先日、大阪・心斎橋にある東急ハンズにふらっと立ち寄ったところ、日本各地のご当地インスタントラーメンを販売しているコーナーがあった。珍しいカップ麺や袋麺を見るとついつい買ってしまう私にとっては興味を惹かれるコーナーで、「さて、どれを買って帰ろうかな」と物色していると、ある商品に目が留まった。


一般的なインスタントラーメンのパッケージのイメージとはおよそかけ離れたビカビカした派手なデザインで、「OTOMEN 乙女麺」という商品名が表記されている。それ以外の情報は、イラストの中の女性がつぶやく「辛いときに誰かに甘えられる人間になりたかった」というセリフと、「サンカラ オトメン タンタンメン」「からい! つらい! せちがらい!」「大阪限定」という文字列ぐらいだ。なんとなく“辛い”“担々麺”なのだろうな、と推測できる程度で謎が多い。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

このパッケージイラストは、大阪を拠点に活動し、美術家、イラストレーター、マンガ家等と幅広く活躍する原田ちあきさんによるもので、ラーメンの“販売者”は「株式会社やかん亭」と記されている。株式会社やかん亭は、大阪の日本橋に「インスタントラーメンやかん亭さくら総本店」という、日本全国の袋麺タイプのインスタントラーメンを常時300種類以上揃える販売店を運営している会社。大阪を拠点に全国に店舗を構え、日本一のインスタントラーメン専門店として独自の存在感を放っている。


その「やかん亭」が作ったラーメンなら絶対美味しいだろうと思って購入して帰ることにした。


麺も赤く、匂いからして辛い


パッケージを開封すると麺、液体スープ、調味油、「辛激王」という調味料の4点セットが現れる。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

ちなみに、パッケージ裏の調理方法を記した部分のイラストも可愛いので見てください。この鍋の柄よ……。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

それにしても麺が赤い。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

写真では少し伝わりづらいかもしれないので、真っ白い冷凍うどんと並べてみた。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

唐辛子が練り込まれた麺らしく、鼻を近づけてみると匂いからして辛い。
ちょっと怖くなりつつも調理してみた。撮影用に少し手間を加え、ごま油で炒めた豚ひき肉と茹でたチンゲン菜をトッピングして自分の中の担々麺のイメージっぽく作った。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

仕上げに「お好みで入れてください。(激辛注意)」と記載されている「辛激王」という真っ赤な粉を振りかけたら完成。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

早速ガバッと食べてみた。驚くほど辛い。
スープにはまろやかさがあり、甘みも感じるのだが、それはそうとして辛い。辛過ぎる。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

まずはかなり少量のみ入れることにしてみた「辛激王」だったが、結局もうそれで私の限界値ぐらいの辛さだった。食後にどれぐらい使用したかを計ってみたところ、もともと10グラムあった「辛激王」の内容量のうち、自分が使っていたのはたった2グラムであることがわかった。全部入れたらどんな辛さになるんだ!?



辛さを追求しすぎて予算オーバーに


食べ終わってみて、「こんなレベルの辛さの袋麺を作るってすごいな」と、あらためて販売元の「やかん亭」の勢いに「ほほう……」とうならされるような気持ちになった。そうなると開発の舞台裏を知りたくなってくる。
思い切って取材依頼をしてみたところ、株式会社やかん亭の代表取締役・大和イチロウ氏へのインタビューが叶った。

大阪・日本橋の「インスタントラーメンやかん亭さくら総本店」は、アニメ関連ショップや家電量販店が立ち並ぶエリアにある。店内に入ると普段コンビニやスーパーでは見ることのできないインスタントラーメンばかりがずらっと並んでいて壮観である。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

もちろん『乙女麺』も目立つところに置いてある。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺

早速、大和イチロウ氏に色々質問してみよう。
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺
やかん亭の代表取締役・大和イチロウ氏

