広瀬すず主演、坂元裕二脚本の水曜ドラマ『anone』。世の中からこぼれ落ちてしまったような人たちの物語。
キャッチコピーは「私を守ってくれたのは、ニセモノだけだった。」。

家族のような共同生活を営みはじめたハリカ(広瀬すず)、亜乃音(田中裕子)、持本(阿部サダヲ)、るい子(小林聡美)。そこへやってきた中世古(瑛太)によって偽札づくりに巻き込まれていく。

先週放送された第7話では、いよいよ本格的に彼らが偽札づくりに手を染める姿が描かれていた。明らかな犯罪行為なのだが……不思議なことに、なんだかとても楽しそうだった。
「anone」7話。凄い共演者を吸収し成長する広瀬すずに瞠目。偽札づくりで深まる家族の絆
イラスト/Morimori no moRi

偽札はファンタジー、お金はリアル


偽札はファンタジーで、お金はリアル。ファンタジーはどこかのどかで、リアルは残酷。第7話ではその対比がくっきりと描かれていた。

たとえば、ファーストシーン。偽札づくりについて「まっとうな道を外れることになるの」と言う亜乃音に対して、持本は「初めから道を外しているんです」、るい子は「元から、まっとうな道なんて歩いてません」と言い、結局3人で協力することになる。お互いの顔に洗濯ものをぶつけて笑い合う彼らに、これから犯罪を行うという悲壮感はない。その後、実際に作業している間も「ターバン野口英世」を作ったりと、なんだか楽しそうでもある。

一方、亜乃音によって偽札づくりから外されたハリカは、彦星(清水尋也)の治療のための大金を稼ぐため、昼も夜もバイトに明け暮れる。
しかし、手元にたまっていくのは千円札ばかりで、必要な治療費には到底届かない。挙げ句の果てには、一緒にラブホテルの清掃バイトをしていた初老の女に大切なお金を盗まれてしまう。お金は返ってきたが、女は罪の意識を微塵も感じていなかった。それだけ、はした金だったということだ。逆ギレした女がバラ撒いたお金を必死に拾い集めるハリカ。お金というリアルの前に19歳のハリカはあまりにも無力である。

19歳の女の子の普通とは程遠い犯罪行為


亜乃音はハリカに19歳の女の子らしい普通の生活を送ってほしいと願っていた。しかし、両親に捨てられ、施設で虐待され続け、社会の片隅でひっそりと暮らしてきたハリカにとって、今、生きるために必要なのは、かつて施設を一緒に脱走した仲間であり、今は病魔に苦しむ彦星との約束だった。

ついに偽札づくりに参加するハリカ。しかし、それを見つけた亜乃音は激怒する。偽札づくりは、19歳の女の子の普通とは程遠い犯罪行為だ。

「もっと自分が楽しく生きることを考えなさい!」と悲痛な声で叱責する亜乃音の気持ちを受け止めつつ、自分の気持ちをとつとつと語るハリカ。彼女にはおしゃれもカラオケもデートも不要なもの。
彼女に必要なのは、彦星の治療費だけだ。

「お金ないとダメなんだよ。がんばって、って思ってるだけじゃ助けてあげられないんだよ。いいことしても、大事な人が死ぬんだったら、悪いことしても生きててくれるほうがいいの。そうしたいの。それで、一生牢屋入ってもいいの」

ハリカは彦星ともう一度、流れ星を見ようという約束を守るために必死に生きてきた。それだけが彼女のよりどころなのだ。施設での楽しかった思い出はすべてニセモノだったが、彦星との思い出だけは本物だった。「大切な思い出って、支えになると思う。お守りになると思う。居場所になると思う」というハリカの言葉のとおりである。

このシーン、影がかかっていたり、うつむいていたり、ロングショットだったりで、ほとんど2人の表情は見えないのだが、それでも情感が強く伝わってくる。
田中裕子の演技は相変わらずすごいのだが、それを全身で受け止めて返す広瀬すずもすごい。監督の水田伸生は、広瀬すずがクランクイン当初から間違いなく成長しているとインタビューで証言している。

「コメディ演技は阿部さんから、観客に媚びないトーンは小林さんから、全身全霊を現場に捧げる姿勢は裕子さんから、ときに盗み、ときに学び、表現者としてふくよかになっています」(citrus 2月28日)

この3人から演技力を吸収したら、広瀬すずは将来どんな表現者になるんだろう? 末恐ろしい。

願いごとは泥の中


「僕はね、これを犯罪だと思ってない。金を稼いでいる人は、誰だって違うルールで生きてるんだ」とうそぶく中世古。彼の目的は世の中をハックすることなのかもしれない。

偽札づくりに加えてもらうために中世古を追ってきたハリカだが、実は彼が陽人のことで亜乃音を脅していたことを知る。

「彼女はえらいと思うよ。だって彼女はその子とも、その子の母親とも、血がつながってないんだから。血のつながってない他人を守ろうとしてるんだから」
「他人じゃないよ!」

なけなしのお金を盗まれても怒らず、返してもらったときに思わず「ありがとう」と言ってしまうハリカが、初めて怒りを露わにする。亜乃音の玲(江口のりこ)と陽人への想いを知っているからだが、同時に自分と亜乃音の関係を思い描いていたからだろう。亜乃音は1000万円という大金を失ってでも、自分も守ろうとしてくれていたのだ。怒りのあまり、偽札の機械を壊そうとするハリカ。
しかし、中世古の言葉を聞いて動きが止まってしまう。

「願いごとってさ、星に願えばかなうと思う? 願いごとは泥の中だよ。泥の中に手を突っ込まないとかなわないんだよ」

ハリカは彦星と一緒に流れ星を見るという約束を守るために生きてきた。そのために泥の中に手を突っ込むことはいとわなかった。ラブホテルで精液まみれのベッドやゴミ箱だって掃除してきた。だけど、お金は足りなかった。さっき「がんばって、って思ってるだけじゃ助けてあげられないんだよ」と言ったばかりのハリカにとって、中世古が「希望」と呼ぶ偽札づくりの機械は、同じように希望に見えたのだろう。

偽札づくりファミリー


亜乃音も、ハリカの気持ちを知って偽札づくりを認めてくれた。ただし、それには条件がある。

「もし何かあったときは、私がお母さんになってあなたを守る。ニセモノでも何でも、私があなたを守る。だからあなたは私のそばにいて。
私のそばから離れないで」

血縁はないが家族のような共同体だった彼らだったが、偽札づくりという家内制犯罪手工業を通して、より強固な結びつきを得たように見える。犯罪組織が家族的な色合いを帯びることはよくあることだ。マフィアのグループは「ファミリー」と呼ばれている。

ラストシーンでは、ついに彼らが作った偽札が自動販売機に認識される! 買ったジュースで乾杯するハリカたち。自動販売機には「SANGARIA(サンガリア)」ならぬ「SHANGRILA(シャングリラ=理想郷)」と書かれていた。

とはいえ、花房(火野正平)は亜乃音のあやしげな振る舞いに気がついている模様……。ハリカたちの偽札づくりの行く末から目が離せない第8話は今夜10時から。
(大山くまお)

Huluにて配信中
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