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語り切れなかったり語り過ぎてたり。書評家・杉江松恋が第159回芥川賞をズバリ予想する

2018年7月18日 09時00分 ライター情報:杉江松恋
第159回芥川賞の受賞作を以下の通り予想する。
芥川賞:高橋弘希『送り火』(「文学界」5月号)
候補作について、それぞれ内容を紹介しておきたい。取り上げた順番は筆者の好みである。

直木賞編はこちら


youtubeもしくはニコ動小説とおフランスざます小説


芥川賞候補5作品のうち、個人的なお気に入りは町屋良平『しき』(「文藝」夏号)だった。ごく単純に言うと「踊ってみた」小説である。高校生の〈かれ〉はネットで「【えふとん】テトロドトキサイザ2号踊ってみた【とらさん】」という男性二人組のダンス動画を見て、それを自分でも完全コピーしてみたいと考える。夜な夜な公園に出かけて練習しているうち、いつも学校でつるんでいる級友の一人も巻き込んで完成を目指すことになる。

と、要約してしまえばこれだけの話なのだが、本作の魅力は視点の位置にある。〈かれ〉やその他の登場人物が同席しているとき、彼らの内面がカーソルを当てられたようにポップアウトし、それぞれの考えが読者に告げられる。男子ABCと女子abcがいれば、それぞれの思い人と思われ人が食い違っているのが丸わかりだ。そんなことになるのは、思春期の内面が不完全だからである。当人が思っているよりも自分の心はあることにこだわっていたり、落ち込んでいたりする。制御しきれない心だから、本人の意思とは別物としてポップアウトした形で叙述されるのだ。題材が「踊ってみた」なのも「ダンスはうまく踊れない」ものだからだろう。思ったとおりに手足は動かない。心も同じことなのだ。不完全な十代の主人公たちが、自分を持て余しながらも他人の言葉には耳を傾け(主人公と弟の関係がいい)、自分は傷ついても友人のことは思いながら生きていく。そういう好感の持てる青春小説だった。

お気に入り、次点は松尾スズキ『もう「はい」としか言えない』(「文學界」3月号)である。作者本人を思わせる劇作家・海馬五郎に突如、フランスから文化賞授与の吉報がもたらされる。そのアール・クレスト賞は実業家が道楽で始めた無名のものなのだが、とある事情からいっとき日本を離れることを欲していた海馬は渡りに船で飛びついてパリまでやってくる。

卑屈な小心者が欲を出したせいで異邦で理不尽な立場に追い込まれる、というスラップスティック・コメディだが、やってくるのがおフランスの花の都ではなく、移民流入の排斥で政治的にも揺れている現実のパリであるということで状況にねじれが生まれるし、日本人であるがゆえの仲間外れ感も募る仕組みだ。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

「語り切れなかったり語り過ぎてたり。書評家・杉江松恋が第159回芥川賞をズバリ予想する」のコメント一覧 2

  • 匿名さん 通報

    松尾スズキはもう新進作家ではないような気がするのだが。

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  • 匿名さん 通報

    平和なデモの参加者を日本刀で斬り殺す計画を立てていて、実際に防衛(庁)でテロをやったテロリスト三島の「三島賞」がまだあるのか。

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