「えっ本当?」X騒然…“ガンビア共和国の日本唯一の公館”は名古屋の食堂の2階だった…店主女性を直撃!
「えっ本当?」X騒然…“ガンビア共和国の日本唯一の公館”は名古屋の食堂の2階だった…店主女性を直撃!

4月中旬、X上でとあるユーザーによる「ガンビア共和国の日本国内唯一の公館は名古屋にある家族経営のアフリカ料理店の2階で、名誉領事は店主のおばちゃん」というポストが話題となった。国の公館といえば、専用の建物があって専任の職員がいるイメージだが、このポストは本当なのだろうか。

真相を確かめるため、その料理店の店主、ビントゥー・クジャビ・ジャロウさんに直撃取材を行った。

「大使館を作ってほしいと政府に手紙を出したら、自分が名誉総領事に」

ガンビア共和国は西アフリカにある小さな国だ。面積は約1万1300平方キロメートルで秋田県とほぼ同じ。人口は約276万人(世界銀行推計)。1965年にイギリスから独立し、1970年に共和国となった。

4月中旬、このガンビア共和国が思わぬ形で注目を集めた。セネガルに三方を囲まれた特徴的な地形の画像を引用する形で、「ガンビア共和国の日本国内唯一の公館は名古屋にある家族経営のアフリカ料理店の2階で、名誉領事は店主のおばちゃん」というポストが拡散。SNS上では驚きの声が相次いだ。

この情報は事実なのか。料理店の店主・ジャロウさん本人に尋ねると、なんと事実であるとの回答が。しかし、今回のXで話題になっていることについては知らなかったという。

「私がこのJOLLOF KITCHENのオーナーで、ガンビア共和国名誉総領事のジャロウです。今回SNSで話題になっていたことは知りませんでした。

ガンビアはまだまだ日本での知名度が低いので、私の故郷を知るきっかけになったら嬉しいです」

ジャロウさんが名誉総領事になったのには意外な経緯があった。

「私が日本に来たのは1991年の2月です。当時はとても寒かったのを覚えています。日本で子どもが生まれてからは、今とは別の名古屋市内の住居を構えて暮らしていました。私は当時大学で英語を教えたり、ガンビアの文化についての講演活動などをしたりしていました」

転機となったのは子どものパスポート更新だった。

「ガンビアは日本に大使館がなく、かねてから本国の政府に大使館を作ってほしいというお願いはしていました。その思いをより強くしたのは弟が結婚することになった時です。娘のパスポートの残存期間が3か月を切っており、飛行機に乗れないということがわかりました。本国に問い合わせたらアメリカかガンビアでしか手続きできないと言われてしまいました。アメリカにあるガンビア大使館に連絡して期間の延長手続きをお願いしたのですが、時間がかかって結局間に合わなかったんです」

この経験から、より熱心にガンビア政府に対し大使館の設置を求めるようになったという。

「大使館ができることで諸手続きも日本にいながら可能になりますし、何より、公式に外交の拠点になります。日本と文化交流をするうえでも窓口がある方がありがたかったんです。

でも本国の回答は渋く、人員や費用の問題で難しいと。

そうした中で2015年に『あなたが名誉領事館を設置して、名誉領事をやってほしい』と手紙が届きました。正直自分が公館の役職を国から任されたことにすごく驚きましたし、どんなことをすればいいのかわからず、不安はありましたが希望でいっぱいでした」

10年以上無給で続ける“名誉”の仕事

こうして2015年に在名古屋ガンビア共和国名誉領事館が開設された。そして、2019年に同領事館は総領事館に格上げされる。

名誉総領事とは一体どんな仕事なのか。

「総領事は政府に雇われた外交官ですが、名誉総領事はあくまで名誉職です。報酬も支援金もありません。10年以上続けていますが、基本的には自分で働いて稼いだお金で活動しています」

その業務は主に3つある。

「1つ目はガンビアの広報活動です。ガンビアという国の文化を日本で広めるために、会議や講演で県外にも足をのばします。特に去年は万博があったので、関西方面にも何度か足を運びました。万博会場では、コモンズという小さな共同パビリオンに展示をしました。費用の見積もりもしましたし、展示の内容についてもガンビア政府と万博協会側の間の仲立ちを行いましたよ。