――『乙女麺』、とんでもなく辛くて美味しくて衝撃的だったのですが、このような商品が生まれたのはどうしてなんでしょうか
「『やかん亭』にはラーメンが大好きな女性スタッフによる“女子部”があるのですが、『乙女麺』はその女子部がプロデュースした商品です。
他の商品に比べて『もっと辛くてもっとおいしい激辛ラーメンを食べたい!』というわがままな希望から生まれたラーメンです」

――女性の目線で生まれたものということなんですね。
「唐辛子の辛さによる美容効果もあって、なおかつヘルシーで、ということでタンタンメンを作ることになったのですが、できあがってみればヘルシーさをまったく感じさせない商品になりました(笑)」

――まず、原田ちあきによるパッケージからしてヘルシーな感じとは真逆な雰囲気ですもんね(笑)
「原田ちあきさんと『やかん亭』は長いお付き合いでして、以前にもラーメンどんぶりなどをデザインしていただきました。今回は、原田ちあき書き下ろしの、ラーメンらしからぬデザインに仕上がり、スタッフ一同大満足です」

――あの別添えの調味料「辛激王」がとても辛くて、しかもとんでもなく内容量がたっぷりでびっくりしたのですが……。
「開発当初は今の半分の5グラムにする予定でしたが、もっともっととインフレした結果、当初の2倍となりました。完全に予算オーバーなんです(笑)ただ、この『辛激王』が気に入ったから単体で販売して欲しいというお客さんの声がたくさんありまして、こんな風に単品でも販売しているんです」
麺まで赤い!日本一のインスタントラーメン専門店が作った辛すぎる担々麺


――あの辛みにはかなりこだわられたのですか?
「すごくこだわりました。『乙女麺』自体は福島県喜多方市の『五十嵐製麺』さんで作っていて、唐辛子を練り込んだ麺もすごく満足いく仕上がりになったのですが、『辛激王』だけは別に福岡県の『タムラ』さんという調味料メーカーで作っているんです。
色々な唐辛子を試したんですが、ここのものが一番スープに合うものだと感じました。『タムラ』さんにたどり着くまでにかなり試行錯誤しましたね」

――あの「辛激王」を全部ドサッと入れて食べる方もいるんでしょうか?
「そういう方もいるかもしれませんが、少しだけ入れて残りはそのまま取っておいて、他の料理に使っていただくのがいいと思います。『辛激王』はただ辛いだけじゃなくて旨みが濃厚なので、色々な料理に合うんです。僕はそうしていますよ」

――大和さんは全部入れる派じゃないんですか?
「辛い物が苦手なんですよ(笑)ほんのちょっと使っただけで限界なんです」

――そうなんですか! 私と一緒で安心しました。開発上、一番苦労された部分はどこだったでしょうか?
「辛さというのは人によって感じ方がだいぶん変わるので、どなたにでも辛くて旨いものを目指しました。具体的には麺とスープのハーモニーです。麺をすすったときの辛さと、スープの辛さの差別化に苦労しました。結果的にすごくリピーターの方が多くて、一度目は怖いもの見たさで食べて、美味しかったからということでまた買っていただけるのが嬉しいです」

――『乙女麺』が現在購入できるのはどこですか?
「店舗ではやかん亭とそのグループ店のみの限定販売です。遠方の方は『やかん亭』のオンラインショップで購入していただくこともできます」

――ありがとうございました! 今日もまた買っていきます。

インスタントラーメンが好きで普段色々新商品を買って食べているような方には、ぜひ手に取って欲しい一品だ。パッケージから中身の味の隅々まで、インスタントラーメンに関する膨大な知識を持つ「やかん亭」だからこそのこだわりが行き渡っていると感じた。自分にとっては完全に限界な辛さなのだが、また食べたくなる。あの「辛激王」を全部入れて食べられる人がいたらぜひ会ってみたいです。
(スズキナオ)


取材協力:
インスタントラーメンやかん亭さくら総本店
住所:大阪府大阪市浪速区日本橋5-17-20