そんななか、妻が双子を妊娠した。ビョンシクだけでは家事の手が足りなくなるので、もうひとり、新しいメイドを雇い入れることにした。それが主人公のウニ(チョン・ドヨン)だ。
仕事が出来るうえに、溌剌とした美貌の持ち主であるウニは、奥様が使ったあとの風呂場を甲斐甲斐しく掃除する。なぜかミニスカのメイド服で前屈みになりながらバスタブを洗うウニ。生足に水しぶきが光る。そんな様子をドアの隙間からじろーりと見ているご主人様のフン……。
「美人のメイド」。この、たった6文字だけでエロいシチュエーションがいくらでも想像できる通り、映画はこのあと見事に観客のご期待に応える展開になっていく。
思えば、映画が始まってすぐのシーン。
邸宅へメイドとして働きにいく前の、主人公ウニの生活環境を見せていたときから、この映画には死の匂いが充満していた。どこかの街の盛り場を凝ったカメラワークで見せているだけなのに、その時点ですでに“人が死にそう”な予感に満ち満ちている。
案の定、ビルの上に立ったひとりの少女が、そのままどすんと飛び降り自殺をする。遺体はおろか、血糊さえも映さないし、観客はこれが映画だということもわかっているのに、現実の事故現場に遭遇したときのような、「うわぁ、見ちゃったよ……」って気持ちを抱かされる。このイヤ~な感じが、これ以後もずーっとまとわりついてくるのだ。
ここ数年の韓国産ホラー/サスペンス作品のレベルは非常に高い。思いつくままに揚げてみても、「オールド・ボーイ」、「息もできない」、「チェイサー」、「母なる照明」、「黒く濁る村」、「悪魔を見た」などなど傑作揃い。ただ、どの作品も暴力描写が過剰で、バイオレンスに耐性のないわたしなんかは、見ていて辛くなることが多いのも事実だ。
「ハウスメイド」も、見る前はそうした系列にある作品なのかと思っていたが、実際に見てみると暴力描写は控え目ながら、その一方で、格調の高い演出が全編に行き渡った、すごく繊細な映画だということがわかる。
本作の元になったのは、故キム・ギヨン監督1960年の傑作「下女」だ。
これ以上はなんにも言えないから、あとは見てみて。
(とみさわ昭仁)