時おり、オーバーツーリズムあるいは観光公害という言葉を聞く。観光の名所に受け入れ能力以上の観光客が押し掛けたために、地元住民の生活が圧迫されてしまうなどの現象を指す。
現地はニールジュ渓谷(尼珠河渓谷)と呼ばれる大渓谷だ。観光地としての潜在力が指摘されてきたが、渓谷を上り下りしようとすれば片道3時間以上もかかってしまうことが、観光客呼び込みの大きな障害だった。そこで、観光用巨大エレベーターの「富姚」を建設した。エレベーターのかごはガラス張りで中から周囲の絶景を楽しめ、毎秒5メートルで288メートルを登り切る。ニールジュ渓谷は、壮大な大自然をより気軽に楽しめ、SNS映えする写真もより気軽に楽しめる観光地に変貌した。巨大エレベーター自体が「映える」被写体で、周囲にドローンを飛ばして撮影する人もいる。
実は、「富姚」の恩恵を最も受けたのは、ニールジュ村に住む小学生約20人だ。「富姚」が開業した今年7月までは、断崖の上の官寨村にある小学校に通うために、片道3時間程度が必要だった。岸壁に彫られた狭い道を歩かねばならず、落下防止のために簡単な鉄の鎖が設けられている場所もあった。
小学生は「富姚」を使って通学できるようになった。ニールジュ村と官寨村の高低差は約500メートルで、「富姚」が設置されているのはほぼ垂直な岸壁の部分なので、通学の際にはまずバスを利用して「富姚」まで行く。「富姚」で288メートルを上昇したら、さらにケーブルカーを利用して登り切る。片道がわずか30分に短縮された。雲南省メディアは、小学生の交通手段を「空中バス」と紹介した。
「富姚」の開業に伴い、現地の1日当たりの観光客受け入れ能力は、それまでの4000人から1万5000人にまで増えた。観光業がもたらす収入は「富姚」その他のインフラの維持に役立つだけでなく、現地の住民に新たな雇用の機会を創出した。
一つ気になることがある。訪れる観光客が大いに増えることは、地元の活性化が加速する望ましい事態であるはずだが、観光客が殺到して、「富姚」を利用する小学生が長時間にわたり順番待ちをせねばならない「オーバーツーリズム」が発生する恐れはないのだろうか。報道によればすでに対策は立てられており、観光客が大幅に増えた場合には地元の小学生のための「専用通路」を設け、優先して利用させることが決まっている。なお、小学生を含む地元住民は、「富姚」を無料で利用できる。











