インフレでも生き残る外食チェーンは? 低価格・高価格ともに通用しなくなった国内外食産業の生存戦略
インフレでも生き残る外食チェーンは? 低価格・高価格ともに通用しなくなった国内外食産業の生存戦略

外食産業が転換期を迎えている。低価格路線を貫いているサイゼリヤが2026年度の通期純利益の見通しを引き下げた。

強気の値上げを行なっていた「カレーハウスCoCo壱番屋」(ココイチ)を運営する壱番屋は、2026年度の純利益が前年度比で2割近く減少している。

 

単一ブランドにおいては、低価格・高価格のいずれも収益モデルに限界がきているように見える。インフレ下の日本における外食産業の勝ち筋はいかなるものだろうか。

企業努力だけでは価格維持が難しいことを露呈したサイゼリヤ

サイゼリヤは2026年度の通期純利益を124億円と予想していたが、4.8%低い118億円に引き下げた。食材費高騰の影響を受け、国内事業の粗利率が2.3ポイント低下。営業利益が予想を下回る見込みだという。

サイゼリヤのハンバーグやミートソースに使われている牛肉はオーストラリア産だ。豪州食肉家畜生産者事業団によれば、2025年5月のオーストラリア産牛肉は、1キログラム当たり734豪セントで2024/25年以降で最高値を更新した。アメリカや中国の需要が強く、高値圏での推移が続いているという。野菜などの食材についても、円安による相対的な購買力の低下や原油高による輸送コストが乗って価格高騰に拍車をかけている状況だ。

サイゼリヤの原価率は2020年度が37.4%で、そこから2年は同水準での推移が続いていた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻やアメリカの急速な利上げで円安基調が鮮明になった2023年度に原価率は39.7%まで上昇。翌年は40%台を超えた。

国内事業の原価率は50%に近づいている。

サイゼリヤはデジタル化の推進やメニューの入れ替え施策などによって価格を維持してきた。この低価格戦略により、今年度の客数がすべての月で前年同月比10%超という脅威的な集客力を誇っているところが、これだけの客数を維持しても、通期の利益見通しを引き下げなければならないほど、原価の上昇圧力が深刻なのだ。

ココイチはサイゼリヤと状況は真逆だ。客単価の引き上げで集客に苦戦しているのである。

2026年度の国内ココイチの客単価は1259円。2020年度は951円だった。リクルートのグルメ外食総研「有職者のランチ実態調査(2026年3月実施)」によると、首都圏・関西圏・東海圏のランチにおける「外食」の平均単価は1338円。2020年は1039円だった。ココイチの客単価は平均よりも80~90円程度安い。市況と比べて、過剰なまでの値上げを行なっているわけでは決してない。

ポイントは消費者の節約志向が高まったことで、平日のランチを弁当で済ませる割合が5年連続で上昇していることだ。

業界全体の単価が上昇したことにより、ココイチを利用する潜在的な客数が減少してしまったのだ。

2026年度のココイチの客数は前年度比3.5%の減少。計画していた客数に届かず、営業利益は計画よりも12.7%低い着地となった。

値下げも値上げも通用しないのであれば、外食チェーンの生き残り策とはいかなるものであろうか?

カフェ業態の中で優位性を確立するに至ったマクドナルド

国内で業績好調な外食企業の特徴は主に2つだ。1つは朝昼夜と休憩時の利用も取り込む全方位型の店舗展開。もう1つがブランドを複数展開する多業態化である。

全方位型で成功している典型的な企業が日本マクドナルドホールディングス(マクドナルド)だ。2025年度は1割を超える営業増益。今年度も営業利益は2.3%の増加を見込んでいる。

マクドナルドは2026年1月~3月の客数が前年同期間比で4.8%増。今年も集客力の強さは健在だ。ファストフード業界の中でも値上げスピードが速かったブランドの一つだが、客数増を維持している。

マクドナルドは早くからランチ以外での利用シーンの取り込み強化に動いていた。

2023年に「本気カフェ宣言」を打ち出し、従来のコーヒーを刷新した「プレミアムローストコーヒー」の提供を開始。2024年1月には「キャラメルラテ」もリニューアルしている。カフェ利用を促したのだ。

マックカフェの「プレミアムローストコーヒー」は税込140円~、「カフェラテ」は220円~、「キャラメルラテ」は280円~と、「スターバックス」はおろか低価格路線の「ドトール」よりも手ごろだ。マクドナルドは、カフェチェーンとの競争においては価格の優位性が際立っている。

