「月9」といえども恋愛ドラマじゃないのが当たり前になってきたが、先週からスタートした篠原涼子主演の『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~』が扱うテーマは“政治”だ。

実は「月9」で政治を扱ったドラマは過去にもあって、木村拓哉が最年少首相になる『CHANGE』(08年)がそうだった。
ああ、オバマ旋風が巻き起こっていた時代だったんだな、とタイトルを見るだけでわかる。月9以外にも三谷幸喜脚本の『総理と呼ばないで』(97年)や高橋一生のブレイク作でもある『民王』(15年)などがあるが、数自体はそれほど多くはない。政治ドラマというより、政治家という職業を扱った“お仕事ドラマ”も多い。

『民衆の敵』は“ママが政治家になっちゃった!”的なドタバタお仕事ドラマではなく、政治そのものを描こうとしている野心作だ。公式サイトには「市政にはびこる悪や社会で起きている問題を素人目線・女性目線でぶった斬っていく、痛快で爽快な市政エンタテインメント」と書かれていた。しかし、第1話を観た限りでは、この一文がドラマの良い点と悪い点の両方を一気に言い表してしまっているように感じた。
篠原涼子の政治ドラマ「民衆の敵」は今夜第2話が正念場、野心はいいのに展開が雑な1話が惜しすぎる
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篠原涼子主演、佐藤嗣麻子監督

中卒の貧困主婦が市議会議員に!


主人公はあおば市でオペレーターの仕事をしている主婦・佐藤智子(篠原)。夫の公平(田中圭)と息子の駿平の3人で貧しいながらも平和に暮らしていたが、マニュアル通りの対応ができずに解雇、夫もアルバイトの留学生への対応をめぐって上司と対立して仕事を辞めてしまう。つまり夫婦揃って無職になってしまった。

高校中退で資格もない智子が新しい就職先を見つけるのは不可能に近い。ところが、市会議員になるほうが正社員になるよりはるかに確率が高いことを知り、一念発起して市会議員に立候補する。

智子の動機はズバリ、金。市議会議員の年収は950万。
子どもの送り迎えに使う電動自転車を買うのに躊躇してしまう佐藤夫妻にとってみれば、とてつもなく大きな金額である。ド素人丸出しで選挙活動を始めた智子だが、そこへ優秀な新聞記者だったが「ガラスの天井」に直面して悩んでいた和美(石田ゆり子)が現れて協力を申し出る。

心ないママ友・恭子(『スカッとジャパン』のキャラそのままのMEGUMI)の中傷や、ベテラン市議の磯部真蔵(笹野高史)らの妨害に遭いながらも負けずに選挙活動を続ける智子は徐々に支持を広げていく。そして投票日。落選したと思ったら、最後の議席を争っていた磯部が持病で倒れて智子が繰り上げ当選してしまった! めでたく議員になった智子が、市議会に乗り込んでいったところで第2話へと続く。

嘘ばかりの政民党VS女性市長の共進党! 


ファーストカットでトランプ米大統領の姿や「保育園落ちた日本死ね!」というフレーズを見せていたのは、「これから政治ドラマをやるよ!」という意欲の現れだろう。日本政民党(明らかに自民党のこと)の磯部が演説で「働く女性の味方なんですよ!」と叫んでいるのを見た和美が「嘘ばっかり」と吐き捨てるシーンで「政民党」の旗が全部裏返っているのがおかしかった。

第2話から詳しく描かれる、あおば市議会の構図は、現実をカリカチュアしたものだ。女性市長の河原田(余貴美子)が小池百合子東京都知事であることは一目瞭然。余貴美子は『シン・ゴジラ』でも小池氏を彷彿とさせる防衛大臣を演じていた。河原田と敵対する“市議会のドン”犬崎(古田新太)は“都議会のドン”こと内田茂・元東京都議だ。

市長の河原田と彼女が応援する新人の岡本(千葉雄大)は「共進党」(共産党+民進党)で、犬崎と磯部、元グラビアアイドルの小出(前田敦子)、“市政のプリンス”藤堂は「政民党」だ。智子は今後、共進党の河原田派に入っていく模様。


登場人物が視聴者のほうを向いて何事かを説明するカットが何度も繰り返されるが、これは大ヒットした政治ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(13年)を意識したものだ。沖縄の基地問題やアイヌの問題を扱った佐々木守脚本のドラマ『お荷物小荷物』(70年)でも同様の手法は使われていた。政治ドラマに視聴者を巻き込んでいくための一つの手法なのかもしれない。

サービスカットのつもりなのか、高橋一生と田中圭のヌードのシーンがあり、SNSでは歓声が上がっていた(高橋は2回あった)。

強い篠原涼子が市議会を席捲する?


前半は割合楽しく観られたのだが、後半で明らかに失速した。最大の問題点は、智子が市議に当選するプロセスの説得力のなさだ。

智子が市議になるまでを第1話の中で描いてしまおうという意図はわかる。それぐらいのスピード感とストレスのなさは昨今のドラマではよくあることだ。しかし、お金目当てで立候補した智子が、あれよあれよと仲間を集め、さらに票まで得ていく展開はちょっと急ぎすぎだ。そういえば智子の学歴を見下していたMEGUMIがいつの間にか仲間に加わっていたのも謎だった。1話で議員になるまでを描くより、数話をかけてでもお金目当てだった智子が何らかのきっかけで周囲の共感を得て、勉強を重ねて政策を掲げ、人々の支持を集めていくプロセスをじっくり見せるべきだった。

智子は演説で「幸せになりたい」と繰り返し訴えていたが、それだけで大勢の人たちの共感を得られるとは思えない。
公式サイトにかかれていた「素人目線・女性目線」が悪い方向に転がってしまった。ベテラン市議の磯部が智子と票を低いレベルで争う展開もよくわからない。磯部はベテランなのに、票のとりまとめをしていなかったのだろうか? 

ラストシーンで智子は市議会に乗り込んでいくが、このまま持ち前の正義感と無鉄砲さだけで「市政にはびこる悪や社会で起きている問題」をぶった斬ってしまうのだろうか? 今まで強い女を演じ続けてきた篠原涼子のタレントイメージに頼って話を進めようとすると、無惨なことになる。智子が視聴者を納得させるような政策を打ち出し、周囲を納得させるような展開ができるかどうかが今後のカギを握っている。

脚本は『ウルトラマンX』でシリーズ構成メンバーに名を連ね、『ウルトラマンオーブ』でも重要なエピソードを担当した黒沢久子。プライムタイムの連ドラを担当するのは今回が初めてであり、大抜擢と言っていい。

政権批判、与党批判を行えばSNSを通して「非国民」「反日」という声が飛んでくる昨今、このような形で政治を扱うドラマを作るは非常にチャレンジングな試みだと思う。誰だって政治に対して声を上げてもいいんだ、政治に参加してもいいんだ、という機運につながる可能性だってある。それだけに雑な展開で視聴者から見放されてしまうのは惜しい。小池人気が地に落ちた瞬間にドラマが始まったという逆風もあったが、ここからの挽回に期待したい。第2話は今夜9時から。
(大山くまお)
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