「なぜ利益はすぐ確定し、損失は放置してしまうのか?」。停戦を早織り込みして急反発する半導体など、米国株相場の裏側で、投資家の「心理のゆがみ」が勝敗を分けています。

相場の波に飲まれず、合理的な判断で利益を最大化するための鉄則を解き明かします。


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米国株:大波乱相場でもうける人と損をする人
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サマリー

●半導体などAI株主導の急反発は、買い遅れの焦燥感や決算期待から、持続力があると想定
●速い相場には自律反落も付き物。損得の確率でゆがむ心理を制御する行動ルールが必要
●5月からその先へ、足元の急速相場の展開イメージと対応は?


超急速の相場反発

 米国株が、半導体・メモリー主導で急反発しています。フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は4月22日まで16連騰となりました。米国・イランの停戦交渉がもたつき、原油価格が強含む中でも、市場は双方とも停戦を志向していると高をくくっているような値動きです。


 開戦以来、3月には中東情勢の不安から、原油高で景気悪化とインフレが進むスタグフレーションなど最悪シナリオを強調する論調が目立ちました。しかし、相場には先取りする習性があります。私はシナリオの時間順として、4月には停戦(交渉)シナリオを優先して取り組むべきとガイドしてきました。


 株式相場は、停戦交渉開始のニュースでジャンプして以来、続伸中です。相場の内側を見れば、停戦すると高をくくっているというより、出遅れ焦燥感の連鎖による連騰と言えるでしょう。


 中東有事に際して、プロ投資家は預かっている顧客マネーをリスクにさらすわけにはいきません。このため売却やヘッジをします。いざ、停戦かと相場が持ち直し、押し目なく上昇していくと、今度は過少になった手持ち銘柄を買い遅れ、ヘッジの売りポジションの損失増大への対応に走らざるを得ません。


 この買い急ぎの底流には、AI相場の復調、4月後半からの決算期待があり、相場には持続力があるとみています。

私は自社モデルの評価として、数カ月にわたったAI相場は4~6月には復調リズムになるとご案内してきました。まずは数週間、うまくすれば数カ月の上昇路もあり得ると期待しています。


 その先導役は、戦争があっても、中期的な需要見通しが良好な半導体・メモリー、その関連業種の株との見立てです。実は、「SaaSの死」と評されて大急落してきたAIソフトウエア株にも、モデルは4月の復調を示唆しています。


 ただし、速い相場に自律反落は付き物です。ソフトウエア株については、アンソロピックなど先進企業からの新プログラムの公表があれば、相場のハシゴ外しが起こりやすい下地は続くでしょう。


 足元で速い相場も、少しだけ目線を延ばして、ここから5月にかけてのリズムを想定すると、月末月初、あるいは大きい吹き値の後に、相応の反落リスクが示唆されます。速い相場にどう乗り、下落相場をどう生かし、利益をどう高めるかを考えます。


損得確率の心理学

 問題は、速い短期相場にあおられない心理の制御、それを長期投資につなげる行動ルールです。先行き不透明な状況では、相場が動けば、損得も変転し、感情が揺さぶられ、冷静で合理的な判断をジャマします。


 短期投資家はより安定的な投資を目指そうにも、目の前の値動きに気が気でなくなります。長期投資家を自認していても、有事の不安定な相場に関わるほど、心理が揺れ動くものです。


 ここでは損得と確率の心理学として「プロスペクト理論」を解説します。

図1の横軸は右側の利得から左側の損失の客観的な大きさ、縦軸は上から下へ主観的(心で感じる)な得と損の大きさです。これが図中の青線のような曲線になります。


<図1>プロスペクト理論
米国株:大波乱相場でもうける人と損をする人
出所:各種資料より田中泰輔リサーチ作成

 ヒトが完全に合理的なら、客観的な損得の大きさと主観的な損得の大きさは一致するので、この青線はX軸とY軸の交点Oを通る右上がりの45度線になるはずです。それでは、この青い曲線は何を語っているのでしょう。


 実際にはヒトは、図の右半分の領域では、利益が増えるほど、相場の一定の値上がりに対する利益の主観的評価(利得の喜び)が減退していきます。左半分では、損失が増えるほど、損失の主観的評価(損失の痛み)が減退していきます。


 逆に言えば、損得の金額が小さい時ほど、値動きの心理(的評価)は揺れ動きやすいのです。これがプロスペクト理論で知るべきポイント(1)です。


 ポイント(2)は、利得での主観的評価の曲線の角度より、損失での主観的評価の曲線の角度の方が、傾斜は大きいことです。ヒトは損か得かで心の感じ方が対称的ではないのです。同じ金額の場合、利得の喜びより、損失の痛みの方が大きいと言い換えられます。


