大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第41回「新しき国へ」11月4日(日)放送 演出:石塚 嘉
「西郷どん」41話。鈴木亮平が別人のように恰幅がよくなっている

西郷どん 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版

島津久光の見せ場


41話は花火と島津久光(青木崇高)ではじまった。
大砲かと震える爆音は花火で、あげさせているのは久光。
酔っているのか足元おぼつかないながら、「わしはまだまだ終わらんど〜」と豪語する。


このレビューでは島津久光(青木崇高)のことをずいぶんと贔屓にしてきた。
島津久光というより青木崇高のことである。
冒頭の濃い芝居をはじめとして、これまでの彼の頑張りが島津久光を、書かれていること以上に魅力的にしていた。

最初からずっと出来のいい兄・島津斉彬(渡辺謙)と比較され続け、ぼんやりキャラとして位置づけられてきた久光。カメといつも一緒。
歴史上ではもう少し知性や教養のある人物のようだが「西郷どん」での役割は声と態度だけ大きく、いつも苛立っていて、新しい世の中で置いてきぼりになっていく人という印象である。「国父」と呼ばれるまでになったもののドラマの中ではたいてい軽視されてきた。
前にも書いたが、一橋慶喜(松田翔太)と並ぶ二大ぼんくらキャラである。
慶喜も最後だけ少しだけいいところを見せる場があったが、久光にもついに見せ場が。

廃藩置県が行われ新しい国をつくろうという動きの中で、岩倉具視を中心に、欧米使節団が組織される。
木戸孝允(玉山鉄二)と大久保一蔵(瑛太)がそのメンバーに選ばれた。
西郷隆盛(鈴木亮平)はそんなに外国に追随する必要があるか疑問視している。

急速に異国文化が採り入れられていき、洋装の人も増えたが、それを良しとしない者もいる。
久光もそのひとりで、異国かぶれを忌々しく思っている。黒い洋服を「カラスか」となじる。
「風俗の乱れは国を乱す元じゃ」

明治5年5月、天子さま(野村万之丞)が日本をめぐり臣民と触れ合うことになった。
薩摩にもやって来た天子さまを迎えるとき、久光はひとりだけ着物を着ているが、天子さままで洋服で、ショックを受ける。
その後、はらはらと頬に涙を流す久光。目が大きくて下睫毛も長く、ごつい体格をしているが、なんだかとっても弱々しくに見えて同情してしまう。長年、薩摩を支えてきたのに、県令にもならせてもらえないし・・・。

その後、桜島が見える場で西郷を「こいがお前が我が兄斉彬とともにつくりたかった新しか国か」と問い詰める。
西郷は「そこからかけ離れてる」と正直に答える。「政府の腐敗ひとつとめることができない」自分をふがいなく思っていた。
ところが久光は「このやっせんぼ やり抜け! 最後までやり抜くんじゃ!」と発破をかけだした。

まるで斉彬が乗り移ったかのように。

「やってやってそいでも倒れたときは、こん薩摩に帰ってこい」
「新しか国ちゅうとは こいからの若いもののためにあっとじゃ」
西郷とは生涯天敵と言われている久光だが、ドラマではじょじょに西郷のことを認めるようになっていて。それはたびたび描かれていたので、この展開も想定内ではあるものの、なんだか消化試合感も否めない。もっとも「西郷どん」たいていそうで今回にはじまったことではないが。
それでも青木崇高がこれまでずっと久光をかわいげある役として演じてきたのでかろうじて受け入れられた。
かわいげあると同時に、おバカさんぽいので、古い時代の生き残りとして、古い時代がいいなあとは決して思わせないところも、いい仕事をしていると言えるだろう。

こんなに頑張った久光ではあるが、公式サイトのあらすじ紹介内「西郷どんの目線」で鈴木亮平がポイントとして挙げているのは、一蔵を外国に送り出すシーンだった。当然、そこはいい場面なんですけどね。


若者の時代


これからは「若者」の時代ということで、41話では若者たちの姿が描かれる。
村田新八(堀井新太)は侍従として天子様に仕えることになった。
川路(泉澤祐希)は欧州に行く。
半次郎(大野拓朗)は陸軍少将・桐野利秋となった。

三人まとめてお祝いしようとしたら、村田が級に侍従の役目はおそれおおいと言い出すので、西郷はなだめる。

川路はつねに冷静。元イモ泥棒の半次郎(桐野)は誰よりも先陣を切る。新八は明るくはらわたまで清い(&島流しを体験)となぜかいまさら彼らの説明をはじめる西郷。
新たな日本を背負っていく希望の若者たちだからだ。

そして、もうひとり、とっておきの若者。
菊次郎(城桧吏)である。
新政府は女性や子供も異国に連れていくという。
異国に行ってみないかと西郷から手紙をもらい、行くか行かないか迷う菊次郎に、自分で決めろと厳しくいう糸(黒木華)。
やがて、天子様をこの目で見た菊次郎は、「(天子さまは)きらっきらしく心が震えもした」
異国に行く決意を固めた。
はじまりが花火で、おわりは天子さま、菊次郎にとってはどちらもきらっきら輝かしいものに映る。

希望の一方で、新しい国といっても、政府ばかりが欲にまみれ、ちっとも恩恵を感じられない民衆が反乱を起こし始めていた。
岡山では一揆に7000人が参加。
大久保たちが、外国に行っている間に、反撃しようとする反新政府派もいる。留守を任された西郷はどうなる?

42話「両雄激突」では、大久保が戻って着て、ますます西郷と大久保の考えが噛み合わなくなってく。

それにしても、鈴木亮平はどんどん恰幅が良くなっている。姿勢も全然違う。これはほんとうにすごい。
(木俣冬)
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