
映画『セフレの品格 初恋/決意』に主演した行平あい佳。大学卒業後、助監督や絵コンテライターを経て女優になるという異色のキャリアを歩んできた行平が、「セフレ」関係に戸惑う主人公のシングルマザーを演じた。
年齢を重ねた女性の「切なさ」に共感
映画『セフレの品格(プライド)』は、湊よりこのレディコミ大ヒット作品を、『アルプススタンドのはしの方』『女子高生に殺されたい』の城定秀夫監督が実写化した話題作(前編『初恋』は7月21日、後編『決意』は8月4日公開)。
主役の森村抄子を演じたのは、2018年の城定監督作『私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください』で初主演を飾った行平あい佳だ。今年はドラマ『リバーサルオーケストラ』や『風間公親—教場0—』にも出演。『セフレの品格』の主演はオーディションで射止めたという。
「原作は、登場人物の心の揺れを繊細な絵で描いた作品。この世界観を壊さないようにと、オーディションの時点から意識して臨みました。
会場で城定監督とプロデューサーの久保和明さんから『この役をやってみて』と言われたのが、主人公の『抄子』でした。抄子は36歳で、私は当時30歳。自分よりちょっと年が上かなというのがありましたが、抄子役で合格させていただきました。
抄子は、今まで演じた中で最年長。しかも15~16歳の娘がいるという設定。しっかり役作りをしないと嘘っぱちになるなと思いました」

行平あい佳
抄子は派遣社員として働きながら、娘を育てるバツ2のシングルマザー。初恋の相手で産婦人科医の北田一樹と同窓会で再会し、体を重ねた後に「セフレ」の関係を持ちかけられて戸惑う。
「抄子は、『私もこういうことあるわ~』『こういう悩み、あるわ~』と共感する部分が多い、寄り添いやすいキャラクターでした。
例えば30代は一般的には、恋愛する時期がだんだん終わって、結婚していたら子どもも少しずつ大きくなり、女としてはだんだんイベントがなくなる時期。
私はまだ結婚も子育てもしていないですが、20代のころとはイベントの頻度が違うし、楽しみ方も違ってきて、若さと勢いだけでやれていたことができなくなったりもしていて……。女性として年齢を重ねたからこその切なさみたいな部分では、かなり似たようなものを感じました」

青柳翔(左)とダブル主演を務めた
さまざまなシチュエーションで「生っぽい濡れ場」
役作りでは、ボディメイクをしたり、眉毛を抜いたりと、さまざまなアプローチを行った。
「漫画の抄子は体のラインは整っていますが、普通に働いている30代の女性という設定。そこの乖離を埋めたかったので、鍛えながらも、あまり鍛えすぎないようにして、ギリギリのラインを攻めてます。
あと見た目の話で言うと、彼女はよく困った表情をするので、下がり眉が多いんですよ。だから眉毛の上の方を抜いて、最初から困り顔に見えるようにしました。
内面については原作を読み込んで、子育てしている役者の先輩方にお話を聞いたり、自分の母を参考にしたり(笑)。女性は相手によって声のトーンが全然違ったりするので、一樹には高く、娘には低くと緩急をつけるようにしました」

撮影期間は、約3週間。常に原作を携行し、キャラクターの表情とかけ離れないよう気をつけたという。
本編でかなりのボリュームを占めるのが、ラブシーンだ。城定監督が「生っぽい濡れ場を撮って、しっかりとエロスと向き合いたい」と語っているように、さまざまなシチュエーションで絡む場面がある。
「私にとって城定組は、『私の奴隷になりなさい~』以来厚い信頼があるので、ラブシーンも取り立てて緊張せずに済みました。当日やったのは、鏡の前に立って体型確認をするくらい。身なりとテンションを整えて、普通に現場に行く感じでしたね。
ベッドシーンは『やっぱり、このシーンは脱いでよ』とか言われるイメージがあるかもしれないですけど、そんなことは本当にないんですよ。特に城定組においては、事前に監督やプロデューサーと話し合って、不安要素を解消してから臨んでいるので。
それに城定監督は、撮るものを事前に決めて来る方なので、その場で変更することはない。だから毎日スムーズに撮影が進みますし、楽しくて『今日も早く現場に行きたい』という気持ちでした(笑)」
「セフレはあり得ないとは言えなくなった」
相手役の一樹を演じるのは、7歳年上の青柳翔(劇団EXILE)。シーンを重ねるほど、息が合ってくるところがあったそうだ。
「初めて青柳さんとベッドシーンを撮るときは、少し緊張しましたね。ただ、お互い神経質なほうではなかったし、青柳さんは体格も大きくて『どんと来い!』という感じの方なので、私は脱力して完全に任せちゃっていて……。むしろ『先輩に対して気を遣わない人』みたいな感じになっていたと思います(笑)」

男女のシーンとともに見どころなのが、親子共演だ。抄子と一樹が屋台で出会う女性を演じるのは、行平の実の母である寺島まゆみ。
「母と共演できたのはうれしかったですね。しかも素敵なシーンでのおしゃれなカメオ出演でしたし、日活の作品で共演できたというのが、またうれしくて。撮影時はちょっとソワソワしましたが、先輩の胸に、思いきって飛び込んだ形でございます(笑)」
今回の作品は自身にとっては、どんな作品になったのか。
「原作にある感情の揺らぎを、うまく映画でも踏襲できたかなと思っています。だから見ると、心をくすぐられるところがあるはず。
初恋の人や好きだった人を思い出して、思わず連絡してしまう引き金になりかねない作品だと思うので、『初恋の人の連絡先を消してから映画館に来てください』と言いたいです(笑)」
人は、体だけの割り切った関係を続けることができるのか——そう深く考えさせる『セフレの品格』。
「セフレ」というテーマについては、どう考えたのだろう。
「『セフレ』という言葉に対しては、かなり印象が変わりましたね。今までは『セフレの関係だね』って、傍から見て揶揄するようなところがありましたけど、当事者からすると、『セフレ』という状態でしか埋められない事情もある。
抄子と一樹の関係性を体現してからは、『まったくあり得ないでしょ』とは言えなくなりました」

インタビュー後編では、助監督や絵コンテライターを経て女優になった行平の一風変わったキャリアや「ロマンポルノ界の聖子ちゃん」と呼ばれた母・寺島まゆみについて聞いていく——。
取材・文/泊 貴洋
撮影/柳岡創平
場面写真/©2023日活
編集/一ノ瀬 伸
『セフレの品格 初恋/決意』(2023年)
監督・脚本/城定秀夫
原作/湊よりこ『セフレの品格』(双葉社 JOUR COMICS刊)
出演/行平あい佳、青柳翔、片山萌美、新納慎也
「初恋」:川瀬陽太、こころ、伊藤克信、寺島まゆみ、田中美奈子
「決意」:髙石あかり、石橋侑大、大嶋宏成
企画・製作・配給/日活
『セフレの品格 初恋』
36歳、バツ2のシングルマザー・森村抄子(行平あい佳)は、高校の同窓会で、初恋の相手で産婦人科医の北田一樹(青柳翔)と再会する。
『セフレの品格 決意』
一樹は17歳の少女・山田咲(髙石あかり)と出会い、抄子にセフレの関係を終わらせることを提案する。失意の抄子が出会ったのは、23歳のボクサー・市原猛(石橋侑大)。猛と体の関係を持つようになった抄子だったが、一樹のことが忘れられないでいた……。<R15+>
『セフレの品格 初恋』7月21日(金)、『セフレの品格 決意』8月4日(金)、2部作連続公開
公式HPはこちら https://sfriends-pride-movie.com