護国寺に住んでいる。
地方出身者のため、はじめて東京都文京区にある「護国寺」という場所を知ったのは15歳のときだった。

1992年4月30日、護国寺で行われた尾崎豊の葬儀には、雨にもかかわらず4万人近いファンがつめかけ、ワイドショーやニュースの映像を独占していた。尾崎豊という存在は知っていたし、それこそちょうど15歳になったばかりだったので、「15の夜」を友人と歌いあったこともあった。でも、それほどまでに熱狂的なファンがいるということ、尾崎豊という存在の唯一性を、護国寺という場所とともにこの日初めて知ることとなった。

あれからもう20年が過ぎた。
尾崎豊没後20年という節目にあたる今年は、さまざまな「尾崎豊トリビュート企画」が実施されている。各雑誌で特集記事が組まれ、亡くなった月である4月には「15の夜」「I LOVE YOU」など名曲の原詩、謎に包まれたNY時代の日記、ライブMCの原稿など50冊を超える創作ノートをまとめた『NOTES 僕が知らない僕 1981-1992』が発売。秋には東京と名古屋で “「尾崎豊特別展」OZAKI20” という、尾崎豊の軌跡をたどる展覧会も行われた。
だが、「尾崎豊」を振り返り、語り合う上でなくてはならないのは、やはりその歌声にふれることだ。
明日12月1日(土)から全国ロードショーされる「復活 尾崎豊 YOKOHAMA ARENA 1991.5.20」は、その「歌う尾崎豊」にふれることができる絶好の機会だ。

本作は、1988年9月12日の東京ドーム公演を最後にステージに立つことのなかった尾崎豊が、1990年11月に発売された2枚組アルバム「誕生」を引っ提げての「BIRTH TOUR」初日、1991年5月20日横浜アリーナにおいて復活を果たしたライブ映像をまとめたものだ。全22曲のメニューの中から厳選された13曲を、18台ものカメラでおさめた映像素材で再現されている。

ステージ上で尾崎は吠え、叫び、熱唱する。

笑い、汗だくになりながら走りぬけ、そして深々とお辞儀をする。
ギターを抱き、バックバンドと肩を組みながら歌い、激しく鍵盤を打ち鳴らす……
一曲の中だけでも様々な表情を見せてくれる。
また、歌声だけではなく数少ないMCでの言葉が、朴訥とした語り口だけにむしろ印象に残る。

「生まれてからずっと、自分はどう生きるべきかを考えてきた」
「君たちが自分の人生で成功したいと思うなら、Try! Try! Try!」
歌詞同様、生きる上での悩み・葛藤・欲望を混ぜこぜにした重たい響きを放つ。かと思えば80年代を感じさせる少し大きめな白いジャケットを指さして「ニューヨークで買った!」とおどけてみせる。

CDの音、ノートに記された文字だけでは決して知ることがなかった、「生きた尾崎」がそこにいる。陰影のあるメッセージ性豊かな歌詞にばかり気を取られていたが、ステージ上で輝く姿もまた尾崎豊の一面なのだ。
漆黒のステージ上で眩しいスポットライトを浴び、白いジャケット、白いTシャツをまとって歌い上げる尾崎豊。その光と影のコントラストが強いほど、映像の中で生きる尾崎豊の存在感は増していく。
リアルタイムで「尾崎豊」を享受できなかった若い層にとっては貴重な映像集であり、また尾崎と同世代以上の人たちにとっても、テレビ出演は1988年6月22日の「夜のヒットパレード」一度きりだったという事実が、この映像の希少価値をさらに高めてくれるだろう。

MCの中で尾崎は、次のようにも語った。
「僕は、君たちの中に、永遠に生き続けたいと思う」

20年の時を経て、これから後世に渡って語り継がれ、生き続けることになる尾崎豊の姿がそこにあった。


「復活 尾崎豊 YOKOHAMA ARENA 1991.5.20」
FIRE
Driving All Night
十七歳の地図
僕が僕であるために
きっと忘れない
卒業
FREEZE MOON
永遠の胸
太陽の破片
誕生
I LOVE YOU
シェリー
風の迷路

12月1日(土)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー(2週間限定)
2012年/日本/カラー/96分
コピーライト:(C)2012 ソニーPCL/ソニー・ミュージックレコーズ/ISOTOPE INC.

(オグマナオト)
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