大阪駅の目の前という絶好の立地に、昨年3月オープンしたフードコート「タイムアウトマーケット大阪」。開店から1時間以上、200席のテーブルに誰も座らない。
オフィスワーカーも子連れファミリーも外国人観光客も完全スルー。なぜピカピカの新施設が「廃墟」と呼ばれるのか、フリーライターの宮武和多哉さんが取材した――。
■大阪駅前の「絶好の立地」
それにしても、ガラガラだ……昨年3月に開業した複合施設「グラングリーン大阪・南館」の地下にあるフードコート「タイムアウトマーケット大阪」(以下:タイムアウト)の、閑散とした様子が話題となっている。
広大なテーブル席があるエリアには、開店から1時間を過ぎても誰ひとり座らない。おなじ敷地内に勤務するオフィスワーカーや、地上部の広大な緑地(うめきた公園)にいる子連れファミリー層も、目と鼻の先にある「タイムアウト」に、不思議なほど足を運ばない。SNSで拡散されている廃墟化の現状は、概ね事実であったようだ。
大阪駅ほぼ直結という絶好の立地にありながら、なぜ「大阪駅・ド真ん前の廃墟フードコート」と化してしまったのか。よく言われている「高価格すぎるメニュー」だけではない、「フードコートとしての使いづらさ・尖りすぎた店内」にも、原因があるようだ。
■清掃が行き届いているのに人影なし
実際に見た事実を、ここに記す。平日・午前11時の「タイムアウト」開店後に3時間近く見守っていたが、メインフロアにある200席ほどの木製テーブルには、12時過ぎまで誰も座ることがなかった。念のため他にも複数の日程で確認したが、平日昼間のは大体こんな客入りのようだ。
周辺の人影は薄く、3月に閉店した7店のうち6店が、このメインフロアに接していた。
撤退後のカウンターではキャッシュレス支払機器・電子番号札の電源が入ったまま、もはや「こういうアートなのかな?」と勘違いするほど、綺麗に並べて残置してある。
こういった廃墟は管理も行き届かなくなりがちだが。ここまで清掃が行き届いているのに人影がないのは、筆者も見たことがない。誰もいない退店後の店舗カウンターは、強烈な間接照明がずっと当てられたままで、「明るい廃墟フードコート」の雰囲気を引き立てている……ように見えるのは、気のせいだろうか?
■理由は「値段が高い」だけではない
なぜここまで、「タイムアウト」が客離れを起こしてしまったのか? 高額なメニューが理由とも言われているが、それ以前に、この場所での食事がためらわれる「店内の居心地」が原因ではないか。
まず、メインエリアで最大の面積を占める木製ロングテーブル(24人×6卓)が快適でなく、なかなかくつろげない。付属している椅子がクッションも背もたれもなく、成人男性でも足がつかないほど椅子の座面が高い。もう「硬くて狭くて座りづらい」の一言だ。
世界11カ所にフードコートを展開する「タイムアウト」グループ独自の配置ではあるが、テーブルが幅70cm少々(筆者実測)しかなく、大皿でピザを頼むと向かい側のプライベート空間に入り込んでしまう。料理を何皿も注文して、この狭いテーブルに置こうと考える利用客が、むしろ存在するだろうか?
もうひとつ、ロングテーブルは「座ると妙に目立つ」仕様のようだ。地下1階の薄暗いスペースがさらに薄暗くデザインされているのに、上部にあるカンデラのようなスポット照明で集中して照らされるため、テーブルにいるだけで遠目に見ても目立ってしまうのだ。
実際には他の区画にゆったり過ごせる席もあるのだが、入店後にこの一角だけ見て、「このフードコートは快適ではない」と切り取られた印象を受けて帰られてしまうのは、実に勿体ない話だ。
なお、「タイムアウト」以外の地下1階フロアにはベーカリー・居酒屋など数軒が営業していて、こちらはランチタイムに満席になるほど賑わっている。
「タイムアウト」だけが妙に避けられている現状を、お察しいただけるだろうか。
■オフィスワーカーにも、ファミリー層にも避けられる理由
そんな「タイムアウト」で提供される料理は、シャトーブリアンサンド(1万円)、マルゲリータピザ(3300円)、抹茶パフェ(2800円)など。もう少し低価格メニューはあるものの、最近まで水すら完全有料(小さなペットボトルで200円)など、フードコートとしてはかなり不親切であった。
現状でまったく達成できていない「タイムアウト」の課題は、「上階で勤めるオフィスワーカーのランチ利用獲得」だ。最近は単価1500~2000円程度のお得なランチメニューを設定、水の無料提供(ただし午後3時まで)もようやく始めたものの、まだ知られていないこともあってか、未だに「タイムアウト」はオフィスワーカーから避けられたままだ。
また、目の前にある緑地「うめきた公園」で過ごす「子供連れファミリー層」も、移動距離にして100mもない「タイムアウト」を利用しない。
なにぶん、最短距離で見えている「タイムアウト」入口は急な折れ曲がった階段であり、迂回してエスカレーターを使えるバリアフリー動線が案内されていない。頑張って子供を連れてフロアにたどり着いても、「タイムアウト」のまともなキッズメニューは「子供用うどん」くらいしかなく、選択肢に困るばかりだ。
だいたい、モナリザ像をスプレーで塗りつぶすような現代アートが飾られるゲートを入って、ことさら大音響のレゲエミュージックを流すフードコートに子供を連れて行くには、保護者目線として骨が折れる。
フードコートというより「サブカルチャー的な薄暗い空間」としてのデザインを打ち出し過ぎているのも、子連れファミリー層が「タイムアウト」に入っていかない原因だろう。どうやら、閑散としている理由は、タイムアウトの「根本的な店づくり」にありそうだ。
■外国人客は「高額商品より丸亀製麺
それでも、開業当時の「タイムアウト」は、インバウンド(訪日客)集客のカギとして期待されていたが、こちらにも避けられている。
実際に利用した外国人の方数名に聞いたところ、普段は厄介者扱いされることもあるインバウンドの方に、ちょっと同情するような理由も聞かれた。
グラングリーン近辺のエリアは、関西国際空港への列車が発着する「JR大阪駅・地下ホーム」や、ホテル阪急レスパイア大阪などのラグジュアリーホテルが集積する“インバウンド・富裕層密集エリア”だ。
ホテルに荷物を預けて、「ちょっと美味しいものを食べに行きたい」ニーズを捕まえれば、「タイムアウト」の高額商品も十分に売れるだろう。しかし、「タイムアウト」を利用したインバウンドの方に聞いた反響は、以下のような散々なものであった。
・日本の「タイムアウト」は店舗カウンターの幅が深くて(筆者計測で1m弱)店員との距離が遠すぎる。店員との会話やコミュニケーションが成立しない上に、美味しそうな音や匂いがしないので、全然ワクワクしない

