朝ドラ「あさが来た」(NHK 月〜土 朝8時〜)2月12日(金)放送。第19週「みかんの季節」第113話より。
原案:古川智映子 脚本:大森美香 演出:中野亮平
見事な銀行コント「あさが来た」113話
イラスト/小西りえこ

113話はこんな話


閻魔紙──いまでいうブラックリストが銀行で記され、そこに書かれた4人の人物は、酒浸りの萬谷(ラサール石井)、隠居して暇になってしまった山屋(南条好輝)、行員になった娘を心配する資産家・工藤(曽我廼家八十吉)、わかめがふやけたみたいな羽織の男(瀬戸康史)だった。
1894年、日清戦争がはじまった年、その汚い羽織の男があさ(波瑠)に会いたいと言ってきた。

新次郎の進路


平十郎(辻本茂雄)が閻魔紙に記した要注意人物の特徴が的を射ていて、その観察眼と表現力と、絵心に感動を覚える。

その閻魔紙に載った要注意人物を、あさに会わせるわけにはいかない。もっとも、あさのいでたちなら気づかれないだろうとふんだ平十郎で・・・。

平十郎「〜〜まさか天下の夫人実業家とは・・・」
行員一同「うん」
わかめの男・成澤泉「白岡あささん」
行員一同「え!」

絶妙な喜劇の間。さすが、吉本新喜劇の座長・辻本が中心になっているだけはある。

固くなりそうな銀行業務のエピソードを、銀行コントとして見せて、飽きさせない大森美香の手腕もさすがだ。

さらに、その要注意人物が、本当にやばそうな萬谷のみならず、わけあってちょっと困った人たちにも及んでいる皮肉と、その人(山屋)の相手を新次郎(玉木宏)がしようとして、それこそが新次郎の天職「相談役」(五代が語った、これから必要なのは、ひとの話を聞くこと)になりそうなところだという流れも鮮やか。

しかもそれが、1894年、日清戦争がはじまり、時代がまた変化を見せてきた時であること。新世代の子供・藍之助(森下大地)が自分の道を目指して銀行で働き始め、千代(小芝風花)も含め、子どもたちの進路への葛藤を見つめる、充分な大人の新次郎までもが自分の進む道を考えはじめ、尼崎の紡績工場を辞めて、相談役を選ぶという考え抜かれた構成だ。

そう思うと、わかめの羽織の男が、まさかあさにとって運命的なものをもたらす男だったことを、人間観察に優れた平十郎も気づかなかったように描いているところもニクい。
(木俣冬)

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