第26週「幸せになりたい!」第153回 9月26日(水)放送より
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

半分、青い。 メモリアルブック
153話はこんな話
「やり直さないか」と涼次(間宮祥太朗)に言われた鈴愛(永野芽郁)だったが断る。彼女にほかに大事な人がいることはカンちゃん(山崎莉里那)も気づいていた。
逃げてもいい
152話の終わりで「やり直さないか」と切り出し、153話の最初で「でも、それはもう」と断られる涼次。
なんだか「ねるとん」で玉砕する人みたいだ。
でも仕方ない。涼次は作劇における「当て馬」(本命同士が結ばれるまでに盛り上げる役割、当人は報われない)である。間宮祥太朗にはいかにその役を短期間で印象的に演じられるかが課せられていたわけで、みごとにその役割を全うしたと言えるだろう。
バタバタと話が進むなかで、俳優たちの一瞬の表情が力になる。
三おば(キムラ緑子、麻生祐未、須藤理彩)が、151話で見せたカンちゃんと涼次の再会を見守る表情、鈴愛と涼次の顛末を見つめる表情がじつに豊かで、叔母たちの人情がひしひしと伝わってくる。
帰ってきて、布団のうえで鈴愛とカンちゃんが遊んでいるところも楽しそうだった。
それにしてもカンちゃんはよくできた子。涼次と律(佐藤健)のことをさっぱり割り切って見える。
こんな状況だからこそがんばろう
震災で日本中がばたばたしているが、鈴愛たちはそよ風ファンの完成に向けて動きを止めない。
部品の調達が難しい町工場の人たちも、ドラ息子的に描かれていたカツシ(吉村界人)がやる気になっている。
間宮祥太朗とか吉村界人とかわりとクセのある若手の俳優を起用しているところがいい。
鈴愛にユーコ(清野菜名)の夫(山中崇)から電話があって、秋風羽織が仙台に来たこと、ユーコのために「A-
girl」(秋風はこの原画を秋風塾卒業のおり、ユーコにプレゼントしている)の続編を描いていることを報告する。
秋風先生はほんとうに弟子思い。そして、彼が創作者としてこの時、何ができるかは漫画に託されたことがわかる。
恵子(小西真奈美)は願いを書き留めるボードにユーコへの祈りを書こうとしてやめる。
津曲(有田哲平)相手に「こころで祈ることだ こころでじっと祈ることだ」と言って、いきなり、恵子劇場がはじまった。小西真奈美はつかこうへいや野田秀樹の演出舞台を経験している実力派である。
「私たちにできることは 昨日と同じように 今日を生きることだ」
「もう昨日と違ってしまった今日を生きることだ」など名台詞的なことを連打し、「仕事をするよ」「グリーングリーングリーンは人を幸せにするよ」と強く宣言。
全部緑色のセットのなかで、文語的な台詞を発するという難易度の高い場面をみごとに成立させた小西真奈美、なんてたのもしいのだろう。
「できる事をする」はそのとおりだと思う。
何があっても立ち止まらず、前に向かって、「できる事をする」しかない。
テレビ見てない
ここでふと思うのは、152話で鈴愛はいじめに対して「逃げていい」と言っていた。この時点では、いじめに限らず、彼女の生きる信条はそうなのだと思う。
震災の情報を得る手がかりとなるテレビを見ないようにしているのは、現実と向き合いたくないからだろう。
みんなが今、自分にできることを精一杯やっている中で、鈴愛だけがまだ動けないでいる。
そんな彼女が、これからどうなるか。これが残り3話のポイントではないかと思う。
ただ、現時点でも、そよ風ファンに関しては前向きに動いている。部品不足問題も海外から手に入れられそうだ。
だがそこへボクテ(志尊淳)から電話が。
ユーコは・・・
ここでも俳優の力が発揮される。第一声のボクテの涙声がみごとなまでに状況を物語っていた。
キャラメル
ボクテが鈴愛にキャラメルをくれる場面には「この世界の片隅に」を思い出した。大きく感情に訴えかけていくクライマックスに向けたところでも、視聴者にあらゆるネタを用意することを忘れないのはプロ中のプロだと思う。
口には出さずとも156話をまとめあげるのはかなり大変なことで、それでも最後まで何か手を尽くそうとする作家の生きる強さには敵わないものがある。
(木俣冬)