●上坂すみれ的音楽談義
───筋肉少女帯や桃井はるこさんの他に、どんな音楽を聞かれてるんですか?
上坂:最近は幅広いですね。
───80年代……って生まれてます?
上坂:いえ……。むしろ生まれてない時代の方が興味があって。どうにも小学校・中学校で最新ポップスに乗り遅れた人なので、じゃあさかのぼったら行き遅れることもないな!って。ザ・ピーナッツとか、ピンクレディーとか、軍歌とか……
───東海林太郎とか。
上坂:そうです! 東海林太郎にハマりましたね。そこから唱歌系にハマり、軍歌にハマり。
───それがテクノ好きに繋がっていくんですか?
上坂:ファミコンは無かったんですけど、ずっと初代ゲームボーイをやり続けていたので、8bitの音色が大好きになって。テクノって幅広くて、デトロイト・テクノとかは単調でガンガン流すみたいのが多いですけど、最近はそういうのも聴き始めました。
●厳しく制限するのはやめよう!
───先ほど、電気グルーヴのことを「電気」って言っていて、通だなあと。
上坂:あっ、これ通じないこともあるので、うっかり言っちゃいました。
───電気や筋少、お好きですよね。ぼくはナゴム・イカ天直撃世代だったんですよ。だから今回セカンドシングルのPVで、上坂さんがカブキロックスとコラボしているのを見て、なんとしたことか!?と。
上坂:ああー(笑)。私、イカ天直撃世代ではないですけど、テクノ御三家からのバンドブームはよく知っていたので、目の前にいらっしゃると物が言えない!みたいな感じでした。
───ナゴムのミュージシャンやイカ天バンドとかは聞くんですか?
上坂:そうですね。たくさんいらっしゃったので、よく聞いていたのは筋少とたまぐらいで、あとは割と浅めなんですけれども。有頂天も意外とあんまりまだ聞いてない……。
───入手しづらいCDもありますしね。
上坂:ほんとメカノ(中野ブロードウェイ3FのCDショップ)さんとかに行かないと無かったりするんです(笑)。ナゴムの系譜を継ぐ、って言うとちょっと違うかもしれないですけど、最近ですとアーバンギャルドさんとかが、あの雰囲気があって、テクノじゃないですか。だから異色だなと思って今、大好きなんです。
───最近の曲もかなり聞かれてますよね。
上坂:そうですね。それこそ「厳しく制限するのはやめにしよう!」っていうのを、かつての色んな教訓から思って。
───昔は制限していたんですか?
上坂:違うんです。ネットとか見ていて「これじゃないから買うのやめました」とか「髪型を変えたからこのバンド追いかけるのやめます」とか。えっ!?って。
───わはは(笑)気持ちとしてはわからなくはないんですけどね。
上坂:わからなくはないんですけど、ほんとは未練があるのに、好きなものに制限をかけるのって、よくないなって。最近の曲だから追いかけるのやめようとかそういうことも思わなくて。それこそアニソンとかは色んなジャンルの曲の可能性があってすごいですよね。
───メタルあり、プログレあり、テクノ歌謡あり。
上坂:『輪るピングドラム』のエンディングの『Dear Future』が本当に好きで。
───COALTAR OF THE DEEPERSですね。
上坂:そうですー! もうかっこよくて! あと神聖かまってちゃんの『電波女と青春男』の曲とか、ヒャダインさんの『日常』の曲とか。私が携わらせて頂いた『中2病でも恋がしたい!』ってアニメのZAQさんが歌ってらっしゃるOPも、色んな要素が混じった新世代のアニソンという感じで。
───アニソンという枠……枠を考えるとだめなんですかね?
上坂:ニューウェーブ的な分野に入ってますよね。……語弊がありますかね?(笑)
●「クラスタ」や「キャラ」や、派閥なんていらない?
