前編はコチラ

本格ミステリはジャンルとして成立するのか

――麻野さんはミステリ好きだったんですか?
麻野 うん。
いまでも読んどるよ。我孫子さんのはすぐ読むともったいないので、面白いのがないときに読む用に取ってある。
我孫子 物は言いようやね(笑)。
麻野 俺は騙されるのが好きだから、少々理不尽でもびっくりさせて欲しいのよ。我孫子さんからすると「これはミステリとしてなってない」って物言いがつくような作品も好きかも。こういうこだわり、我孫子さんすごいでしょ。
我孫子 そりゃまあ「これはあかんやろ」ってのはけっこう。
麻野 まえ本屋で立ち読みしたらミステリ界の大御所の島田荘司さんと我孫子さん、他にも有名な作家さんがいて、、座談会をしていたのよ。そうしたら島田さん相手に我孫子さんが説教していて。
我孫子 あー、あれは説教じゃないよ。それ、かなり古いですよね。僕がデビューしたばかりのころですよ。

――なんて言っていたんですか?
麻野 本格ミステリはジャンルとして成立するのかどうなのかみたいな話で、「ジャンルはジャンルとしてちゃんと扱わないと意味がない」みたいなことを。
我孫子 たとえば「こんなのはSFじゃない」という言い方があるでしょう。本格ミステリということばはもう定着していますけど、本格ってちょっと具合が悪い。なんか「本格的」に聞こえるじゃないですか。本格はいいもので、そうじゃないものは一段劣るとか、ダメなものみたいになる。ダメなものだから、SFじゃないとか、本格じゃないって言い方をするのはよろしくない。
――良いか悪いかとジャンルは別もの
我孫子 例えば僕なり麻野さんが、「こういうものが本格ミステリだよね」というジャンル定義をしたとします。それは勝手にすればいいんですよ、個人の自由なので。判定するときに「これは本格ミステリだけど、ダメな本格ミステリだね」と言えばいい。「これは本格じゃない」と言うとジャンルとものの善し悪しの話が混同されてて良くないということです。
麻野 だいたいそうですよね。本格的中華料理と言うと、もうその時点ですばらしい中華料理ってニュアンスが含まれるから。

我孫子 こういう話を20年ずーっとしているんだけど、なかなか理解してもらえない。


サウンドノベルの定義って?

――我孫子さんの「本格」の定義はなんですか?
我孫子 まず謎がある。そしてそれを解決することがメインの興味になっていること。
麻野 犯罪である必要はない。
我孫子 探偵が出てくる必要もない。ただ、謎は必要なんですよ。謎がないミステリってけっこうあるんです。たとえば僕は『殺戮にいたる病』という本を書いています。僕の定義から言うと本格じゃない
麻野 ミステリではある。
我孫子 人が死んでいく捜査小説です。警察がでてきて捜査したり。最後にサプライズのあるサスペンス。

――サウンドノベルの定義は?
我孫子 なんだろうなあ。
――チュンソフトが商標登録しているんですよね。「サウンドノベル」。
麻野 そうなんだ! 知らなかった。
――え?
我孫子 だいぶ前って聞きましたけど。
麻野 はあ、忘れてたんかな。
我孫子 昔「サウンドノベル」で申請したら、サウンドもノベルもあまりにシンプルだからダメだって言われたんですよ。でも「サウンドノベルツクール」は大丈夫だったらしい。
――「ツクール」があるから?
我孫子 そうそう。独特なことばだから。「弟切草」のときは、もともと音とテキストだけで見せるつもりだったから、サウンドノベルというジャンル名をつけた。けど結果的には絵が入った。
挿絵というのもあるわけだから、まあありなのかな。


退屈さを分岐で解消

――どういうふうに書いていったんですか?「かまいたちの夜」の分岐とか。
我孫子 僕の書く分岐は、話に必然性をもたせるために入れているだけなんです。それだけだとテキスト量が少ない、すぐに話が進んじゃって物足りないんですね。だから「ゲームとして、このへんに分岐があったほうがいい」との判断があったら、適宜いれてもらうということになってました。
麻野 たとえどうでもいいような分岐でも、テンポを優先して入れました。「A.お茶を飲んだ。B.コーヒーを飲んだ」。「ドラクエ」も「はい」と「いいえ」の選択肢があるけど、「いいえ」を選んでも話が進行しないで、結局「はい」を選ばないといけないときがあるじゃないですか。
――ありますね。「雷が鳴ってよく聞こえなかったから、もう一度言ってくれ」みたいな。
麻野 そうやることで、ただテキストを読んでいくだけじゃなくて、ゲームに参加してる感じがするし、意識が逸れていくのを解決できる。

