朝ドラ「あさが来た」(NHK 月〜土 朝8時〜)
第1週「小さな許嫁」9月28日(月)〜10月3日(土)放送
原作:古川智映子 脚本:大森美香 演出:西谷真一

第1週はこんな話


明治34年(1901年)に、日本初の女子大学ができて、その創立に尽力した功労者・白岡あさ(波瑠)が「みんなが笑って暮らせる世の中をつくるには 女性のね 柔らかい力が大切なんです」と挨拶する。
そのとき、あさは51歳。彼女がここに至るまでにどんなことがあったのか。
時間は遡って幕末──着物や髷が当たり前の時代へ。
1860年代の幕末からはじまるストーリーは、朝ドラでははじめてで、大河ドラマのようと思った視聴者もいるようだ。
子供時代のあさ(鈴木梨央)は、「なんでどす?」が口癖で、誰もが当たり前と思ってやり過ごしていることをそのままにできないうえ、男勝りに暴れまわり周囲を困らせてばかり。一方、2歳上の姉・はつ(子供時代・守殿愛生、大人時代・宮崎あおい/崎の大は立)は、あさとはうって変わってしとやか。性格は違えどもふたりは仲のいい姉妹だった。

ふたりにはそれぞれ親の決めた許婿がいる。あさが15歳のとき、彼らが暮らす大阪へと出かける。あさの許婿・加野屋の新次郎(玉木宏)は、はついわく「オトコマエ」だが習い事の三味線に夢中で頼りなく見える。はつの許婿・山王寺屋の惣兵衛(柄本佑)は貧乏ゆすりが激しく表情にも乏しく何を考えているかわからない。はつは、彼の元へ嫁ぐことに涙するものの、父・忠興(升毅)のためにと思い直す。

母・梨江(寺島しのぶ)は、「おなごはなんも心配せんと、ただお嫁にいったらええんどす」と諭すが、あさは、自分を物のようにやりとりされることが疑問でならない。勉強がしたいのに女はしなくていいと止められることにも我慢できない。

ついには押し入れにたてこもるが、新次郎があさ用のそろばんをくれたり、無理して嫁ぐ事はない、ゆっくり考えてからでいいと言ってくれたり、彼女の気持ちに寄り添ってくれることで気持ちに変化が起る。
しかも、実ははつとあさの許嫁は逆だったと知り、あさはびっくり。そのやりとりの際、新次郎があさのことを気に入ってくれていたこともわかって、ますますあさの気持ちは変わっていく。

1週めの功労者・寺島しのぶ


1週目が放送されているとき、福山雅治と吹石一恵が結婚を発表したことを受けて、政治家が、子供を生むことで国家に貢献することを期待しているような発言をして賛否両論を生んだ。http://www.asahi.com/articles/ASH9Z6DVQH9ZUTFK011.html
ちょうど「あさが来た」でも、親の決めた相手と結婚しないといけないことに疑問を呈する主人公を、母親が諭していた。
母・梨江が、自分もそうやって嫁ぎ、はつが生まれて、あさが生まれて(久太郎は???)「お家のために大切な事させてもろたと思うてる」と言っている(5話)。国と家との違いはあれど、まさに、女は子供を生むことこそ重要と思われていた時代が、今回の朝ドラでは描かれる。

ほんとうにそうなの? と不思議に思う主人公あさは、これからどう時代を切り開いていくのだろう。
そんなあさの相手は、決まり事を強要しないし、彼女のやりたいことを優先させてくれるありがたいひと。彼との出会いによって、あさのこれまでの女性の生き方とは違う生き方に向かいやすくなっている。その分、はつのほうが忍耐を強いられそうだ。
いろいろな可能性を閉ざされていた女性がどうやって可能性に近づいていくかが、このドラマの骨格であることを丁寧に描いていた1週で、母・梨江を演じる寺島しのぶが気になって気になって。

忍耐の象徴のように存在している彼女こそ、あさのようなやんちゃな女優なのに、猫をかぶったように(褒めています)夫にかしずいている名演技だった。

現に9月30日放送の「スタジオパークからこんにちは」にゲスト出演した彼女は、あさタイプだと発言していた。これまで、大胆なヌードになる映画に主演したり、フランス人と結婚したり、アグレッシブなことをやってきた寺島。舞台でも、「ベニスの商人」の、男装までして、男顔負けに活躍する利発な女性ポーシャを生き生きと演じたこともある。
だがしかし、彼女がそんなふうになるまでには、子供のときに、男女の差異をまざまざと見せつけられ抑圧されて育ってきた歴史がある。自伝「体内時計+」(ポプラ社)に、歌舞伎役者の家には娘が必要とされていないことにコンプレックスを感じていたことが書いてある。寺島はそれをバネにして女優として活動していくのだ。
明確な男と女の差を見て育ち、その悲しみを身を以て味わってきた寺島しのぶだから、母・梨江が奔放なあさを困ったように見守る姿に、複雑な感情が見えて、物語が奥深いものになる。

「スタジオパーク〜」で褒められていた京ことば共々、寺島しのぶの演技も「あさが来た」の楽しみのひとつだ。
(木俣冬)
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