ではその実態はどうなのか。過去にオンラインの精神クリニックに登録したことがある精神科医はその仕組みを知り、「恐ろしくなった」という。
結局、5回の勤務で辞めたという現役の精神科医がみた、遠隔精神クリニックの空虚な実態とは…。
※この記事は、関東X県の精神科救急病院に勤務する現役精神科医・駒木爽氏の書籍『精神科医おどおど日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋・構成しています。
試しに登録したオンラインの精神クリニック
じつは今から数年前、「S病院」と「こころのクリニックS」に加えて、オンラインの「Cオンラインクリニック」に登録したことがある。私は暇を持て余すタイプでもあり、新型コロナの流行とともに在宅ワークが広まったタイミングで試しに勤務してみたのだ。「オンライン診療とはいったいどんなものか」という興味もあった。
サイトで検索すると、2~3時間の短時間から、がっつり8時間の1日シフトまでさまざまな仕事が選び放題だ。ただ、時給は6000~7000円と、医師の非常勤の相場としては格安である。
契約はすべてオンライン。実際にやってみてもサイト上のフォームに必要事項を記入するとわずか数分で登録が完了し、その日から働くことができるようになった。
勤務初日、まずはオンラインで「Cオンラインクリニック」の事務員との面談が設定された。
「……って感じですけど、大丈夫ですね?」
「まあ、大丈夫だと思います」
簡単なやり取りでオンライン精神科医デビューへ
こんなやりとりで、私は「Cオンラインクリニック」の非常勤医として即デビューすることになった。
拍子抜けするくらい簡単で、実際のオンライン診療がうまくいくのか心配していたのだが、やってみると驚くほどマニュアルが整備されていることがわかった.
「診察時間になったら××ボタンを押してください」「診断書はこのフォーマットをコピーして記載してください」「重症そうなら精神科救急を案内してください」……カルテの操作方法から各種書類のテンプレート、推奨薬までフルセットで仕上がっており、自分では何も考えなくても診察できる仕様になっているのだ。
「初診30分、再診15分」の規定に乗っ取り、画面越しに患者を呼び出し、診察を始める。
寝巻き姿の男性が画面の向こうに現れる。この人は「適応障害」の診断を受けており、今回が4回目の受診(再診)だということが画面上のデータでわかる。
「この2週間、いかがでしたか?」
男性はカメラ越しに視線を落とす。
「前よりは落ち込みは少ないです。朝もなんとか起きられています」
「眠れていますか?」
「途中で目が覚めることもありますけど、まあ眠れてます」
「食欲はどうですか?」
「ふつうです」
「では、薬は同じ量で続けましょう」
これで完了だ。再診15分と設定されているが、同じ処方が続いている患者なら実質5分もかからずに終わる。診察が終わると通信は途絶えるので、余った10分間、私は部屋の中で洗濯物を干したり掃除をしたりしていた。
ふるいにかけた患者は基本、9割以上が軽症
患者は、軽症のうつや適応障害、不眠症などがメインであり、重篤な精神障害を持つ患者はあらかじめ対面のクリニックを受診するように促されている。つまり、「Cオンラインクリニック」側で事前に患者をふるいにかけ、軽症のみをターゲットに絞っているわけだ。私が診察した中にも数名、泣きながらつらさを語る患者がいたが、9割以上が症状も軽く、カジュアルに受診したことを感じさせた。
数回の勤務で覚えた“違和感”の正体
休日の暇な時間などに3時間か6時間、都合のよいタイミングで何回か勤務し、診察を続けるうち、気がかりなことが生まれた。再診患者を診る際にカルテを確認すると、どれもその内容が驚くほど薄い。たとえば、ある医師の初診カルテはこんな感じだ。
〔仕事のストレスで落ち込んでおり受診。適応障害で診断書発行し、漢方薬処方〕
カルテにあるのはこの1行のみ。
抑うつ症状はいつから? 外因ストレスは具体的に何があった? 病状の経過は? なぜ漢方を選んだ?
……これらのいっさいが不明なのだ。これでは患者の症状を把握しようがないし、治療の軌道修正も覚束(おぼつか)ない。患者から「前と同じ薬で」と言われれば、私はその言葉に従うことしかできない。
患者は画面の前の医師(=私)を信頼しているにもかかわらず、こちらは根拠も、自信もない治療を施している。このことがだんだんと怖くなってきた。
カルテには診察した医師の名前が記載されている。このオンラインクリニックに勤めているのはどんな医者なのかを確かめてみたくなった。
カルテにあった数名の医師の名前をグーグル検索してみる。
そんな彼らが処方する薬はたいてい「漢方」もしくは「抗不安薬」だった。
そもそも漢方は効かないケースも多いのだが、副作用も少ないため漫然と飲み続ける人が多い。反対に、抗不安薬は即効性があり、患者自身の満足度が得られやすい反面、依存性が高い。専門教育を受けていない医師が、知識不足のまま、いい加減な処方と診断書を乱発する。カルテからはそのことが見て取れた。
患者が不利益を被りかねない空虚な仕組み
一番不利益を被るのは患者だ。とくに初診でハズレ医師を引いた人は気の毒である。医師は全員バイトで、毎回担当医が替わる。「前医が診断してるし」「自分は今日だけだし」「次の人も診てくれるし」…。
こういう条件が揃うと、人は必ず責任感が薄くなる。
私は5回の勤務で「Cオンラインクリニック」をやめた。これがまともな医療だとはどうしても思えなかったからだ。
「やめた」といっても、スキマ時間の単発バイトなのでシフトを入れなければ、勝手に足を洗うことになる。診察もお手軽なら、やめるのもお手軽なのだ。これが私の体験したオンライン診療の実態だった。

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