
(→前回までの「オジスタグラム」)

いつから僕はこんなお下劣な生き物になったのだろうか。
明日までに必ずと言っては、締め切りを破ってばかり。
いつの間にか嘘つき人間のオオカミおじさんになってしまった。
そう言えば朝起きると自分から獣のような臭いがする気もする。
こんな僕も赤ちゃんの時は嘘をつかなかったはずだ。
楽しかったら笑って、お腹が空いたら泣いていたと思う。
「あれ?なんかあの親って奴らに法則性があるぞ。オギャー!…やっぱりそうだ。あいつら泣くと食い物くれるわ。よしっ!腹減ってなくても泣いてみよ!」
とゆう鬼畜赤ちゃんだったらお手上げだが、その可能性はかなり薄いだろう。
教育もきちんと受けさせて頂いた。
大人達は僕が嘘つきにならないように、たくさんのお話を読み聞かせてくれた。
オオカミ少年、ピノキオ、ガラスちゃん…。
「嘘つきは泥棒の始まりよ」
「嘘つきは閻魔様に舌を抜かれるんよ」
と僕が嘘つきにならないよう、精一杯脅してくれた。
嘘つきになる要素は何もない。
しかし、気付くと僕は
「嘘つきは閻魔様に舌を抜かれるんよ」
って言われた時に、なんでこの人達は嘘を防止する為に嘘を言ってくるんだ? まずはこの方々の舌を抜くべきじゃないのか?
と思ってしまう、お下劣人間になってしまっていたのだ。

嘘つきエレベーター
やはり思い返せば、嘘つきへの階段を昇り始めたのは18歳からだ。
いや、感覚的には嘘つきエレベーターに急に乗った気がする。
大学なんか通ってもないのに親に大学行ってるって嘘ついて4年で0単位でやめるわ、
バイトもしてないのにバイト先で一番大きな皿を割ったから2万貸してとゆう嘘をつき始める。
一度乗った嘘つきエレベーターはボタンが壊れていた。
20歳くらいに京都の饅頭屋でバイトしてた時に、店主が野球大好きだったので、僕は野球部だったと謎の嘘をついた。
半年くらいたって、奇跡的な確率で福井県の同じ高校の同い年の野球部の奴が新しくバイトで入ってきて、僕がソフトテニス部だった事がバレた時の店主の顔は未だに忘れられない。

あれから17年。
とっくに降りたと思っていた嘘つきエレベーターに僕はどうやらまだ乗っているようだ。
しかし、反省してないととられても仕方ないが、だんだん階層が上がるにつれ、嘘の質が良くなってきた気がする。
昔のように人様に悪質な嘘はつかなくなってきた。
そもそも人には嘘をつかなくなった。
医療用大麻的な使い方とでも言おうか。
負けたけど今日パチンコ屋行ってなかったら死んでたんだよ~、借金なんてほんとはないんだよ~と、自分の脳を騙すくらいだ。
締め切りに無事間に合いました
もしかしたら、嘘エレベーターの最上階には何かがあるのかもしれない。
戻るのもなんだから、もうちょい乗ってみようと思う。
さて、本日も皆様自分に優しく、自分の脳を騙して生きて行きましょう!
さて、締め切りに無事間に合いましたオジスタグラム!
本日のおじさんは仁さん!
僕がパチンコ屋で、伊勢海老5匹分くらい負けて、帰ろうとしてる時にナンパに成功した47歳の若手のおじさんだ。
余談だが、その日僕は伊勢海老7匹分勝ちの状態から、最終的に伊勢海老5匹分の負けまでいったので、気持ち的には伊勢海老12匹負けの気持ちである。
仁さんとは、店を出るタイミングが同じになって、半ばやけくそで声をかけたら快く承諾してくれたのだ。
「かんぱーい!」
「くぅ~! ビールは負けてもうまいですね~」
「ガハハハ! わしも今日は仕置人にお仕置きされたわー!」
「ケケケケ!」
仕置人とは、新・必殺仕置人とゆうパチンコ台である。

仕置人を打って負けたおじさんは100人が100人この自虐をしてくるので、これを言われたら笑うとゆう習慣を脳ではなく体で覚える事をオススメする。
「でもよー、それにしても今日は出してなかったなあの店」
「そうっすね」
「今週ずーっと出してないのよ。特に仕置人は」
「そうなんですね」
「とゆう事はよ、兄ちゃんどうゆう事だと思う?」
「……明日出る?」
「そうゆーこと! おめでとう!ガハハハ!」
「ケケケケ!」
あの場では普通だったが、いざ文字で書いてみるともうバカの会話だ。
最高である。
その後も、仁さんによる必ず勝てるパチンコ講座はとまらない。
狙い台を教えてくれる仁さんは高校球児と同じ目をしている。
いくつになっても、夢を追いかけている人の目はパチンコ玉のように輝いているものだ。
歳はとっても、パチンコ玉みたいな目玉、白い歯、勝ちにこだわり暗くなるまで玉を追いかける姿を高校球児と呼ばずして何と呼ぶのか。
あっ!
実はずっと僕は仁さんに違和感を感じてたのだ。
悪い意味じゃなく、今まで飲みに行ったおじさんと何かが違うんだが、その何かがずっと分からなかったのだ。
飲み始めて1時間くらいして、ようやくわかったのだ。
歯だ。
50歳くらいで歯が白い人は
歯が今までのおじさんに比べて圧倒的に白いんだ。
この手のおじさんで歯が白いなんてあり得ない。
僕もめちゃくちゃ歯にタバコのヤニがつくので、1、2ヶ月に一回歯医者でクリーニングみたいなのに行っているが、こうゆう仕事をしてなければ茶色のまま過ごしている自信がある。
仁さんも歯医者に行く暇があるなら、一回転でも多く回すはずだし、タバコもCABINをめちゃくちゃ吸っている。
そもそも、50歳くらいで歯が白い人なんてタレントかボディービルダーの二択だ。
仁さんの体を見ても、パチンコを打つ為の必要最小限の肉しかついてないし、タレントの線もない。
「でよ、仕置人の前の仕事人の時によ、30000発出たのよ。夕方からよ! そんときはよ…」
そこで僕は一番王道なのを忘れてた事に気付く。
入れ歯だ! ちょっと若いけど最近入れ歯にしたパターンだ!
「凄いっすね~」
「だろ~?」
「仁さん、めっちゃ歯綺麗ですね」
「だろー? これはな…」
おじさんとゆう生き物は常に僕の想像の遥か上を軽々と飛んでいく。
「これはな、激落ちくんだ。激落ちくんでやってるんだ」
「はぁ!?」
「かみさんがよ、掃除で使ってて何でも落ちるって言うからよぉ。試しにやってみたらよぉ」
我々はナマコ酢を食べられる
なんと白い歯の正体は、入れ歯でも歯医者でもなく、家事の味方「激落ちくん」だったのだ。
人体や歯への害は一旦置いといて、僕はいつの間にかつまらない大人になってたのかもしれない。
靴は履くものだし、服は着るものだし、激落ちくんは歯に使うものではないと決めつけていた。
結論としてそこにたどり着くのだろうが、自分でまずは靴を着て、服を履いて、激落ちくんを歯に使ってみてから、言うべきだ。
なまことかを最初に食べた人は本当に変な人だと思うが、その人のお陰で現在我々はナマコ酢を食べられる。
仁さん、ありがとう!

僕も未来の為に僕なりのなまこを開拓しようと思う。
仁さんに感銘をうけた僕は、家に帰って激落ちくんで歯を削ってみた。
汚れは落ちたが、血だらけくんになったので、皆様は真似しないように。

(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)