倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第12週。

今週は全編が「やすらぎの刻」パート。


前半は、前週から引き続き、お嬢こと白川冴子(浅丘ルリ子)の隠し孫・竹芝柳介(関口まなと)が起こした大麻所持問題。

そして後半は、月・水・金だけ認知症がひどくなる、かつて「視聴率の女王」「ヨーロッパ社交界の華」呼ばれた往年の大物女優・桂木怜子(大空眞弓)が起こした万引き騒動。

梨園&大河ドラマを巻き込んでの大麻所持と比べればショボイ犯罪ではあるが、竹芝柳介の話がすっかりかすんでしまうほど闇が深かった!
「やすらぎの刻~道」100均で万引きを繰り返す元・大物女優の歪んだプライドがヤバイ第12週
イラストと文/北村ヂン

土下座を見ながらウットリする元・視聴率の女王


往年の輝きは消え失せ、無残に老いてしまった桂木夫人が引っ越しのあいさつ代わりに贈っていた、仰々しく包装された100均ショップの商品。アレはすべて、万引きしたものだったのだ。

手口は、買い物かごの中に入れた自分のバッグに
バンバン商品を詰め込むことで、店員たちに露骨に万引きを疑わせた後、お付きの中川玉子(いしだあゆみ)が持つ空の買い物かご+バッグとすり替える。店を出たタイミングで万引きを確信した店員が声をかけ、バッグの中身を確認しても、中には何も入っていないというもの。

万引き癖に付き合わされている玉子は、「そろそろおやめにならないと危険ですわ。どうしてあんな事が楽しいのかしら」と忠告するが、桂木夫人は「スリル。……それにさびしいから」と語る。

経済的に困っているわけでもない中高年が、さびしさから万引きを繰り返してしまうというのはよく聞く話。桂木夫人もそのタイプだったのか……と思いきや、さらに闇の深い理由があった。

万引きを完遂した桂木夫人がカフェでお茶をしていると、若い女優だかモデルだかがサインを求められ、チヤホヤされているところに遭遇。

その時の、うらやむような、悲しむような何ともいえない表情よ! 「視聴率の女王」なんて呼ばれてチヤホヤされていたかつての自分を思い出しているのだろうか。


単に商品を盗むスリルだけではなく、わざわざ万引きをする様子を見せつけ、店員に呼び止められるところまでセットで楽しんでいるのは、この辺の感情が絡んでいると思われる。

空のバッグを見せることで店員たちに対して完全に優位に立ち、土下座を強要する。「女王」としての振る舞いだ。

土下座を見ながらウットリとする桂木夫人の歪みまくったプライドが渦巻く表情がすさまじかった。今週は大空眞弓の演技に完全にヤラレた!

桂木怜子が万引きなんてする?


「久しぶりに出ました。例の100均バアさん」
「相棒のババアもハッキリ映ってます」

万引きを繰り返す桂木夫人たちを狙って、敏腕そうな万引きGメン・高砂一平(でんでん)が動いていた。それにしても、いしだあゆみがババア扱いとは……。

新規開店した100均ショップで万引きしている桂木夫人を、高砂のチームが捕獲。そして今回は共犯者である玉子の方も捕まえられた。

万引きの手口がバレバレになっている状況なのにまったく動じず、玉子に全責任を押しつける桂木夫人。

「よりによってこんな安い100円ショップで……。どうせ万引きをおやりになるんだったら、もっと高いお店でおやりになればいい。
フフフ……私ひどいこと言っちゃった。ごめん遊ばせ」

バッグの中に商品を入れていた玉子は警察に引き渡されたが、防犯カメラで過去の犯行まで突き止めている高砂は桂木夫人への追求の手をゆるめない。

「私が万引きのお手伝いをしたとおっしゃってるの? 高級店ならいざ知らず、こんな場末の100円ショップで? 人をなめるのもいい加減にしてほしいわ。100均なんて私、はじめて来たのよ~……」

この期に及んでグダグダと言い訳し続ける桂木夫人だったが、ここで意外な展開が。

「桂木……怜子さん?」

ショボイ犯罪でも有名人にとっては致命的。さすがの桂木夫人も、まさかの身バレでひるむかと思いきや、

「そうよ、桂木怜子よ〜。桂木怜子が万引きなんてする? ウフフフ。しかも、場末の100円ショップで〜」

一瞬、驚いてから「コイツ、私のファンだわ」と確信し、自尊心が大爆発した時の表情がまたホントにすごかった。

完全に場を掌握した雰囲気を出し、タバコを要求する桂木夫人。冷静に見れば危機的状況なのに、心底嬉しそうだ。久々に自分のファンと出会い、あの若い女優だかモデルだかの気分になって気持ちよ〜くなっているのだろう。

しかしこの万引きGメン、ファンではなく、昔の知り合いだったのだ。


「昔、湾岸テレビの衣装部にいた高やんですよ。ハンチングの高砂一平!」

ファンだったとしたら手の内でいいように転がせそうだが、昔の知り合いとなると話は別(女優とスタッフという関係性なので、桂木夫人の方が優位には立っていそうだが)。相変わらずのエグイ展開!

元・マラソン選手の原裕美子や、石原真理子、ロス疑惑の三浦和義など、万引きがバレて大きく報じられた有名人は多い。

倉本聰も、その辺の騒動をモチーフとしているのではないかと思われるが、そこに元・大物女優の歪んだプライドを絡めてくるあたりはさすが。

戦前〜戦中を丁寧に描いた「道」パートもいいんだけど、やはり倉本自身が長年生きてきた芸能界を意地悪くえぐる「やすらぎの刻」パートは唯一無二のドラマで目が離せない。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
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