急成長を遂げたテスラの存在が大きい
ポルシェ・タイカンや、アウディe-tronなど、最近続々と高級EVが市場に登場してきた。
価格は1000万円級が当たり前で「庶民にとっては高嶺の花」、というどころか、「まったく別世界」のような印象を持っているユーザーも多いのではないだろうか。
一方で、EVといえば環境にやさしい庶民派のイメージもあり、日本では世界に先駆けて、大衆向けの大量販売型EVとして日産リーフが登場。
また、残念ながらフルモデルチェンジなしでモデル終了となる、三菱i-MiEVも大衆型EVの普及に大きく貢献した。ここで改めて、三菱自動車の「i-MiEV」開発関係者の皆さんに感謝の気持ちをお伝えしたいと思う。

この他、日産では今秋にアリア、またプジョーe-208など、庶民も少し手を伸ばせば届きそうな価格帯のEVが続々登場する。
それでも、やはりEV市場はプレミアムブランド中心のようなイメージが強い。その理由は、テスラだ。

周知のとおり、いまやテスラは時価総額がトヨタ、ホンダ、日産など日系全メーカーの合計を上まわっているが、こうした現状を予測した自動車メーカー関係者やメディアはひとりもいなかったと思う。
テスラの2003年創業時からアメリカで定常的にテスラを見てきた筆者ですら、ここまでの急速なテスラの成長を想定していなかった。その背景にあるのが、プレミアムEVという考え方だ。
2010年代にテスラによるプレミアムEV市場の開拓が拡大
こうした考え方が、1900年代初頭から何度か訪れた世界的なEVブームのなかで、一度も大きな話題とならなかった。
EVといえば、小型なシティコミューターが主体で、大型電池を搭載するのは公共交通向けのバス等に設定するというのが、学術界の研究者や、自動車産業界の技術者のなかでの定説だった。

そうしたなかで、あくまでもコンセプトモデルとして高級セダンなどをEV化したり、ベンチャー企業が大きな夢を語るためにプレミアムEV戦略を打ち出すケースはあったのだが、どれも一過性の話題で、関連事業や関連戦略は自然消滅していった。
テスラについても、2008年前後の経営不振から一気にV字回復を狙うため、アメリカのエネルギー省による低率融資を受け、モデルS構想を発表した段階では、プレミアムEV市場の拡大について、欧米や日系自動車メーカーは懐疑的な見方をしていた。

ところが、2010年代中盤の時点で、テスラによるプレミアムEV市場の開拓が目に見えて拡大し始め、欧米メーカーのプレミアムブランドとしても「このまま放っておくワケにはいかなくなった」というのが、彼らの本音だろう。
また、これも周知の事実だが、ポルシェ、アウディなどを傘下におくフォルクスワーゲングループでは、2015年に欧米で発覚したディーゼルエンジン制御に対する不正により、同グループの企業イメージと商品イメージは極めて大きなダメージを受けた。そこからのV字回復を狙うため、中期経営改革でEVシフトを掲げ、サプライヤーを含めた業界全体に対する多額の先行投資を行うと表明した。
この動きに、ダイムラーやBMWが結果的に連動したことが、ドイツ車を中心にプレミアムEVのラインアップが多い理由でもある。さらには、欧州連合の欧州委員会(EC)が欧州グリーンディール政策を強く推進するなかで、ジャガーやボルボなどプレミアムブランドが、これを機にEVメーカーへの転身を図る。

EVの製造コストがある一定水準より下がりにくい状況が続き限り、当面の間は、商品イメージの付加価値が高く新車価格が高いプレミアムEVは、EV市場をけん引していくことになりそうだ。