中国共産党機関紙の人民日報は8月22日から25日に「鐘才文」の評論記事を掲載した。タイトルは「中国経済の活力と強じん性」「中国は世界経済の成長の推進者にしてアンカー」「上半期の成長率4.7%は何を説明しているか」「質の高い発展を促し、確実かつ長期的成長を目指す」というものだ。
「鐘才文」は中国共産党中央財経委員会のペンネーム。この署名記事は中国式にいうと「権威ある評論」で、今後の中国の経済政策の方針を理解する一助になるものだ。今回が初めてではなく、2025年1月23日、9月30日、10月1日、2日、3日、4日、7日にも評論記事をに掲載した。これらの評論は主に24年の中央経済工作会議、第14期五カ年計画期の成果について論じている。
鐘才文記事が発したメッセージ
8月22日~25日に発表された評論が外に向けたメッセージは次の通り。
第一に、中国は長期的な経済停滞期に入ったのではなく、改革の過渡期だ。周知のように、中国の上半期の経済成長率は4.7%で、減速傾向にある。これまで中国経済の成長エンジンだった固定資産投資も落ち込んでおり、雇用情勢も厳しいことから、個人消費も力強さに欠けている。このことから、1990年代の日本のように、長期景気低迷期に入るという向きもある。それに対し、8月22日の評論は次のように述べている。
「中国経済は新旧の成長エネルギーの切り替えの加速化と発展モデルの転換という重要な局面にある。中国経済を分析する際は成長のスピードだけを見てはならず、ましてや特定の四半期や月次指標の数値の上下に一喜一憂すべきではない」。
記事で述べられている「新旧の成長エネルギー切り替え」というのは、中国経済の成長をけん引するための要素が変わることをいう。
第二に、中国経済は世界経済の成長において重要な役割を果たしている。改革開放前は冷戦の影響などを受けたため、結果として「鎖国的」な「自力更生」路線を取ったが、現在は経済のグローバル化が進んでおり、自国経済を世界経済から切り離した形での発展は不可能に近い。現在の中国は国内外の双循環の路線を取り、国内経済に軸足を置いているが、外国との交流も重視している。そのため、「開放」は中国の新たな発展理念の一つになっている。
8月23日掲載の記事は、中国の世界経済における役割を以下の点から述べている。
一つに、中国は世界経済のメインエンジンとなっているという点だ。中国の4.7%の成長率は所期の目標に合っており、世界の経済体(エコノミー)の中では高い方で、「このあたりの風景はひときわ良い」という詩句で表現している。
二つに、中国は世界のサプライチェーンのアンカーとなっているという点だ。新型コロナや地政学的紛争の衝撃的な影響に直面するにあっても、中国は一貫して世界の生産・供給チェーンの強じん性と安定の揺るぎない擁護者であり続けている」と記事は述べ、イラン情勢による原油価格と関連製品の高騰の中で、中国はグリーントランスフォーメーション(GX)を進め、「中国の全社会電力消費量のうち、10キロワット時あたり約4キロワット時がグリーン電力で、新エネルギー車(NEV)の市場浸透率も上昇を続けている。
三つに、中国は世界の科学技術革新の拠点になっているという点だ。記事は「革新は経済発展の重要な内生的原動力であり、中国は自国の革新的な発展理念と成功した実践を通じて、世界規模のイノベーションの主要な舞台の一つとなりつつある」と述べ、グローバル・イノベーション・インデックス(GII)における中国の順位が12年の34位から25年には10位へと飛躍し、ヒューマノイドロボットや人工知能(AI)分野などで目覚ましい成果を挙げ、世界のイノベーションに影響を与えているとした。
8月23日の評論記事は以上の3点を述べたが、このことは中国が世界の経済発展と技術革新において一定の影響力を持っていることを示している。
ただ、中国は「一帯一路」構想を通じて自国の勢力圏を拡大し、他国の発展を抑えようとしているという見方もあるが、記事の後半にも述べられているように、中国の対外開放政策の基本は「互恵・ウィンウィン」であり、経済発展の成果を他国と共有するとしている。
第三に、中国経済には発展の余地がある。中国経済に関する政策文書を見ると、「わが国の経済が長期にわたって上向きに推移していく上でのファンダメンタルズに変わりはない」という文言をよく見る。これは、中国経済はすでに足元が弱くなっていて、長期的な景気低迷が始まるという考え方に反論するものだ。前述のように、経済成長率がやや落ちても、国内には景気の好転を促す力があり、決して悲観すべきではないというメッセージだ。
8月に発表された評論記事では「強じん性」という言葉が頻出しており、中国経済は「足元が悪くなってはおらず」、発展の基盤は強固だというメッセージを発している。
8月22日の評論記事はいくつかの要因を挙げている。