───ラジオ「乙女*ムジカ」での話を聞いていて感じたんですが、例えば大槻ケンヂさんや桃井はるこさんは枠にとらわれない活動をされているじゃないですか。そういう人たちの跡を継いで、上坂すみれさんというアーティストがいて、今よくいわれる「クラスタ」とかを破っていくんじゃないかな?と。
上坂:確かに私、「クラスタ」とか「キャラ」とか使うのが苦手で。「お前そういうキャラじゃないじゃん」とか「私そういうキャラだから」とかって聞くとそんなに規格を設けていいのかい?!って思うことがあるんですよね。自分は別に誰かの作品じゃないのに、今日は何キャラだからー、とかっていうのは違和感ありますね
───それに共感した人が「革命的ブロードウェイ主義者同盟」に集まるんでしょうね。
上坂:自分を演じたり、くくったり、規定したりせず、好きなものは好きと言ってほしいなって。そういうことを色んなところで繰り返し言っているので、お手紙とか、Twitterでメッセージいただいたり、ブログにコメントいただいたりして、そういうのに勇気づけられたとか言っていただけるのがほんと嬉しくって。
───上坂さんは趣味とか音楽に対して否定をしないですよね。
上坂:だって、文化じゃないですか。音楽とか作品とかって、元々誰かに好きになって欲しくて作ったものじゃないですよね。
───例えば今は違いますが、昔メタルとパンクが仲が悪かったみたいな、そういう感覚はないんですね。
上坂:私的には派閥とかそういうのは無いですね。派閥があるのはきのことたけのこくらいです。
───わはは(笑)
上坂:あれはただ単にきのこがいつも売れ残って哀しいからいつも言ってるんですけど……。どっちも美味しいとは思いますけど……。メタルとパンクは喧嘩しなくてもいいわけで。共通点とかあるわけじゃないですか。私もメタルから、ロックとかを知ろうと思いましたし、ザ・スターリンとかモーターヘッドとかいいなと思いますし。iPodを聞いていると、オジー・オズボーンの後に、遠藤ミチロウさんが歌いだすとか、そういうのがありますから。
●テクノとニューウェーブ
───カップリング曲もすごいですよね。セカンドシングルの二曲目『テトリアシトリ』は松武秀樹さん。
上坂:すごいですよね! シンセ界の頂点の方が君臨されてしまっていいのかって。恐れ多いです。まさに昭和のテクノっていう雰囲気を出すために「タンス」で作りました!って言ってくださってました。
───タンスとは?
上坂:大きいシンセのマシン(モーグIII-C)です。今パソコン一台で作れるじゃないですか。じゃなくて、つまみをひねって、調整して作るあのシンセで作ったんですってお話を聞いて、感激してしまって。これはもう皆さん、カップリング目当てでもなんでも聞くべきですよね!
───こだわってますねえ。ぼくみたいな素人が聞いてもぱっと聞いてわからないかもしれないんですけど、わかって聞くとグッときますね。
上坂:そうですよね! 私も音の分別までは全然わかんないですけど、電子音っていうよりも「シンセサイザー」って感じしますよね。「テクノとはなんぞ?」な時代の。P-MODELの皆さんが、「テクノってなんですか?」って言われていた時代を彷彿とさせるような、柔らかい音というか。
───当時はテレビ番組とかで「テクノって一体なんですか?」ってミュージシャンがインタビューされてましたよね。
上坂:そうですね。「テクノを知ろう」みたいな番組がいっぱいあったり。それでプラスチックスと、ヒカシューと、P-MODELがいて、解説したりとか。「シンセを触ってみよう」とか。「なんだこの新しいものは」って感じの扱いで。
───OMY(Oriental Magnetic Yellow)の佐野電磁さんの三曲目(※通常版のみ収録)の「SUMIRE #propaganda」はさらにすごくなってましたね。
上坂:あれはまさに、新旧テクノって感じで、ドラムンベースですね。歌うのはすごく大変だったんですけど(笑)スタイリッシュなテクノになっていて、歌も加工されていて、テクノ歌謡というよりはボーカロイドっぽいですよね。
───あれカラオケに入ったら面白いですね。
上坂:高得点を出すのは大変そうですよね。でも、ぜひ頑張っていただきたい!
次回は軍歌と、ルサンチマンについて語って頂きます。
(たまごまご)