ふだん街中を流れる川などでよく見かけるコイ。彼らを釣るとしたら、エサは何を使えばいいのか。
ミミズ、練り餌、ふかし芋、ルアー……。実はそれらよりもっと身近で簡単に手に入り、よく釣れるエサがある。それは、「食パン」。「そんなもので釣れるわけない」と疑う人もいるだろう。そこで、論より証拠、実際に釣ってみることにした。

コイ釣りを初めてやったのは今から30年以上前、中学生の頃だった。
同級生といっしょに釣り道具を自転車にたくさん載せて川まで釣りに行ったことをよく覚えている。その当時、コイは練り餌を団子状に固め、その中に複数の釣り針を埋め込み、さらに団子の下にある針にはミミズやふかし芋を刺してリールさおで仕掛けを川に投げ込んでいた。

そして、さお先が「ククッ」と曲がったら(それがコイのかかった合図)、さおを上げてリールを巻きあげて釣り上げる。こんな釣り方をしていたのだが、この釣り方、道具も餌の準備もそれなりに大変だし、練り餌やミミズの臭いが手に残ってしまうケースもあり、慣れていない人は抵抗感があると思う。

他方、今回チャレンジする食パンはそうした心配は要らないはずだ。釣るための最低限の道具としては、さお(できればリールさお)、釣り糸、針。
あと、浮き釣りにしたいなら、浮きとゴム管、オモリが別途必要。エサは食パンひと袋(みみが付いたもの)程度でいい。

筆者は3.6メートルのリールさおに、浮き仕掛けでやってみた。食パンは、みみのついた部分をむしり取って針に刺すと、水にぬれても針から落ちにくいので白い部分だけよりベター。あとは、エサを川に投入し、残りの食パンを少しずつちぎって川にまいて、コイを集める。

釣りは場所が大事と昔から言われている。
そこで場所選びだが、筆者の地元の川の場合、橋の周辺にコイの群れがよく見られるので、そこをポイントとした。街中の川のコイは肉眼で容易に確認できるケースが多いので、とにかく魚影の濃い場所を見つけることだ。

やってみるとすぐ気づくのだが、この釣りのユニークなのはエサ自体だけでなく、パンがぷかぷかと水面に浮かぶことだ。ゆえに、釣りの世界では「パンプカ釣り」と言われる。その浮かんでいるパンをコイが顔を出してパクリとくわえるところが見られるわけ。その瞬間にさおを上げて、針にかける。
なかなかこれが最初は難しい。

くわえてもすぐに吐き出してしまったりするので、何度も合わせに失敗してしまった。とはいえ、コイのエサを食う様子がよく見えるだけに、「必ず釣れる」と確信してその後もねばり強く続行した。

やっと手つきが慣れてきたとき、突然「パクっ」と大きなコイが食いついた。慌ててさおを上げるとすでにしっかり針が口に食い込んでおり、さおが音を立てて弓なりになった。これはかなり強い引きだ!

格闘の末、最後はコイのエラに指を入れて持ち上げて何とか岸に上げることができた。
測ってみると、なんと70センチ! コイ釣りの世界ではこのくらいのサイズは珍しくないのだが、ビギナーにとってはかなり驚きだろう。

これでまだ終わらない。二匹目がかかった。今度もでかい。引きがハンパではない。やっと近くまで寄せてきたと思った瞬間「バキッ」という嫌な音がして、コイが遠くへ走っていってしまった。
30年ぶりに使ったリールさおが中央部あたりで無残に折れてしまったのだ……。
でも大丈夫。リールさえしっかりしていれば、残ったさおで何とか引き上げられる。コイvs人間の戦いはこうしてまだ続く。さおが折れて人間側が相当不利になってしまったので、びしょぬれ覚悟で川に入ってコイとの距離を詰め、最後は「必殺・腕締め」でコイを抱き上げた。

「おりゃぁ~!」と気合の叫び声とともに、段差があり、足場の悪い岸までやっとこさ持って上がれた。これが一匹目を上回る80センチの巨コイとの格闘であった。

反省点は、今後できれば大きめのタモ網を用意すべきであろう。正直、食パンでこんなに大きいコイが釣れるとは予想だにしておらず、そのため「抱きかかえ」という非常手段になってしまったわけである。

コイを侮るなかれ。口をパクパクしている様子はとてもかわいいが、すごい引きをする巨大な淡水魚の王でもあるのだから。なので、初心者の方はあまり無理せず、安全面を最優先して釣ることをお勧めする。

最後に一句、

食パンや コイが顔出す 夏の川
(羽石竜示)