現役時代は守備の名手として鳴らした井端弘和氏による「ゴールデングラブ賞」受賞者の守備力チェック。パ・リーグ編に続き、セ・リーグの9人についても語ってもらった。
ゴールデングラブ初受賞となった中日の岡林勇希
気になる菊池涼介のポジショニング
── 9人中、初受賞が5人と新旧交代の印象を受けました。まず投手は、森下投手が初めての受賞となりました。
投手/森下暢仁(広島)初受賞
捕手/中村悠平(ヤクルト)2年連続3度目
一塁手/中田 翔(巨人)初受賞(パ・リーグでは4度受賞)
二塁手/菊池涼介(広島)10年連続10度目
三塁手/岡本和真(巨人)2年連続2度目
遊撃手/長岡秀樹(ヤクルト)初受賞
外野手/塩見泰隆(ヤクルト)初受賞
外野手/岡林勇希(中日)初受賞
外野手/近本光司(阪神)2年連続2度目
井端 投手のゴールデン・クラブ賞と言うと、これまでは最優秀防御率、最多勝のタイトルを獲った選手がそのまま受賞するケースが多かったのですが、今年はタイトルを獲得していない森下投手が選ばれました。森下投手はバント処理、牽制、クイックなど、トータル的に細かなところができています。順当な結果だと思います。
── 捕手はヤクルトの中村選手が2年連続の受賞となりました。
井端 中村選手は優勝チームの司令塔という点が、受賞した大きな理由だと思います。
── 一塁は中田選手がセ・リーグ移籍後初めて受賞しました。
井端 中田選手はパ・リーグ時代に4度受賞しているように、もともと守備には定評がありました。昨年はシーズン途中での移籍でしたが、今年はフルシーズン出場して、安定した守備を披露しました。
── セカンドは10年連続10度目の菊池選手です。
井端 菊池選手の守備に関しては、文句のつけようのないところです。ただ現在32歳と、かつては極端だったポジショニングも、次第にオーソドックスな守備位置で守るようになりました。今後、足が動かなくなってきた時、それをどう補っていくのかが課題になると思います。
長岡秀樹の初受賞は当然の結果
── サードは、かつて井端さんが指導した岡本選手が2年連続で選ばれました。
井端 岡本は2度目の受賞となりましたが、昨年は「うまくなったな。賞を獲ったな!」という感じでした。
── ショートは、高卒3年目の長岡選手が初めて獲得しました。
井端 ショートは長岡選手ですが、今年に限っては当然の結果です。春先に大事なところでエラーをして負けた試合があったのですが、ひるまずに守っていました。1試合1試合、一喜一憂することなく平常心で守り続けていました。
── 外野手は守備機会の多さ、補殺数がひとつの目安になると思いますが、選ばれた3人のそれぞれの印象をお願いします。優勝したヤクルトからは塩見選手が選ばれました。
井端 日本シリーズ第7戦のエラーがクローズアップされますが、シーズン中は好プレーが多く、打った瞬間は「抜けたかな」と思った打球を何度もキャッチするシーンを見ました。塩見選手はスタートがよく、足も速いからギリギリの打球に追いつける。
── 今年ブレイクした中日の岡林選手も初めての受賞となりました。
井端 肩の強さ、コントロールされた送球は、両リーグNo. 1だと思います。それに足も速く、守備範囲も広い。高橋宏斗が投げていた8月7日のDeNA戦で、1試合に2つバックホームで刺しました。あの肩を見せつけられると、今後はランナーも簡単に三塁を回れなくなってくるでしょう。ケガさえなければ、今後10年くらい受賞するほどの能力の持ち主ではないかと思っています。あとは、イージーフライを小手先で捕ろうとして弾くのを注意することです。
── 3人目は近本選手で、2度目の受賞です。
井端 外野手はイチローさんや新庄剛志さんのような強肩タイプと、飯田哲也さんや赤星憲広のように打球へのチャージが強いタイプの2つに分かれます。近本選手は後者で、打球に対するチャージ、捕球してからのスピードが評価されたのだと思います。
── 今回、選ばれなかったけど、気になる選手はいましたか。
井端 桑原将志(DeNA)選手の後逸を恐れずにタイビングキャッチを試みる全力プレーは印象深かったです。またこれまで9度受賞している大島洋平(中日)選手は、今年はセンターだけでなく、レフトを守るなどポジションが定まりませんでした。ふたりとも今シーズンの失策は0でした。もちろん、エラーの数だけでは測れない部分はありますが、受賞してもおかしくないだけの守備力はあると思います。
井端弘和(いばた・ひろかず)/1975年生まれ。堀越高から亜細亜大を経て、98年ドラフト5位で中日に入団。遊撃手として、二塁手の荒木雅博との「アライバコンビ」で中日黄金期を支えた。2013年WBCでは指名打者部門で大会ベストナインに選出された。14年に巨人に移籍し、15年限りで現役を引退。ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞7回。22年1月に侍ジャパンU−12の代表監督に就任した