フランスメディアのRFIは、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が中国の内部文書を入手した結果、中国の丁薛祥副首相が人工知能(AI)用チップの先端製造や設計ソフトなどの分野を扱うトップレベルの攻略チームを配置したことが分かったと報じたとして、米中の「ハイテク競争」が熾烈(しれつ)化している状況を紹介する記事を配信した。

中国の目的は米国とのハイテク競争で一気に追い抜くことだ。

この情報は、中国のAI分野における戦略的配置が国家の最高レベルに引き上げられたことを示す。中国当局は、AI分野での主導権が中国の政権基盤にとって極めて重要だと認識している。

もし米国がトップレベルの技術を掌握すれば、世界のその他の地域は医学や自動運転などの進歩で米国に頼るしかなくなる。軍事戦略の面ではなおさらそうだ。中国当局は、推進を加速させるために多くの異例の措置を講じた。例えば国有設備メーカーの北方華創に対しては、トップレベルの外国人人材に対する報酬の上限を撤廃した。また、米国の禁輸対象となっているエヌビディアのAIチップを、仲介人を通じて他国から迂回して購入した。中国はチップの設計、製造、パッケージングなどの多くの段階に同時に力を注ぎ、米国の技術封鎖を突破することに努めている。

しかし、事情に詳しい関係者が明らかにしたところによると、中国が巨額の資金と人材を投入しているにもかかわらず、中米間には依然として巨大な技術的溝が存在している。エヌビディアの最高レベルのAIチップの演算能力は、華為技術(ファーウェイ)の最も強力な製品の4倍だ。半導体情報を扱う米国企業であるセミアナリシスのアナリストであるレイ・ワン氏は、中国が外国技術に依存せず競争に本格参加したいのなら、自国でEUV露光装置を開発せねばならず、そのためには10年、場合によっては50年を要する可能性があると指摘した。

米中の緊張はさらにエスカレートしつつある。

米国当局は中国のAIラボである北京月之暗面科技(ムーンショット)が米国のアンソロピックのAIモデルから自社のKimi K3モデルを「蒸留」したと非難しており、米国財務長官が制裁の可能性を警告した。「蒸留」とは高度なAIモデルを利用して新モデルを訓練し、コストを下げる手法だ。米国商務省も、中国企業が米国の先進的なチップを不法取得してAIモデルの訓練に用いているかどうかを調査している。これらの非難は報復措置を引き起こす恐れがある。

この対立は、9月に開催予定の中米AI対話や両国首脳の会談を危うくする恐れがある。中国は米国の制裁に対する報復として、海外ユーザーによる自国AIモデルへのアクセス制限を検討しており、米中の協力は見通しが遠のいた。

米中のAIでの競争は技術レベルでの力比べだけでなく、AIの安全と管理という深いレベルでの駆け引きにも関わっている。最近では、オープンAIのAIが暴走して、ハギングフェイスのシステムを攻撃する事故が発生した。ハギングフェイスは世界のAI研究者や技術者に向けてAIモデル、データセット、プログラムの共有プラットフォームを提供している米仏の合弁企業だ。ハギングフェイスは米国のAIには「サイバー攻撃関連のコードやログを分析する」こと自体を「悪質行為」と誤判定する強力な制限が設けられているために、問題解決のために自国のAIを利用することができなかった。そこでハギングフェイスはサイバー攻撃を食い止めるために中国企業の智譜AIが提供するモデルのZ.aiのGLM-5.2を使用した。米国の閉鎖的な安全保護措置が事態をかえって深刻化したことは、実に皮肉だ。

「AIのゴッドファーザー」と称されるヨシュア・ベンジオ氏は上海市で開催された世界人工知能大会(WAIC)にリモート参加して、AIモデルのパラメーターを公開して共有すれば、その措置は引き返すことができず、安全措置はより容易に削除されてしまうと警告し、専門家はしっかりと評価を行いリスクが低いモデルのみを共有すべきだと提案した。中国のAIモデルは発表前に政府の安全性審査を経る必要があるが、現在の規則は発表後の修正をカバーしていない。

多くの中国のAI研究組織は米国のオープンAIやアンソロピックとは異なり、幅広い安全訓練を行うことを重視しておらず、能力向上により専念している。また、幅広い安全訓練を行うための計算資源を欠いている。これらにより、中国で開発されるAIモデルは安全上の問題を抱えている。中国はAI分野に巨額の投資を行っているが、資源と地政学的な制約は依然として発展の最大の障害だ。米国の輸出規制が両国間の「貿易交渉の要」になっており、中国は異例の手段で極めて重要な技術を取得せざるを得なくなっている。

米中の協力の見通しが相互の非難と制裁の脅威によって希望の薄いものになり、世界のAI安全基準の確立をさらに遅らせることが予想される。丁副首相が陣頭指揮をとることは中国当局の決意を浮き彫りにしたが、技術の溝や地政学による圧力が中国がAI分野で米国に追いつく道のりを困難に満ちたものにしている。本来ならば、世界のAIガバナンスがかつてない複雑さに直面する現状で、米中両国が競争しつつも協力の余地を見出すことが重要なはずだ。

中米が協力の余地を見いだせるかどうかは、世界のAIの将来の発展に極めて大きな影響を及ぼす。我々が問うべきなのは、米中のハイテク競争が日に日に白熱化する背景の下で、世界のAIガバナンスは協力への道をまだ見つけ出すことができるのか、それとも分裂と対立に向かうよう運命づけられているのかということだ。

(翻訳・編集/如月隼人)

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