2015年1月、新春早々、幕を明ける「スタンド・バイ・ユー」は、「最後から二番目の恋」などで人気の脚本家・岡田惠和と「SPEC」「トリック」などで人気の演出家・堤幸彦の豪華な組み合わせの演劇。
「家庭内再婚」という結婚生活への新しい提言をする意欲作の全貌に、岡田、堤、出演者のひとり戸次重幸への取材で迫る!
「最後から二番目の恋」「泣くな、はらちゃん」「ちゅらさん」などの人気脚本家・岡田惠和が初めて舞台に脚本を書き下ろした。そのきっかけはドラマ「最後から二番目の恋」だったという。「もしこれから誰かと恋をするとしたら、それを最後の恋だと思うのはやめよう。次の恋は、最後から二番目の恋だ。その方が、人生は……ファンキーだ!」(第1シーズン最終話 千明のナレーション)など、刺さる台詞満載だったあのヒットドラマを引き金に生まれた作品とは、どういうものなのか?
──まず、岡田さんと演劇の接点を教えてください。
岡田「父親が演劇の音楽を作る仕事をやっていたんです。俳優座とかブレヒトの会とかそういう新劇系のところで。それで、子供の時から演劇に親しんではいたんです。父について稽古場に行くのも好きでした」
──実は演劇エリート?
岡田「いやいや、そんなことは無いです(笑)。よくある、カルチャー少年の行動パターンですけど、大学で、つかこうへいさんの芝居や、鴻上尚史さんの第三舞台を見て、就職した頃が、遊◎機械/全自動シアターや自転車キンクリートなどの小劇場第4世代が出てきた時期で、それを見てはじめて自分に近いと思ったんです。その頃、ライターの仕事をしていた僕は、声をかけてもらって、小劇場の俳優たちの写真集の取材をしました。その中に入っていた劇団ランプティ・パンプティの松本きょうじさんに弟分みたいにかわいがってもらって、しばらくその劇団に通っていました。といっても、なんにもやってないんですけど(笑)。その頃、僕はシナリオの学校にも行っていまして、松本さんの紹介でいろいろやるようになったんです。その流れで、当時の演劇仲間とプロデュース公演をやることになって、僕が脚本を書くことになったのですが、結局、方向性の違いで僕は抜けてしまいました。そんなことがあったので、これまでずっと演劇とは距離を置いていたんですね。そもそも、アンダーグラウンドのサブカルチャーより、エンタメのほうが好きだし、僕には向いているんじゃないかと思っていたこともあって……」
──メジャー志向だった?
岡田「中心の端っこくらいが気持ちいいなと思っていました(笑)」
──20年間以上、距離を置いていた演劇を、今回、やってみようと思われたわけは。
岡田「理由はいろいろあるんですけど、ひとつには連続ドラマ『最後から二番目の恋』(12年、フジテレビ)を書いた時に、すごくいろいろな人から、演劇的だから、このまま舞台にすればいいのに、と言われて。確かに、3幕ものくらいの話だし、場合によってはひとつの家の中だけでも描けるような作品だったので、なるほどなあと思っていた時に、東宝演劇部の仁平プロデューサーからシアタークリエにかける芝居の脚本のお話をいただいたんです。クリエの客層が、僕がこれまで書いてきたドラマを好んでくれる方と近いような気がしたんですね。大人の女性が、恋人や友達と一緒に、ちょっとおしゃれして観に来てくれる、そういう作品を書いてみたいなと思ったんです」
──2組の夫婦の物語という構想はどこから?
岡田「いろいろ話し合った結果ですが、まずは会話劇を突き詰めたいと思いました。『最後から二番目の恋』のワンシーンが長いといっても、テレビ的な限界はあるんですよ。例えば、CMは必ず入るので、CMをまたいでもまだ会話しているというのはなかなか難しいんです。その点、舞台は、制約なしに思い切り会話させられるかなと思って。人数はできるだけ少人数にしました。ドラマだと6人くらいの会話劇で、あまりしゃべっていない人も形にできますが、舞台ははじめてだし、しゃべっている人しかいない空間にしたかったんです。だから、主要な人物は4人ですが、ほとんどふたりの会話です。それこそが舞台でしかできないことかなと思って」
──ドラマでできないことを思い切って。
岡田「思い切ってできました。逆に言うと、ほんとにしゃべらせることのセンスで勝負するしかないので、作家としての力量を問われる。新鮮だし気合いも入ったし、だからこそ、書いていて凄く楽しかったですね」
──会話も楽しいですが、すごい長台詞がありますね。
岡田「安心な俳優さんたちばかりなのでお任せしようと」
──主要な4人は初舞台のミムラさん以外、演劇出身の方ですね。
岡田「小劇場の新旧ともいえる、勝村政信さんと戸次重幸さん、元宝塚の真飛聖さんと、演劇のあらゆるジャンルの俳優が揃っていてすごいですよね。ミムラさんに関して言うと、『銭ゲバ』(09)というドラマをやった時に、一度、舞台調のシーンを書いたことがありまして(6話)。具体的にいうと、ミムラさん演じる、精神に異常をきたしていた女性が、主人公の松山ケンイチさんの前で突如覚醒するというシーンで、ミムラさんは15分くらいひとりでしゃべりまくるんです。その時、彼女、ほぼ一発でOKだったんですよ。それに驚いた記憶があったから、舞台がはじめてという気が僕の中であまりしなくて、全然いけるでしょうと思っています。最初の本読みをやった時にも、なんかもうかなりできあがっているようでしたし」
──岡田さんは俳優さんの個性に合わせて、脚本を当て書きするんですか?
