震災から2ヵ月半、いま俺たちが聞くべきは、戦争を体験し、そこを力強く生き抜いてきた加藤さんのことばなんじゃないだろうか。話は震災後の発信の仕方について進んでいった。
(取材日:4月22日)
part1、part2
ときどき地面が揺れているだけ
加藤 戦後は、日本に生まれたことが嫌だと思っていた人がたくさんいたんです。でも、日本が嫌なら別の国籍に入るしかないじゃない。そしてその国にはそれなりに、また別な制約や義務がある。私たちが日本人として生まれた以上は、まず日本に対してどう貢献し、それを通して、どのように世界に貢献できるのかを考えないといけない。
――どうやったら立ち上がれますか?
加藤 日本の直すべきところがあるなら、それを一所懸命に考えるだけでもいいんです。あなたは、ものを書くことができるのでしょう? それなら、これからどんどん苦労して乗り越えて、発信力を増してこの国のために尽くすべきだと思います。
――発信といのは、国外に対しても?
加藤 そう。日本は内向きで、世界に対しての発信力が非常に弱いです。海外では「日本は放射能汚染で駄目になっちゃっている」と思われている。
――日本はもう駄目だと聴いたから、避難してこいと。
加藤 「完全に日本は駄目になった、とメディアがヒステリックになっているが大丈夫か?」と聞かれたので、「私はいたって変わらない普通の生活をしている、そちらのメディアがおかしいだけだ」と言ってあげました。「ときどき地面が揺れているだけだ」、と。
海外のメディアに向かって発信するべき
――海外メディアでは、緊急時であっても略奪が起きない日本人の美徳が素晴らしいと報道されている、とニュースで観ました。
加藤 そういう報道も確かです。でも、3月は花粉症でマスクをしている人が多かったのを、放射能のためにマスクをしている、と報道する国もありました。
――風評被害が……。日本は壊滅したと報道していた国もありますよね。
加藤 違う! とはっきり言わないといけないんです。風評被害を打ち消すためには、いくら日本語で言っても駄目なんですよ。いろいろな国のことば、最低でも英語で海外のメディアに向かって発信するべきなんです。
――国内でいくら言っても意味がない。英語で反論していかないと。
加藤 そう。でも、それが上手にできない。こう言われたらこう返す、説得するとわかっている、間違っていることはちゃんと正せる人たちを集めたグループをつくるべきなんですけど、なかなか難しい。そうした発信力の必要性は、戦後、アメリカに行って痛感したんですよ。
――『言葉でたたかう技術』で、旦那さんといっしょにアメリカに渡っていたとき。
加藤 はい。そのときです。アメリカに来た中国の留学生たちは、全米をまわって、日本軍はいかに残虐で悪いかを宣伝して回ったと友人たちから聴きました。日本はうんと悪いことをしているというイメージを持たれていたんです。
――加藤さんのような日本人の留学生もいるんですよね? その人たちはなにも言わなかったんですか?
加藤 鋭い質問ね。その頃の私自身は英語力もなかったし、何もできなかった。他の人たちもしない。「中国からはとても雄弁なプロパガンダがきた」「それが間違っていれば日本人の留学生たちが反論しにくるはずだ。でも日本人の声はまったく聞こえなかった」と言われました。ずっとあとに「日本人が反論しないのは国民性なのか」と冷静に考えてくれた人もいたみたいですけど、そのときは聞こえる声だけを信じちゃうでしょう。
――否定すらしないんですね。
加藤 非難されて反論しなかったら、認めることになる。
――とにかく反論しないと。
加藤 日本はいい人が多いんだから誤解されていたらもったいないじゃない。緊急時にお店に行っても、奪い合いがなく、律儀に列を作るのは珍しいんですよ。国によっては全部強奪されてしまうんです。電車が止まり、道路も機能していないから何時間もかけて歩いて帰る……。日本は一般人がすごいんです!
――暴動が起きてもおかしくはないですよね。
加藤 私は上智のフランス語講師を定年退職してから、そこのコミュニティカレッジで「ノンフィクションの書き方講座」を五年担当しました。そこも定年になるのですが、受講生たちの熱意のおかげで、自主講座としてずっと続いています。皆で外国人たちをインタビューして『私は日本のここが好き!』を出しました。それぞれに日本のよさを語って下さっています。ある外国人はバスに乗ったけれど、お金の数え方がわからなくて、適当にお金を出して取ってくださいと運転手に見せたんです。
――200円の運賃だけど300円とったり、ぜったいに思わないですね。
加藤 そういうことなんですよ。日本には世界一の一般人がいる。一人ひとりが、品位を示しているんですよ。その誇りがある。
――いまの日本人の心には響きますよね。
自分に栄養を与えて
――震災直後、スーパーに行ったときに、若い人はちゃんと並んで買っている人が多かったんですけど、4、50代くらいの人が店員に文句を言っている姿を何度か見たんですよ。イメージとしては若い人の方が言うのかなと思っていたんですけど。
加藤 それはさびしいことですけど、家族がいるかどうかの差なんじゃないかしら。若い人は自分の分だけあればいいけれど、家族がいる年配の人の方が、そういうことを言い出しちゃう。
――まずは自分の家族を守らないと、という必要性というか使命感が。
加藤 そうですよ。若くて独身だったら身軽ですからね。私たちの世代だと、落ち着いていると思いますよ。病院で50代くらいの若い先生と話したときに、「4、50代くらいの患者さんはお薬をもっと出せなどと騒いでいるけれど、年配の人たちは静かだった。年配の人は先が長くないと諦めちゃっているからでしょうか」っておっしゃった。そうじゃなくて、私たちは戦争の時に同じ経験をしているから落ち着いているの。
――いままで乗り越えてきたから。
加藤 知り合いの親子が、地震で瓦礫の山になっている街を見て、娘のほうはパニックになったらしいんですけど、お母様のほうは「あら、戦争のときと同じだわ」とひとつも動じなかったそう。すでに見ているという既視感(デジャ・ヴュ)なんですよね。
――大半の方が、「あのときと同じだ」と思われていたんでしょうか。
加藤 そうでしょうね。壊れちゃったものは仕方がないから、また建てなおしましょうと思うのでは? そこで駄目になっちゃ駄目、立ち上がらないといけないとわかっているんです。あなたも自信がないなんて言っちゃだめよ。自分に栄養を与えて、苦労をかけて育てていらっしゃい。いまが勉強をするとき。でもね、あなたこのあいだ会ったときより、ちょっと大人の顔つきになりましたよ。
――えっ、そうですかね?
加藤 自分でも変わったって感じはない?
――震災からいろいろ考えることは多かったですね。
加藤 男性っぽくなった気がするんですよ。いいじゃない、その調子で頑張るのよ。
(加藤レイズナ)
part4は6/10更新予定!