・「インバウンドなら高額商品を買うだろう」とばかりに、商品を押し付けられている気がする。“Don't mess with me?”(日本語意訳:「インバウンドを舐めてるのか?」)」

・リスボンのタイムアウトマーケット(1号店)に行ったことがあるが、テーブルもこんなに小さくなかった気がする。明るくて開放的だった。

・アメリカ風のPOPな内装ばかりが目立って、大阪の雰囲気が感じられない。地元の人もいなさそうだし、何でオコノミヤキとかないの?(注:提供していた店舗は3月に退店済)

・リスボンは名物の「パステル・デ・ナタ(ポルトガル風のエッグタルト)が2ユーロくらい(400円弱)と、それなりに安かった。大阪の「タイムアウト」は高級路線以外の選択肢がない
さらに、広場を挟んで向かいにあるフードコート「うめきたグリーンプレイス」との競争もあるようだ。丸亀製麺・吉野家などは海外から来る人々の人気も高く、「タイムアウト」で提供する職人技の逸品より、日本のチェーン店フードの方を食べたい人も、相当数いるのだ。

1泊10万円台のラグジュアリーホテルに泊まっている人々でも、フロアが直結している「タイムアウト」ではなく、グリーンプレイスで「チェーン店の味」を堪能してしまう……グリーンプレイスはいつも恐ろしく混み合っており、こればかりは一刻も早く「タイムアウト」に分散していただきたいところだ。
■タイムアウトの担当者は…
現在の「ガラガラ」状態を、運営側はどのように感じているのか?「タイムアウトマーケット大阪」担当者にお話を伺った。
■集客状況について
現状については「現時点で課題意識を持って受け止めております」とのこと。
ただ、「タイムアウト」は「大阪という街の変化に合わせて、店舗構成や使われ方を柔軟に更新していくことを前提としています」とのこと。いまの「タイムアウト」は完成形ではなく、これからの変化で集客も改善するかもしれない。
■17店舗中7店舗が閉店した現状について
店舗の入れ替えは個々の事情があるようで「中には売上目標に届かなかったケースもありますが、1年間の出店を一つのステップと位置づけ、その後の海外展開や新業態への挑戦を視野に入れていた店舗もございます」とのこと。つまり、7店の退店は業績不振だけが理由ではない、と述べる。
また、「タイムアウト」は「1年ごとの契約更新が基本(全世界のマーケット共通)」「街の変化に合わせて、常に新しい才能や話題性のある店舗を迎え入れることも、マーケットの価値の一つ」であるといい、当初から店舗入れ替えを想定しているようだ。
なお、今後の新規出店については「4月から6月にかけて3店舗、さらに夏には3店舗の出店を予定している」という。
■「使いづらい」の声は届いている
■空間レイアウトについて
ロングテーブル席については「タイムアウトマーケットのグローバル共通デザインの一つ」であるものの、「日本のお客様にとってやや使いづらいという声も認識しており、海外のお客様に好まれる空間性と、地域のお客様にとっての使いやすさの両立が必要」と考えているそうだ。
今後については「照明や座席の快適性なども含め、大阪の利用シーンに合ったローカライズについて、社内および本国チームと協議を進めております」とのこと。日本の文化に合わせた、使いやすいフードコートとしての改修が待たれる。

■今後について
いま閑散としているランチタイムについては、「近隣オフィスワーカー向けの平日ランチメニュー(1200円前後)」で「日常的にご利用いただける場所」にしていくという。また「タイムアウト」はDJブースも併設しているため、週末やナイトタイム向けの音楽イベントも引き続き開催していくようだ。
■「ピカピカの廃墟」を再生の起爆剤に
「タイムアウト」は高価格・居心地が良くない店内・空き店舗の解消といった現状の改善に向けて動いているが、しばらくは廃墟に近い状況が続くだろう。
しかし、いまはSNSを中心とした拡散で、一気に集客状況が変わる世の中だ。施設全体が閑散としていたショッピングモール「ピエリ守山」のように、むしろ「廃墟」と呼ばれてしまったことが話題となり、復活を果たしたようなケースもある。
担当者が述べたように、「タイムアウトマーケット大阪」は変化を遂げ、もっともっと、更にもっと進化していくであろう。課題はあまりにも山積しすぎているが、この地がフードコートとして、開業当時以上の賑わいを生むことを期待したい。

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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)

フリーライター

大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。

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(フリーライター 宮武 和多哉)
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