岡田「最初は、キャスティングを考えないで書きました。その後、キャストが決まって、5月に一度、本読みをやった時に、役者さんを目の前で見て、そのキャラに合わせて加筆しました。すごく贅沢な作り方でしたね。たとえば、本読みを見ていて、真飛さんのシーンをもう少し見たくなったから加筆しました。また、勝村さんが、すごい本読みで言いにくそうにしている台詞があったんですけど、それはあえてそのままに(笑)」
──俳優さんにとって苦手そうなことをやってもらうと面白くなるものですか?
岡田「それはありますよね。戸次さんの役は、4人中もっとも好感度が低いかもしれないんだけど(笑)、戸次さんだったら、なんか愛される感じにしてもらえそうなので大丈夫かなと思ったりして(笑)」
──馬場良馬さんの「◯○○」(見てのお楽しみ)は当て書きですか?
岡田「実際にできなくても、演出でそういう効果がでればいいんです(笑)。メインの4人以外に、馬場さんのほか、モト冬樹さん、広岡由里子さんがいて。この方たちだけでもいくらでも面白い場面が書けますよね」
──脇役って、ともすれば、状況を説明したり、場面場面を繋ぐ役割でしかなくなってしまう時がありますが、岡田さんはいつも、そういう役割の人たちも、愛情をもって書いている気がします。
岡田「巧い俳優さんだと、説明台詞で泣けたり笑えたりできるようにしてくれるんですよ。それによって世界が豊かになりますね。実は、そここそ一番大切なんじゃないかと思います。たぶん、親父が演劇の仕事をしていたので、食えない俳優さんが家に来ていたこともあって、どこかで、小さい役でもなんか楽しいと思ってもらいたい気持ちが強いのかなと思います。例えば、この日のオンエアを家族や彼女が見ているんだろうなとか思うと、なにかしらワンクッションになる出番を作りたくなります。連ドラだと、意外とそこが大きくなる可能性もあるし。ほんとに説明だけだと、編集で思い切り切られちゃうかもしれないじゃないですか。説明しなくてもいいかって。でも面白かったら残したくなりますからね」
──台本を読んでおもしろかったのは、2組の夫婦の車に、車種と色が指定してあったことです。いつも具体的に指定するのですか?
岡田「なんとなくのイメージでト書きを書くこともありますし、全く書かないこともあります。今回は、堤(幸彦)さんとやるから、あえて指定しました(笑)。僕が指定したって好きなようにするだろうという屈折した安心感があるんです(笑)。逆にいうと、僕が指定したことによってものすごく大きなことになるのもこわいんですよ。本人はたいした意味もなく書いたことを重くとられて、実現に奔走されることがあるので……」
岡田「例えば、今回はミムラさんの衣裳は黒と書きました。それはト書き通りになったようですが、衣裳の方の仕事の領域を楽しみたいってこともあります。『最後から二番目の恋』で、内田有紀さんの衣裳を、なんとなく高円寺で売ってるような服ですって書いた気がするんですけど、それに合わせて衣裳さんがすごくいい仕事をしてくださって。衣裳がキャラを作っていくくらいになったんです。ト書きって、これどうですか? という提案であって、それを受けたスタッフの方々との化学反応を楽しみたいものなんです」
──今回は、本当にひとつの部屋で、ふたりがずっと会話する時、俳優がどう動くか気になります。岡田さんは台詞を書く時、動きを想像して書くんですか?
岡田「考えないですね。舞台だと座っているだけではいけないんでしょうけど、ドラマだと、ふたりで話している長いシーンがあると、必ず途中で立つじゃないですか。あれは、実をいうと嫌いなんですよ(笑)。リアルだと立たないですよね?」
──たいてい、誰かがコーヒーとか取りにいくんですよね。間がもたなくて。
岡田「なにかしないと間がもたないのもわかるんだけど、なんで話ながら立って歩くんだろう? って思うことが映像ではあります。舞台だと、どういうふうになるか楽しみですね」
(木俣冬)
後編に続く