今夜、少女の死の真相と、柊一颯の本当の目的が明らかになる――。

菅田将暉主演のドラマ「3年A組─今から皆さんは、人質です─」が、いよいよ最終回を迎える。
ケレン味あふれる設定と、次々と謎が解き明かされる展開、演者のテンションの高さが視聴者を最後まで惹きつけ、冬ドラマの中でも一、二を争う話題作となった。菅田がクランクアップ時に発表した「この作品が遺作となっても、なんの悔いもありません」というコメントが作品の充実ぶりを表している。

先週放送された第9話の視聴率はこれまでで最高の12.9%。すでに同枠の前作「今日から俺は!!」の最高視聴率12.6%を超えてしまった。最終回は一気に15%ぐらい行くんじゃないだろうか(ちなみに同枠の歴代最高視聴率は「デスノート」初回の16.9%)。
菅田将暉「3年A組」今夜最終回。見苦しい「お前」とは一体誰のことなのか
イラスト/Morimori no moRi

柊、死す! 3回忌に集まる元生徒たち


第9話の冒頭は、数年後の3月9日から始まる。礼服姿で3年A組に集まる元生徒たち。それぞれの進路は、寿司職人、歌手、YouTuber、スーツアクターなど様々だ。屈託のない笑顔を見ると、第1話のギスギスっぷりが嘘のようである。妊娠していた金沢玲央を演じる新條由芽は、かつて夢咲はゆの名前でコスプレイヤーとして活躍していた。通称、群馬の天使。

彼らが集まったのは、担任教師の柊一颯(菅田将暉)の三回忌のため。予告や公式サイトなどでわかっていたとはいえ、あらためて遺影をドーンと見せられると、胸が抉られる。


その後、3年A組の元生徒たちが、逢沢博己(萩原利久)が撮った景山澪奈(上白石萌歌)のドキュメンタリーを見るという形で、これまでのストーリーが時系列順に整理されて視聴者に提示された。わかりやすい“おさらい”だ。

逢沢が景山を撮影しようとした動機、景山が茅野さくら(永野芽郁)と距離を縮めようとしたきっかけ、柊と景山の接点などがわかりやすく描かれていた。そして、教室に遅れて飛び込んできたさくらの目に飛び込んできたのは、武智(田辺誠一)に会いに行こうとする景山を呼び止める自分の姿の映像だった。

柊に協力する大人たち



話は立てこもりが続く3月9日に戻る。前回、すさまじい“引き”だった特撮ヒーロー・ガルムフェニックスは、当たり前のように刑事の郡司(椎名桔平)をノックアウトして虫の息の柊を救出。さらに郡司を人質にすることで警察の突入を阻止してみせた。中身はやっぱり先輩スーツアクターのファイター田中(前川泰之)。あっさり素顔になってものすごくさわやかに去っていくのだが、どうやって学校内に入ってきたんだ? そもそもヒーロースーツの必要はあったのか? このあたりが「3年A組」のケレン味である。

「これで何かの一石を投じられたのなら、それは意味のあることだと思っている」

柊の協力者はファイター田中のほかにもいる。特に大きな役割を果たしていたのが相楽文香(土村芳)の父、相楽孝彦(矢島健一)だ。第9話では柊の頼みのとおり、柊が犯人に見える動画をSNS・マインドボイスに投稿した。そのとき彼が呟いた言葉が上のものだ。


孝彦が柊に協力した理由は、娘のフェイク動画を流した武智への復讐だけではない。柊の本当の目的に共鳴したからだ。自分が警察に逮捕されてでも、意味のある「一石」とは何か? それは最終回に明かされることになる。

バタフライナイフとSNS


「これからお前たちに、すべてを話す。俺の計画も、本当の目的も。想像力をかきたてて、よく聞いてほしい」

9日目の夜、最後の「俺の授業」が始まった。前回、柊から「グッ、クルッ、パッ」の大切さを教えられた堀部瑠奈(森七菜)の礼がさりげなく他の生徒より深かった。彼女のこういうところが見る人の心を掴むのだろう。

生徒たちを前にこれまでの経緯を語り始める柊。「景山を殺した本当の犯人は……」。ここで画面がモノクロに切り替わり、何事かを力説する柊の声は聞こえなくなる。柊の言葉を真剣な表情で聞き入る生徒たち。
柊は単に真犯人の“名前”を挙げただけではないはずだ。

「景山は泣きながら俺に訴えたよ。私はもう私じゃない。助けて、先生、って」

柊はこう続けた。「私はもう私じゃない」とは抽象的なフレーズだが、フェイク動画を流された後のSNSでの誹謗中傷によって彼女の虚像がつくられ、ひとり歩きしてしまっていることを指しているのだろう。柊は、その日、景山の死を回避することができたとしても、いずれ同じことになるとも言っていた。一時的に彼女を救うことができても、SNSの暴虐は吹き荒れ続ける。

そして柊は立てこもった最大の理由を生徒たちに語る。再び画面はモノクロになり、柊の言葉は効果音にかき消される。柊の言葉を聞いて、涙を流す生徒たち。茅野だけ普通の顔をしているのは、彼女が柊の真意に早く気づいていたからだろう。柊は唐突に自分の手のひらにバタフライナイフを突き立てる。


「ナイフを刺せば、血が出る。痛みもともなう。場合によっては命も奪える。当たり前のことだ。でも今の社会は、こんな当たり前のことに、気がつく暇もないぐらい、せわしく回り続けている。相手に何をしたら傷つくのか、何をされたら痛むのか。お前たちには、それに気づかない感情が麻痺した大人にはなってほしくなかった」

柊が使ったバタフライナイフは、少年犯罪の象徴として捉えられていた時期がある。1998年、バタフライナイフを学校内に持ち込んでいた17歳の大人しい少年が、ささいなことから女性教師を刺殺した。事件後、バタフライナイフの販売に制約が設けられ、「キレる」という言葉が定着するようになった。余談だが、事件の際、少年に影響を与えたとして木村拓哉主演のドラマ「ギフト」はソフト化も再放送も行われてこなかったが、今年1月にDVDとBlu-rayボックスが発売された。

今、バタフライナイフを持ち歩いている少年はほとんどいないだろう。その代わり、人の心を容易に傷つけることができるスマホとSNSを持ち歩いている。
「3年A組」でもSNSの描写は第1話から執拗に繰り返されてきた。

ラスト、茅野さくらが「殺したの、私が澪奈を殺したの」と告白する。その直後、郡司を連れて屋上に立った柊が銃弾に倒れてしまう。最終回の予告では、柊が画面のこちらを指さしながら、

「見苦しいんだよ! お前に言ってんだよ! 逃げてんじゃねぇぞ!」

と叫んでいる姿が写し出されていた。「お前」とは誰のことか、しかと見届けたい。今夜10時30分から。
(大山くまお)

「3年A組─今から皆さんは、人質です─」
日曜22:30~23:24 日本テレビ系
キャスト:菅田将暉、永野芽郁、上白石萌歌、大友康平、田辺誠一、椎名桔平
脚本:武藤将吾
音楽:松本晃彦
演出:小室直子、鈴木勇馬
主題歌:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AXON)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中
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