ドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)が、4月7日よりスタートした。主人公の名前は宮本浩。
エレファントカシマシのヴォーカル・宮本浩次をイメージしたキャラ設定であることは明白だ。
エレファントカシマシがみんなのエレカシになった今、ドラマ「宮本から君へ」の覚悟を見守りたい
『宮本から君へ [完全版] 1』/CoMax

ちなみに原作マンガが「モーニング」に連載されていたのは1990~1994年。当時、エレカシがどういう状況にあったかと言うと、アルバム『エレファントカシマシ5』『奴隷天国』『東京の空』、そして一つの究極形とも言える作品『生活』をリリースしていた時期にあたる。
エレファントカシマシがみんなのエレカシになった今、ドラマ「宮本から君へ」の覚悟を見守りたい
『生活』/エレファントカシマシ

連載当時から、作者・新井英樹が主人公にミヤジを重ね合わせていたことは周知の事実。一方、当のエレカシは愛すべき「エピック・ソニー時代」の真っ只中。長年のファンが最も思い入れを持つ時期であり、世間的なブレイク前夜。エピック・ソニーから契約を切られたことがエレカシにとっての転換期となり、ブレイクへの扉をこじ開けるきっかけになるが、要するにバンドは一般的な知名度を未だ獲得していない時期だった。

時を経て、2017年末には『紅白歌合戦』にまで出場することとなったエレカシ。知名度だけではなく、バンドのパフォーマンスは年を経るごとに良くなっている。“みんなのエレカシ”として認知された今、エレファントカシマシが主題歌を担当し、真利子哲也が監督を務めるという布陣でドラマ化される『宮本から君へ』。タイミングとして、非常に腑に落ちるのだ。

「我らが宮本」の名前を授かった主人公


同作の主人公・宮本浩は、暑苦しくて向こう見ず。156話(コミックス最終巻に収録)にて「俺!! 大人になるヒマないですから」という宮本のセリフがある通り、いわゆるそんな人物像だ。
筆者にとっては感情移入しやすい熱い男なのだが、世間からの評は決して“賛”一色というわけではなかった。

音楽ライター・兵庫慎司氏はブログを4月9日に更新、同作に対する連載時の複雑な心境を綴っている。
「不器用で熱くてまっすぐな文具メーカーの新入社員が、ままならぬ仕事やままならぬ恋愛に立ち向かっていく、という内容だったもんで、『何この暑苦しいマンガ』『負けるってわかっててそれでもやるんだ、みたいなヒロイズムすげえイヤ』『こんなもんに我らが宮本の名前を使うんじゃねえよ』みたいな感じで、みんなブーブー言っていた」

「我らが宮本」とは、絶妙な言葉。宮本浩次という人間に対するファンの愛情は深い。2000年放送のドラマ『Friends』(TBS系)にミヤジは売れないシナリオライター役で出演しているが、作中で水をかけられるシーンにファンは憤慨。「なんでミヤジが水ぶっかけられなきゃいけねえんだ?」「宮本、やんなきゃいけねえのか、これ!?」とヒートしたものだ。

今回のドラマ化に際し、主題歌「Easy Go」を書き下ろしたエレカシ・宮本浩次の弁は以下だ。
「真利子監督のこのドラマにかける熱意はすごかったし、真利子監督の主演・池松壮亮氏への想いはさらにすさまじかった。彼らの情熱が私にも移りました。気合いで駆け抜けました。この名作マンガの主題歌を歌えることが誇らしいし、真利子氏のドラマにかける思いはとてもピュアでした」

ここは一つ、期待してみたい。

“青臭さの権化”を演じる池松壮亮


主人公・宮本浩を演じるのは池松壮亮。
大変なキャラクターを演じることになったと思う。
すでに放送された第1話は、『宮本から君へ』全編の中では序章も序章。まだ、助走にも入ってない時期のストーリーが描かれている。

助走を過ぎたら、どうなるか? “青臭さの権化”である宮本の日々は、波乱万丈であり、浮き沈みが激しい。熱さで突っ走り、そのまま成功を重ねるならば『サラリーマン金太郎』のような成り上がり編ができそうなものだが、宮本は必ずしもうまく行かない。意中の女性を射止めたかと思えば、元カレとヨリを戻されてしまったり。仕事では、大勢を巻き込んで無謀な案件にトライするも、結局モノにできなかったり。ケンカっ早さも尋常ではなく、いつも口から血が出てたり、歯が欠けていたり。「大人になるヒマない」の言葉は言い得て妙だ。

そんな宮本にも、恋も仕事も絶好調だった時期は確かにあった。しかし、ある一夜、宮本の彼女がレイプされてしまう。あまりにショッキングで連載終了が早まったとも言われる展開だ。

レイプをした相手は、早大法学部に一発合格して外交官を目指すほどの頭脳があり、日本代表として出場した試合で外国人3人を引きずってトライするほどの怪物ラガーマン。復讐を誓い対決するも、宮本はあっけなく返り討ちに遭う。二度目の対戦は相手が彼女宅から出てくるところを待ち伏せし、ボロボロになりながら勝利。同時に宮本は自信も勝ち取る。同作には成長物語的な側面もある。「こんなもんに我らが宮本の名前を使うんじゃねえよ」と憤るファンの気持ちはわからないもないが、良くも悪くも心に刻まれるキャラクターであることは事実だ。

この役に臨む池松は、以下のような思いを語っている。
「22歳で原作に出会い、衝撃を受けました。それから宮本浩という人は、僕にとって他のどの歴史上の人物よりも星であり、ヒーローでした。人としての力、生き様を物凄く尊敬していました」
「間合い、台詞一つ一つのニュアンスに宮本浩の人間性が浮かび上がると思ってやっていました。『宮本から君へ』は、これまで取り組んできた作品の中でもかなり強敵で、日々模索しながらも、敬意を込めて映像化したいと思っていました」
ルックスに関しては、申し分なし。宮本浩のキャラクターを池松の容姿当てはめると、意外なほどしっくり来る。
驚きだ。

何度も言うが、この作品で大波が来るのは中盤以降。「真利子監督なら上手くやってくれるんじゃないか?」という信頼と期待が、彼にはある。制作陣の覚悟も含め、思い入れ十分で、第2話(今夜放送)以降も見守っていきたい。
(寺西ジャジューカ)
編集部おすすめ