2018年からはハンバーガーの肉が2倍になる「夜マック」を導入。朝と昼以外の需要獲得に動いていた。導入後は1店舗当たりの1ヶ月平均売上が2001年の上場以来最高を記録するなど、成果は出ていた。

こうした取り組みを重ねることで、マクドナルドは朝から夜までの需要の受け皿となることができたのだ。

コメダ珈琲店の競合ブランドはドトールでもタリーズでもなくマクドナルド

全方位型で成功している別の企業がコメダ珈琲店のコメダホールディングスだ。5年連続の増収営業増益という快挙を成し遂げている。2027年度も6.5%の増収、8.2%の営業増益を計画中だ。

コメダ珈琲店も食事とカフェの境目をなくすことに成功している業態の一つだ。

その様子はブランド調査からも伝わってくる。

顧客の反応を可視化するスパコロによる、東京都在住の15~69歳5461名を対象に実施した「利用実態調査 コメダ珈琲店編」において、「コメダ珈琲店」利用時に比較候補にあがるブランド・お店の第1位はスターバックスだが、2位がマクドナルドなのだ。コメダ珈琲店は、カフェ業態のドトールやタリーズよりも、ファストフードのマクドナルドが強く意識されているのである。

コメダ珈琲店はスパゲッティやサンドイッチ、ホットサンドなど、喫茶店の「軽食(スナック)」と呼ぶには充実しすぎているほど満腹度の高いメニューを豊富に取り揃えている。

このように、あらゆる利用シーンに最適化した店が強みを発揮する時代なのだ。

ただし、サイゼリヤのセットドリンクバーは税込200円であり、カフェ利用の潜在性は十分にある。しかし、店舗設計がファミリーレストランに最適化しているため、カフェ利用で長時間利用する客を積極的に取りたくないという店舗側の事情がある。サイゼリヤの公式ホームページでは店舗での楽しみ方を紹介しているが、そこでは、カフェ利用を主役に据えていない。食事や飲む場所としての利用が基本なのだ。

低価格路線のサイゼリヤと近い企業が日高屋だ。日高屋は2024年に値上げを行ない、2026年度は2割近い営業増益となった。値上げ効果と飲み需要の獲得で、稼ぐ力を飛躍的に高めている。

一方、日高屋の値上げの道は始まったばかりであり、この高収益体質がいつまで続くのかは未知数だ。値上げで収益性を高めた王将フードサービスは、2025年4月~12月の利益が前年比横ばいで成長性には一服感が訪れている。値上げ限界が訪れた後の打ち手が中長期的な重みを持つのだ。

利用シーンが限定されるサイゼリヤが、原価高騰で価格維持を貫き通すのは難しそうにも見える。価格改定を行なうのか、はたまた別の戦略を打ち出すのかは大いに注目が集まる。

水面下で進めていたココイチの多業態化

多業態化も外食企業のトレンドの一つである。展開するブランドの強化を図っているのが、すかいらーくホールディングスだ。2026年3月に定食チェーン「しんぱち食堂」の運営会社を投資ファンドから110億円あまりで買収すると発表した。

すかいらーくは2024年10月に資さんうどんの運営会社を買収。主力レストランのガストを急ピッチで同ブランドに転換している。これはガストの単価が上がって集客力が落ちたため、低単価の資さんに転換して客数を増やそうというものだ。

しんぱち食堂はガストと比較すると低単価で、出店エリアは都市部の繁華街に集中している。

すかいらーくは郊外のロードサイドに強みを持つため、ブランドと出店形態における弱点を買収によって克服することになるのだ。

吉野家ホールディングスもラーメン店を複数買収しており、そのノウハウを活かして吉野家ブランドの店でもラーメンを提供するようになった。これも牛丼だけでは生き残れない多業態化だ。2025年12月には競合の松屋フーズホールディングスもつけ麺店を取得している。

多業態化については、ココイチも取り組みを強化している。2020年に北海道旭川市にあるジンギスカンの名店を買収。それ以降もラーメン店や博多もつ鍋店などを次々と取得し、2025年12月には夜パフェ専門店を傘下に収めた。

しかし、ココイチには多業態化がすんなりと進まない事業がある。カレーショップの9割がフランチャイズ加盟店なのだ。直営店であれば、転換を進めてブランドポートフォリオを強化できるが、ココイチの場合はフランチャイズオーナーの意向を汲む必要がある。オペレーションや収支計画が様変わりする業態転換を、オーナーが簡単に受け入れるとは考えづらい。

ココイチが直営店での店舗展開を強化するのかどうか。今後の動向には注目だ。

取材・文/不破聡

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