我孫子 でも、書いている側からするとなんかだましている感じもある。プレイヤーからすると「分岐するんだから、重要な選択肢かもしれない」と思うかもしれない。そしたら「考えて選んだのに結果いっしょかい!」ってなるでしょ。そういう後ろめたさはある。
麻野 けど、人生なんてそんなもんやと最近思って。
ーー人生!
麻野 すべての選択が重要だったわけではないなと(笑)。昼飯にカレーを食おうがハンバーグ食おうが、まず俺の人生に影響はない。でもすべて選択している。そう考えると、一見意味のないように見える分岐も必要やなと。
ーーたしかに。我孫子さんは、麻野さんやスタッフの分岐を見て加筆したりは。
我孫子 多少直したりとかはありますね。

麻野 こういう性格ですよってのをわからせるためのエピソードも、それをぜんぶ書くんじゃなくて、あえて分岐にしてしまう。A.B.Cどれを選んでも、最小限のことはわかるけど、3つぜんぶ読んだたら「ああそういうキャラクターだったのか」と膨らんでくる。ぜんぶ直列で流しちゃうと、いつまでもキャラクターの説明が続いて退屈になるので、分岐にすることによって解消する
ことはしますね。


ソーシャルゲームはつくってみたい

――最近やっているゲームってなんですか。
我孫子 「俺の屍を越えてゆけ」「ヘビーレイン」。「モンハン」もやってるなあ。
――麻野さんは?
麻野 米光一成さんが関わった「TOEIC TESTスーパーコーチ@DS」を。
――あー、面白いですか?
麻野 そういうゲームやないよ(笑)。TOEICのテストを受けるから、そのまえに復習しようとしてただけだから。
――勉強ソフトですもんね。ほかのゲームは?
麻野 あるはずなんだけどな。あ、「シヴィライゼーション5」はかなり遊んだ。あと、いまハマってるのはiPhoneの「Dungeon Raid」(アプリを起動する)。
――ちょっとやってみていいですか?
我孫子 パズル?
――ちょっとなんか「さめがめ」っぽいですね。2個以上つながってる剣のマークや、薬のマークを指でなぞっていくと、その効果が現れる。あ、面白い。
麻野 クリアがないゲームだからずっとやってる。
――我孫子さんは「かまいたちの夜」以外にゲームの仕事は?
我孫子 ケータイの無料ゲームのシナリオに関わったこともあるんです。。これからケータイもスマフォになっていくだろうし、どんどんコンシューマゲームとの違いがなくなっていくんでしょうね。
麻野 個人的にソーシャルゲームはつくってみたいんだよ。いろいろ企画を出しているんだけどねえ、断られてばっかり。
――どんなゲームなんですか?
麻野 無人島に漂着して生活していくというストーリーで、なんとかして無人島を脱出するんだけど、しばらくするとまた無人島に漂着しちゃう。シチュエーションが違うから、微妙に話を変えるみたいな。
――ソーシャル要素はどこに?
麻野 それはまあ、ビンになにかアイテムを入れて流して、やりとりしてもらったり。
我孫子 無人島がいっぱいあるってこと?
麻野 そうそうそう。自分の無人島があるのよ。ほかの人のは見にいけない。
――自分の無人島ってどういうことですか!(笑)。帰ってくださいよ!
麻野 一応帰るのが目的なのよ(笑)。そこで生活しながらなんとか手段を見つけるっていう。
我孫子 無人島の定義としておかしいかもしれないけど、おもしろいね。何万人も漂着してるんだ。
麻野 これなら何百もストーリーをつくれるんだけど、やっぱり、どこ持って行ってもダメって(笑)。
(加藤レイズナ)

12/21(水)麻野一哉さんと「真かまいたちの夜」制作スタッフも登場の「夜のゲーム大学7~裏側SP!~」阿佐ヶ谷ロフトAにて開催! チケット、お問い合わせなどの詳細はコチラ


後編へ
編集部おすすめ