがなければ、3戦目のデンマーク戦のフリーキックのゴールはなかったと思います。とにかく一緒にプレーしていて、その変化を肌で感じたことをよく覚えています。
これは日本の選手以外にも言えます。とにかくワールドカップで活躍すると、急に別人になったようにレベルアップする選手を何人も見てきました。
そういう意味では、前回のカタールワールドカップでは十分なインパクトを残せず不完全燃焼に映った側面もありましたが、今度の北中米ワールドカップで活躍することができれば、その後のキャリアも大きく変わると思います。世界的なビッグクラブに移籍する可能性も十分にあるでしょう」
松井氏が語ったように、久保の年齢がまだ24歳であることを考えても、今回のワールドカップで活躍できるか否かで、選手として脂の乗る20代後半のキャリアはまったく違ったものになるだろう。
果たして、久保は6月の北中米ワールドカップでどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。今後の日本サッカー界を考えても、その一挙手一投足は注目に値する。
<了>
【profile】
松井大輔(まつい・だいすけ)
1981年5月11日生まれ、京都府京都市出身。2000年に鹿児島実業高から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に加入。その後、ル・マン→サンテティエンヌ→グルノーブル→トム・トムスク→グルノーブル→ディジョン→スラヴィア・ソフィア→レヒア・グダニスク→ジュビロ磐田→オドラ・オポーレ→横浜FC→サイゴンFC→Y.S.C.C.横浜でプレーし、2024年2月に現役引退を発表。現在はFリーグ理事長、U-18日本代表ロールモデルコーチ、京都橘大学客員教授を務めている。日本代表31試合1得点。2004年アテネ五輪、2010年南アフリカW杯出場。ポジション=MF。身長175cm。

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