柏木ハルコ原作、吉岡里帆主演のドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』も今夜が最終回。先週放送された第9話の視聴率は上向き加減の6.5%。
ようやく重いテーマも視聴者に浸透してきたのかもしれない。

第9話のテーマは「育児放棄」。第1話から登場している生活保護利用者の認知症が進んでいる高齢者・丸山幸子の(小野和子)の孫娘・ハルカ(永岡心花)のもとへ母親の梓(松本まりか)が4年ぶりに帰ってきたのだが、これがとんでもない女だった。

ゲストの松本まりかはドラマ『ホリデイラブ』で演じたキャラクターが「あざとかわいい」と話題になっていたが、今回の役柄を表現するなら「ワル可愛い」だろう。しかし、その印象もラストでものの見事に打ち砕かれる。
「健康で文化的な最低限度の生活」子どもを産んでいる、産んでいないでマウンティング、松本まりか怪演9話
イラスト/まつもとりえこ

ロリチンピラ、松本まりか


丸山家でボヤが起こり、ケースワーカーのえみる(吉岡里帆)と半田(井浦新)が駆けつける。丸山家にはハルカの母親・梓が帰ってきていた。

すぐさま生活保護申請をする梓。母親の介護と育児に専念すると言っていたが、祖母の粗相の後片付けをしているハルカを見下ろして「また漏らしたの?」と言い放ち、さらっと家からいなくなる。

梓の服装は肩出しのトップスに短いホットパンツ。明らかに男の目を意識した格好だ。誰がどんな服を着ていても自由だが、心が子どもと母親にないことは服装から明らかである。童顔とロリ声を活かして媚びた仕草をするが、えみるに子どもを捨てて家出した経緯を質問されると、

「ねぇ、あんたさぁ、子どもいる? あんたに何がわかるの? 子ども、産んだことのないあなたに、何がわかるの?」

と凄んでみせる。
梓は子どもを産んだ経験はあるが、健康で働くこともできるのに捨ててしまったも同然。それが子どもを産んでいる、産んでいないというだけで相手をマウンティングして黙らせている。

まんまと生活保護費をせしめた梓は、母親の保護費も自分の口座に振り込ませることを要求。認知症の老母に馬乗りになって、かすかに笑う。もはやロリチンピラだ。

産まないという選択肢


一方、生活保護利用者から脱してアオヤギ食堂で働いている阿久沢(遠藤憲一)の娘・麻里(阿部純子)が倒れてしまった。麻里は妊娠していたが、男とは別れてしまったという。さらに借金まみれでもあった。

娘の世話をしながら「お前、母親としての自覚あんのかよ」と何気なく言う阿久沢に対して、麻里は「じゃ、あなたは父親としての自覚はあったの!」と鋭く言い返す。

「今さら父親面されても過去は戻ってこないの。あなたのせいで借金抱えて、その借金に苦しめられながらお母さんは死んでいったの。だから今さら父親面しないで」

阿久沢から事情を聞いたえみると半田。阿久沢は「命、粗末にしちゃダメですよね。
ちゃんと産んで育てないと」と言うが、半田は「そんなことないと思いますよ」と言う。

「私は産まないという選択肢もあると思います。産んだら終わりではないですから。産まれた後には暮らしが待っています。その子の人生が待っています。親はその責任を背負って生きていかなくてはならないんです」

半田には苦い過去があった。ケースワーカーになりたての頃(若い頃を演じる井浦新が本当に若い!)、貧困に苦しむ母娘の生活保護利用者を担当していたのだが、娘が妊娠。半田は出産に後ろ向きだった娘を説得して出産に導いたが、1年後、娘は幼児虐待で逮捕されてしまったのだ。「その辛い過去があるから、今の半田さんがいるんだよ」とえみるに語る京極係長(田中圭)。係長は仕事には厳しいが人に優しい。

「産まれた後には暮らしが待っています」という半田の言葉は、脚本の矢島弘一の前作『コウノドリ』のテーマと共通している。赤ちゃんが産まれてハッピーエンドではない。
子どもは育てなければいけない。そして今の日本は子どもを育てるのがとても難しい国になりつつある。

松本まりか、咆哮!


えみるが「お母さんはいろいろお家のこととかやってくれるの?」と訊ねると「はい」と答えるハルカ。母親をかばう悲しい嘘だ。祖母はショートステイで施設に送り出され、家にはハルカが一人きりだった。

パン1個を買うお金もなく、瓶にこびりついたジャムをすくって舐めるハルカ。祖母と2人暮らしのときは祖母の生活保護費で暮らしていたが、今は梓が一人占めしている状態。ハルカはまったくお金を持っていなかった。近隣に知り合いもいないハルカは完全に孤立していた。是枝裕和監督の『誰も知らない』を思い出した視聴者もいたかもしれない。

ハルカはえみるを頼って役所を訪ねてくるが、夜遅い時間だったため、守衛さんに帰らされてしまう(これは普通の対応)。その後のえみるたちの行動が、チーム感が出ていて非常に良かった。
生活保護課の若手たちがチーム感を出すのは、これが初めてのような気がする。

丸山家にかけつけたえみるに、ハルカは母親の梓が1週間以上帰ってきていないと告白する。1週間以上、小学生のハルカが一人で起きて、一人で学校に行き、わずかなお金をやりくりして一人で食事をしていたのだ。どれほど心細かっただろう。えみるに抱きしめられて、気丈だったハルカも安堵の涙を流す。

京極の指示を受けて、えみるはハルカを児童相談所につれていく。すぐさまハルカを抱きしめてあげたり、手をつないであげたりするえみるの優しさが好ましいのだが、これもきめ細かく声をかけ続けて信頼を得たからできること。信頼もないのにいきなり抱きつかれたって、子どもは嫌悪感を示すだけだ。

幼児虐待、育児放棄だけでなく、子どもの貧困と親の貧困、貧困の中での出産、認知症の高齢者の介護など、さまざまな問題が入り組んでいた第9話。どれも現在の日本が直面している大問題だ。企業が社員の一生の面倒を見る時代はとっくに終わっており、誰がいつこれらの問題に直面してもおかしくない。日本はこんなにも貧しくなった。


えみるは梓への保護費を窓口支給に切り替える。音信不通だった梓だが、保護費が振り込まれていないとわかれば役所に怒鳴り込んでくるはずだ。そこで話し合わなければいけない。そして支給日、予想通り、役所に彼氏(『ひよっこ』で時子の兄を演じていた渋谷謙人)を引き連れて現れた梓だったが……。松本まりかの演技は予想を超えていた。

「よーしつねええええええ!」

憎悪に満ちた表情で咆哮する梓! もはや「悪かわいい」を超えて「悪かわいくない」だ。

「カーネ! 入ってないですけどおお!」

もはやイッてしまった目の梓に、一歩も気後れしていないえみる。えみるの後ろには半田や京極たちもいる。モンスターネグレクトマザーVSケースワーカー、2人の対決の行方は? 本日最終回は夜9時から。
(大山くまお)

【配信サイト】
TVer
カンテレドーガ

「健康で文化的な最低限度の生活」(フジテレビ系列)
原作:柏木ハルコ(小学館刊)
脚本:矢島弘一、岸本鮎佳
演出:本橋圭太、小野浩司
音楽:fox capture plan
プロデュース - 米田孝(カンテレ)、遠田孝一、本郷達也、木曽貴美子(MMJ)
制作協力:MMJ
製作著作:カンテレ
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