 このポイント(1)と(2)から、ポイント(3)が出てきます。

ヒトの心理は損得の境界O点で、非対称的に揺れ動きます。相場の中で新たに購入する時は、必ずこの境界点付近からスタートし、値動きを主観的に過大評価しやすく、心理が不安定になりがちなのです。


 以上から導かれるのがポイント(4)です。相場が首尾よく利得A点まで上がったとします。ここで含み益が消えるO点に戻るか、2倍のB点に進むかは確率半々としましょう。


 これを主観的評価で見ると、「OA>AB」と、O点に戻ることによる喜びの喪失が、B点に進む喜びの増分より大きいことになります。こうして、上がるか下がるか50:50でも、利益確定売りに傾きやすくなります。


 逆に相場が期待に反して含み損C点に下がったとします。ここでも、損失解消のO点に戻るのと、含み損2倍のD点へさらに下がる確率を半々とします。これを損失の主観的評価で見ると「DC<CO」と、損失増加による痛みの増分より、損失ゼロに戻る痛みの解消分の方が大きくなるのです。こうして、損失では上がるか下がるか50:50でも、損切りを見送る方を選びやすいのです。


投資の行動ルールとここからの構え

 ポイント(1)~(4)を改めて確認しましょう。


(1)利益の喜びも、損失の痛みも、含み損益の金額が大きくなるほど、鈍っていく。
(2)損得同じ金額なら、利益の喜びより、損失の痛みの方が大きい。
(3)損か得かの境界近くでは、ヒトの心理は揺らぎやすい。
(4)合理的な確率評価より、利益確定売りは早まりがち、損切りは遅れるか見送られがち。


 短期投資は、以上(1)~(4)の心理的ゆがみの影響を大きく受けやすいだけに、これらを十分に踏まえて、含み益ポジションをどれだけ長くホールドするか、損切りをどこで行うか、心理を制御する努力がステップ1です。


 また、心理の影響に無頓着に参加する投資家の多くが、同じゆがみを持つとすれば、それによって生じる相場変動のパターンを逆手に取るのも有効な対策ですが、ここに至るには経験を積む必要があり、これがステップ2です。


 ステップ1、2を学び、経験を積む中で、損得ケースバイケースの行動ルール集を持てるようになれば、日常的な投資判断の揺らぎ、ゆがみは減り、より一層テキパキ動けるようになるはずです。


 長期投資において、株式相場全体は、マクロ経済が名目で成長するなら、それに見合って上がるものです。従って、短期投資の心理の振れを回避するために、時間分散買いを淡々と進めることや、相場上昇への確信度が高い低金利環境で一括買いしたら、短中期では相場変動に対する鈍感力に努めることが基本となります。


 こうして含み益が増大すると、多少の値動きがあっても、おのずと鈍感になれます。


 ただし、バブル破裂、金融危機、大きな戦争、大災害など、長期投資ポジションが深刻なダメージを被る事態も、5年、10年、20年というタイムスパンの中では起こり得ます。このため、大きなリスク要因には、警戒を怠ってはいけません。

含み益が大きければ、対応するか否かの判断にも猶予があるので、冷静に判断します。


 また、長期投資において、含み損に鈍感力がついていくのを放置するのもご法度です。含み損ポジションにはきちんと向き合い、その損失が回復する目があるのかを冷静に判断し、ホールドするのが妥当か、別の銘柄・資産に勝機を見いだすのかを検討していく姿勢が必要です。


 こうしたロジックは理解できても、実行するのが難しい…これは誰も同じです。投資は基本ルールを身に付け、愚直に繰り返し、負けを減らし、勝ちを積み増すのみです。


 私は、そのお手伝いになればと、相場ストラテジー一筋で40年以上キャリアを積み上げてきた知見を、個人投資家の皆さんの対応に落とし込むガイドをしています。個人には、非常に保守的なアプローチから、一獲千金を狙うリスク愛好アプローチまで幅広い投資家がいます。


 私がトウシルでご案内するのは、基本的にリスク管理をきちんとしながらの「慎重に前向き」なアプローチです。ただし、相場に精通したリスク愛好の方々には、相場の半歩先、1歩先、5歩先、10歩先のシミュレーションに基づく想定がお役に立てるかと考えます。当レポートの実践解説については、トウシル動画をご覧ください。


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(田中泰輔)

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