また、日本政府主催のアフリカ開発会議(TICAD)にも同様に出席します。

ガンビア政府の人間が来日した時は、彼らのホテルの予約や、スケジュールの管理なども行います。今は2027年の国際園芸博覧会に向けての会議が行われており、それにも参加しています」

「2つ目の業務はビザの発給や証明書の発行です。ガンビアには毎年だいたい50~100名の日本人が訪れます。観光目的とビジネス目的が半分ずつくらいですね。外務省のホームページから私の番号を見つけて電話で問い合わせてこられる方が主です。

必要書類について説明し、必要事項を記入したうえで提出してもらい、本国にも大丈夫か確認をしてビザを発給します。

ビザを発給してからもそこで終わりではなく、『どこのホテルが安い』『どこの場所が観光に適している』みたいなアドバイスも継続して行いますよ。せっかく訪れてくれる人がいい経験だったと思ってもらえるようにしたいですからね」

名誉総領事館に訪れるガンビア人についても語ってくれた。

「逆に、名誉総領事館を訪れるガンビア人は毎年50人くらいです。パスポート更新のための必要書類について説明したり、冠婚葬祭などガンビア本国と連絡が必要な手続きをする窓口業務を行なったりしています」

総領事館と違って“名誉”総領事館ではできない業務もあるという。

「在名古屋ガンビア共和国名誉総領事館は、名称に“領事館”とはついていますが、パスポートの発給はできません。

そこが正式な総領事館との大きな違いですね。残存期間が足りなくなった場合にそれを延長する手続きは可能です」

他にも、日本在住のガンビア人の相談窓口としても活動しているようだ。

「3つ目の業務は、いま日本にいる200人ほどいるガンビア人たちの相談窓口です。電話で生活のアドバイスをしています。日本語の勉強の仕方を聞かれたり、安いスーパーや食材について教えたりすることなんかはよくありますよ。ですが、どうしても私ひとりでそれを引き受けるとなると、すべてに対応することは難しいです。大使館があれば外交だけでなく、日本在住のガンビア人の生活もよりよくなると思います。やはり大使館がほしいですね」

領事館の1階は日本唯一のガンビア料理店

名誉総領事館が入る建物の1階にあるガンビア料理店「JOLLOF KITCHEN」。こちらのお店を始めたきっかけについてジャロウさんはこう語る。

「もともと知人を招いて自宅で料理をふるまっていたり知人宅でのパーティーでも料理を作っていました。料理を口にした多くの人から『おいしいからお店を出した方がいい』と言われて始めました。お店を作ったら、料理を出すだけでなく、ガンビアに興味を持ってもらう拠点になれると思ったんです」

現在は夫やスタッフとともに運営している。

「日本で唯一ガンビア料理が食べられるという評判が広まって、全国からお客さんが来てくれています。また、地域の方との交流も増えました。現在はお店でアメリカ人とガンビア人が講師になってマンツーマンの英会話教室も行なっていますよ。

中高生や親子が10名ほど来られています。料理だけでなく文化の交流拠点にもなっているので、お店を作ってよかったと思っています。本場のガンビア料理はスパイスがたくさん使われていて、どれも辛いものばかりなんですが、うちのお店では基本的に日本人の方でもおいしく食べられるように調整しています。ですから、ぜひみなさん食べに来てください!」

電話口の印象はすごく明るく、こちらの質問にも積極的に答えてくれるのが印象的だったジャロウさん。最後に今後について聞くと、答えは一貫していた。

「名誉総領事はずっと続けられるものではないと思っています。だからこそ、大使館を作ってもらえるよう今も政府に働きかけています」

重ねて、こう続けた。

「日本とガンビア、どちらの良さも知っているので、もっと交流が広がってほしい。この記事をきっかけにガンビアにも私の店にも興味を持ってくれる人が増えたらうれしいです」

飲食店の2階にある領事館。

公館にしては珍しい形態をとるこの場所は、ガンビアという国の外交事情とジャロウさんという個人の行動力によって成り立っていた。35年前に日本にやって来たジャロウさんは今日も“名誉”のもとで日本とガンビアをつなぎ続けている。

取材・文/集英社オンライン編集部

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