大藤が圧巻のプレーで橋本との決勝を制した(C)Getty Images

 ナイジェリアのラゴスで現地時間5月24日に行われたWTTコンテンダーの女子シングルス決勝は、日本選手対決となった。

 WTTコンテンダーとは、世界ランキング21位以下の選手に、若干名の20位以内の選手を入れた32名で競う中堅クラスの世界大会。

その大会で世界ランキング12位の大藤(おおどう)沙月が、同14位の橋本帆乃香をゲームカウント4-1で破って優勝した。出場選手中、世界ランキング最上位の2人なので、この決勝カードは順当とはいえ、不確実性の多い卓球で、このレベルの大会で確実に勝つことは容易ではない。

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 大藤は、粒高ラバー使いの曲者バトラー(インド)、橋本と同じく世界最強レベルのカットマン佐藤瞳を破った。一方の橋本は、これまた頭が痛くなるような癖球のアンチスピンラバーを使ったムカルジー(インド)、世界ランキング17位のチュ・チョンヒ(韓国)を破っての決勝進出。ムカルジーなど、中国の絶対女王・孫穎莎を破ったこともあり、容易どころではない相手だが、2週間前の世界選手権で蒯曼(中国)を破った橋本の敵ではなかった。

 決勝は試合開始早々、2本目のラリーがいきなり22往復も続く白熱の展開となった。橋本のカットに対して大藤が、つなぎのツッツキを混ぜながらフォアハンドで実に9回もフォアハンドでドライブを打ちこむも橋本はこれをことごとく返す。その間、橋本も世界卓球で蒯曼を苦しめた横回転を混ぜたトリッキーなカットを5回送ったが大藤は動じず。

 14球目、大藤が橋本のフォアミドルにドライブし、橋本が身体をかわしながら苦しい体勢でフォアカットをしてボールが浮くと、大藤はフォアで回り込んでいかにもスマッシュを打ちそうな体勢からあえてのツッツキ、しかも台上で絶妙な2バウンド。さすがにノータッチかと思うと橋本が飛び込んで返す。返すんかい!そこからまた攻防は続き、最後は22球目のボールを大藤が橋本の大きく空いたバック側に強打をすると、橋本は待ってましたとばかりに倍返しのブチ切れカットを送って大藤がツッツキでネットミス。スコアはやっと1-1。

なんという試合だ。

 世界最強のカットマン橋本の優勝を予感させるラリーだったが、そうはならなかった。大藤が完璧なカット打ち(カットに対して攻撃すること)を見せたからだ。

 大藤は、5ゲームトータルで212回のフォアハンドドライブとスマッシュを打ったが、ミスをしたのは14回のみ。そのうち9回は、橋本がサービスや横回転ツッツキで仕掛けた場面で、普通のカットに対するミスは5回だけだった。その5回は大藤が失った第2ゲームと、次の第3ゲームに集中しており、他の3ゲームではゼロ。ノーミスだ。いかに鉄壁の守備を誇る橋本でも、返しても返してもこれだけミスなく攻め続けられたら勝ちようがない。

 橋本はミスをしないが大藤もミスをしないのだ。そうなれば当然、速いボールを打っている方が勝つ。橋本が得点するためには、リスクを冒して反撃するしかないが、この試合ではわずかに外れること12回で、成功した8回を上回ってしまった。それだけ無理な反撃をしなければならないほど大藤のカット打ちは完璧だった。

 どちらもミスをしない前提なら、相手のミスを得点源とするカットマンには端から勝ち目はない。だからカットマンの女子シングルス世界チャンピオンは1981年の童玲(中国)以来45年間出ていないし、男子シングルスは73年間出ていない。総論としてはカットマンは不利だ。しかし人間はミスをする。その可能性に勝機を見出すのがカットマンであり、ときにそれは世界選手権の決勝で中国選手を破る偉業を成す。

 大藤は完璧なプレーでその可能性を叩き潰したのである。

[文:伊藤条太(卓球コラムニスト)]

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