バイエルン戦でも攻守で存在感を示した佐野。世界屈指の名手たちとのデュエルでも負けない地力を身に付け、声価は高まっている(C)Getty Images

マインツSDが漏らした印象深い言葉

 ブンデスリーガの古豪マインツに所属するDFのダニー・ダ・コスタが、チーメイトである日本代表MF佐野海舟について、こんな言葉を口にしたことがある。

「彼とチームメイトとして過ごせる時間が、まだしばらく続いてほしいね」

【動画】佐野海舟が見せた粘りに粘ったディフェンスシーンをチェック

 これはマインツ関係者の気持ちをも代弁していると言っていい。

今、佐野が魅せているパフォーマンスを考えれば、多くのファンが「来季もチームのために活躍してほしい」と願う一方で、「来季はもう別のクラブのユニホームを着ているのではないか」と覚悟をせざるを得ない状況だ。

 クラブにとって放出のメリットはある。リーグ屈指、それどころかリーグ最高水準の守備的MFとなった佐野を売却すれば、マインツには数千万ユーロ規模の大きな移籍金がもたらされる可能性があるからだ。

 現地時間4月10日に行われたストラスブールとのUEFAカンファレンスリーグ準々決勝第1戦後、スポーツディレクター(SD)を務めるニコ・ブンゲルトが「スタジアムにいた誰もが、彼がどれほど傑出した選手か分かったはずだ」と語ったのも印象深い。その言動は、まるで潜在的な交渉相手に対して、佐野の価値を改めてアピールしているかのようだった。

 存在感が顕著となってきた今冬には、SNS上でクリスティアン・ハイデルSDが「サノに6000万ユーロ(約110億4569万円)の価値ある」と発言したかのような情報まで独り歩きした。実際には、ドイツの大手紙『BILD』が「5000万(約92億1000万円)~6000万ユーロでも非現実的ではない価値を持ち得る」という論調で報じたもので、現在の市場価値は2500万ユーロ(約46億円)前後。それでも、移籍金の高騰化が論じられること自体が、ドイツにおける佐野の価値を物語っていると言えよう。

 では、何がここまで佐野の価値を押し上げているのか。

 一つの要因として考えられるのは、昨年12月にウルス・フィッシャー監督が就任して以来、より明確になった守備の役割を、佐野が想像以上のレベルで遂行しているからだろう。

「規律だったり、守備の部分では、特にポジショニングや守り方についてのミーティングも多いし、細かく共有されています。トレーニングでも試合を意識した内容が増えているので、それが少しずつ試合にも出てきていると思います」

 自らそう話すように、新体制下では中盤の底で求められる役割がより整理された。

アンカーとして、両脇の中盤選手が積極的に攻撃へ出ることで生じる広大なスペースを埋めること。そして守備ラインの前で防波堤になり、ボール奪取後には攻撃の起点となること。佐野が担う責任はグッと高まった。

「攻撃でも守備でも、あのスペースで自分がやられるのか、やられないのかで勝負が決まってくると思います」

なぜ欧州で移籍金急騰? メガクラブの関心が囁かれる日本代表MF佐野海舟の市場価値が跳ね上がり続ける“背景”【現地発】

仲間たちからの信望も厚く、チーム残留を望む声も小さくない佐野(C)Getty Images

「常に解決策を持っている」同僚も認める佐野の仕事量

 プレッシャーと戦いながら、ピッチ上で着実に仕事をこなしている。マインツのゲームバランスは、今や佐野を中心に回っているといってもいい。

 そのことを何よりも痛感しているのは、ピッチ上で苦楽を共にする同僚たちだ。CBのダコスタはストラスブール戦で鮮やかなゴールを決めた佐野に対して「あれだけ普段から努力している選手が、ゴールという形で報われたのは嬉しい」と喜び、さらに熱っぽく日本代表MFの貴重さを説いた。

「カイシュウは本当に多くの称賛を受けているし、それは完全に当然のことだと思う。ボールを持てば常に解決策を持っている。すべてのデュエルで身体を張り、とてつもない数のボールを回収し、試合を前へ進めてくれるんだ」

 守って終わりではない。奪って終わりでもない。試合を前進させ、決定付けるタスクまで、今の佐野はできるようになってきている。

仲間たちの信頼が揺るぎないに昇華するのも当然だ。

 もっとも、本人はいつも反省をする。これまで何度も取材に訪れているが、彼が現状に満足する素振りを見せたのは一度もない。

 ブンデスリーガ第26節のブレーメン戦後には2-0で完勝にもかかわらず、個人のパフォーマンス内容に問われ、最初に口にしたのは反省の弁だった。

「個人的なミスっていうのはあるにはあるんですが、それを気にしすぎてそれが続いてしまうっていうのがここ何試合か続いていたんで。そこはあんまり気にしないようにと思っていました。だから、この間の試合よりかはまだましだったかなとは思います。でも後半のキツい時間帯にボールを保持する方法だったり、力の使いどころっていうのは、もうちょっとやっていかないといけない」

 試合全体を落ち着かせ、時間を作り、ゲームの流れを整える。今の佐野が求めているのは、よりハイレベルなゲームコントロールを可能にする力なのだろう。

 その意識は攻撃面にも及ぶ。マインツの中心選手でもあるドイツ代表MFナディム・アミリが負傷で不在だった時期は、積極果敢にゲームコントロールにもチャレンジ。「前に出る動きはどんどん出していこうと思っていた」と振り返る試合が多くなり、守備の軸でありながら、攻撃の推進力まで担った。

 必然的にタスクは増えていったが、プレーの質は落ちなかった。むしろ試合を重ねるごとに、成長の跡を感じさせる。

 今季は、欧州の舞台を経験したことも大きい。

「雰囲気もいいですし、リーグ戦とは違う雰囲気の中でやれています。連戦ですけど、こういうふうに試合をたくさんできるというのは、サッカー選手にとって幸せなことだと思います。この舞台をしっかり楽しみたい」

 マインツはカンファレンスリーグで準々決勝敗退となったが、国際舞台で培った経験は、佐野の中で確かな力としてまた蓄えられていっているのだろう。

 マインツで託される守備の責任、攻撃への積極的な関与、ゲーム全体を読む判断力など一人で担う負担は以前よりも増えている。だが、仕事の積み重ねが現地での高評価へと繋がっている。

 おそらく佐野の市場価値は、今が最高値ではないはずだ。日進月歩の成長曲線がポジティブに続く限り、メガクラブからの関心も囁かれる評価すらまだ始まりに過ぎないのかもしれない。

[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]

編集部おすすめ