まず科学技術革新の産業競争力への転化が挙げられる。今回の評論記事でよく使われている言葉は「革新」だ。8月22日の記事は、「集積回路(IC)などのコア技術の難関突破において新たな進展が見られ、先発医薬品の研究開発は世界をリードする水準にある。また、中国のロケットは海上および陸上での回収に相次いで成功するなど、数多くの成果が挙がっている。
さらに、新たな成長原動力の支えとけん引役としての役割が高まっている。上半期における装備製造業の付加価値は9.3%増、ハイテク製造業は13.3%増で、良好な発展の勢いを保っている。今後もテクノロジーの活用を通じて新たな発展の余地を切り拓いていくことが期待されている」と述べ、技術革新の成果の実用化が進んでおり、中国の「供給サイド」の改革が進んでいることを示している。
次に、企業の成長だ。中国政府はここ数年、民間企業の発展への後押しを重視しており、「資源配分における市場の決定的役割を果たさせる」という理念の下、競争環境の整備に取り組んでいる。
それと同時に、企業の変革も進んでいる。記事は「中国企業はデジタル・スマート変革を通じて、見事な蝶の羽化のような飛躍的進化を遂げつつある。
このように、中国は「革新」を成長のメインエンジンに位置付けて、ハイテク分野で躍進を遂げたが、まだリスクを抱えている。それについて、記事は次のように述べている。少々長くなるが引用する。
「今年に入ってから、不動産市場の底打ちと安定への回帰傾向が強まっている。一部の1線、2線都市では中古住宅の取引量の増加幅が大きく、新築住宅の取引量を上回った。また、価格の安定化が進み、在庫の圧力もいくぶん緩和されている。
地方政府の既存隠れ債務については、秩序ある借り換えが進んでおり、融資平台(資金調達受け皿会社)の数も継続的に削減されている。中小金融機関の改革とリスク解消、規模の縮小と質の向上は着実に推進されており、地方の高リスク中小金融機関の数は減少している。
総じて、われわれは増加分の厳格な管理、既存分の適切な処理、突発的な破綻の厳格な防止を堅持し、経済分野における重大なリスクの予防と解消に取り組み、システミック・リスクの発生を阻止するボトムラインを死守している。」
上の部分で述べられている不動産市場と地方債務というリスク要因は、外国メディアが注目する中国経済の問題点だ。
金融分野は「実体経済に奉仕する」という方針の下、「カネづくり」の方向への資金の流れを抑制しており、地方債務も「土地財政」で役割を発揮した「融資平台」の数を抑え、債務の整理をしている。ただ、今後、地方財政をどの分野によって支えるか、地方の特性を見つつ決めていく必要がある。
「新型インフラ」の整備を、「質の高い発展」実現の基盤固める中国
中国は「質の高い発展」を掲げている。これは従来の国内総生産(GDP)成長率重視ではなく、発展の質を重視した成長パターンだ。
改革開放以降、中国は年平均9%の成長を遂げ、2000年代初めも8%近くの成長率だった。だが現在、中国は高度成長段階を終え、安定成長路線に転換しており、全体的な成長よりも人々が成長を実感できる方向に転換している。
そのための政策として、長期的には「革新」「グリーン」の理念に基づいた「供給サイド」の強化だが、中央経済工作会議などで中国政府が認めているように、供給サイドは強いが、需要が力強さに欠けるという問題があるため、短期的には需要の喚起につながる政策が必要だ。
8月25日の記事は7月30日に開かれた中国共産党政治局会議で打ち出された「マクロ政策の効果を発揮させ、効果を高める」、「国内需要を効果的に拡大する」といった方針が述べられている。記事は「積極的な財政政策と適度に緩和した金融政策」を引き続き実施するとし、「今年上半期、全国の国庫資金の1日平均残高は比較的高い水準にあり、財政が活用可能な資金を比較的多く抱えていることを示している」と述べ、追加的刺激措置を取る余地があることを示した。ただ、7月30日の政治局会議では、「追加的政策」について「実務的で有効な」の文字がつき、人々の生活や企業の経済活動に結びつくことを重視する姿勢を示した。
また、ここでは4月28日の政治局会議で打ち出された「六張網(6ネットワーク=水供給網、新型電力網、計算力網、新世代通信網、都市地下共同溝網、物流網)」の整備を盛り込んだ。
日本でも「強じんな国土づくり」の一環としてインフラ整備が経済政策の目標として挙げられたが、中国の「新型インフラ」もそれに似ているところがある。
中国共産党は「人民日報」評論記事で、中国経済は「強じん性」を帯びており、「革新」の理念を軸にAI、ロボットなど「新質生産力」のカテゴリーに属する産業を発展させつつ、旧式の生産能力のデジタル化を図る一方で、需要サイドの強化も図っているというメッセージを発した。
中国の経済社会の変化は、短期的に見ると打ち出された政策が効果を発揮していないように見えるが、長期的に見ると所期の目標を達成していると感じられることがよくある。今後の中国経済がどう推移するか、年単位での観察が必要だ。











