「スカーレット」52話。深野組解散。フカ先生、弟子になる。その前に火まつり!
連続テレビ小説「スカーレット」52話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

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連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」52話。深野組解散。フカ先生、弟子になる。その前に火まつり!

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第9週「火まつりの誓い」51回(11月28日・木 放送 演出・佐藤 譲)


「ずるいわ 言うてえや 教えてえや」とぐいぐい迫り、八郎(松下洸平)の腕をひねって壁におさえつける喜美子(戸田恵梨香)の勢いに、子供の頃の喜美子(川島夕空)が息づいているように感じた。

ここのところ低めだった視聴率が20%台に復帰したのは、この壁ドンのおかげだろうか。それとも社長の突然死? いずれにしても、やっぱり朝ドラにはネタを投入しないとあかんとなりそうで、こうして物語性が損なわれていくような気がして不安だが、時代がそっちを求めるのなら仕方ないのかもしれない。
そんなことは作り手のほうはとっくに心得ていて、行間を読む朝ドラを数作に一作滑り込ませつつ、あとは瞬時に皆が同じ情報と感覚を得られる大衆に向けた商品を作る工夫をしているようにも思う。朝ドラは伝統芸能だから。

「先生を辞めてお弟子さんになるそうです」


フカ先生(イッセー尾形)も、息子よりも年齢の若い人物に弟子入りすることを決めたという衝撃の事実が八郎の口から明かされた。

若い三十代の絵付けの研究をしている森田隼人。長崎にいるという。
森田隼人、森田隼人と名前が連呼されるが、誰だ、それは。ありそうなパターンだと、忘れた頃に、登場し、あー、あの森田隼人! と盛り上がるパターンが考えられる。

それにしたって、先生を辞めて弟子になるという気持ち、フカ先生、すごい。
「べっぴんさん」(16年)で定年後の人生が描かれたとき、高齢化社会を見据えたドラマだなと思ったものだ。倉本聰、入魂の昼の帯ドラマ「やうらぎの郷」や「やすらぎの刻〜道」(テレビ朝日系)でも「人生100まで、年金に頼るな」と歌っている。「スカーレット」では学び直しの提案がされたのと同時に、男女差だけでなく、年齢差も関係ない、シンの多様性が深野の行為で示された。長く生きた分の知識がすべてではない、若いから下でなく、若者に年上が学んだっていいのだ。

順番は、フカ先生、私、十代田さん」


フカ先生がいなくなると聞いてショックな喜美子。火まつりに一緒に行けるなら「フカ先生、私、十代田」の順で歩くと言うと、意外にも八郎は「ええよ」。
そのまえまでは丁寧語だったのに、いきなりタメ口である。さりげないやりとりからある瞬間、距離が縮まる感じの描き方が見事だ。しかもフカ先生の口癖「ええよ」なので、これからフカ先生から八郎に喜美子のドラマが移り変わっていくことを感じさせるではないか。

気の弱そうな男子と腕っぷしの強い女子って萌える。ほっそい体で大きな火鉢を運ぶ戸田恵梨香にも萌える。

深野組、解散」


信楽の人々の集いの場・あかまつで、フカ先生と弟子たちがお別れ会。いつの間にか、一番も二番も会社を辞めて、先生になることになっていた。一番、二番のほうがわかりやすくついそう書いてしまうが、池ノ内富三郎(夙川アトム)と磯貝忠彦(三谷昌登)である。

もしかしたら、絵付けの仕事が先細りで、彼らはみんな喜美子のために去っていくんじゃないかという気もしないでない。そこまで人が好いわけではないかもしれないが、少なくとも、時代の変化に気づき、これからの若い才能・喜美子を尊重したように思う。引き際は潔くだから。前述した、喜美子と八郎の距離の縮まりといい、時代の変化といい、音を立てず静かに変わっていく気配に敏感なドラマだなあと思う。

池ノ内「深野組、解散でええですか」
深野「ええよぉ」

元祖「ええよぉ」も言い納めか。
そして、例の、おしぼりをつまみと間違えるネタで52回は終わる。

しっとりしたドラマながら、別れはことごとくあっさりと、湿っぽくしない(とはいえ、悲しんでいる表情もちゃんと見せる)。そこがいいとはいえ、深野組解散はちょっと寂しい。でもまだ火まつりが残っている。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)


登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)



●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。中学卒業後、大阪の荒木荘に女中として就職。三年働いた後、実家の経済事情の悪化により信楽に戻り、丸熊陶業に就職。深野心仙に弟子入りし、絵付けを学び、丸熊陶業初の女性絵付け師として新聞に載る。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。
オート三輪を無理して買ったうえに捻挫して働けなくなって喜美子を呼び戻す。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京の熨斗谷電機の工場に就職する。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃 末っ子でおとなしかったが、料理もするようになり、直子が東京に行くと気丈になっていく。

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。
高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。京都の短大を卒業後、婿をとる。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。娘には甘い。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母。敏春を戦死した息子の身代わりのように思っている。
熊谷敏春…照子の婿。 京都の老舗旅館の息子。新商品開発に意欲を燃やす。

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の幼馴染。子供の頃は心身共に虚弱だったが、祖母の死以降、キャラ変し、モテるように。
高校卒業後、役所に就職する。

大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。マツの貯金箱を預かったことで離婚の危機に直面する。

●信楽で出会った人たち 幼少期
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。
戦時中は満州にいて、帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道(草間流柔道)を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

●信楽 丸熊陶業の人々
城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。

深野心仙…イッセー尾形  元日本画で戦後、火鉢の絵付け師となる。喜美子を9番目の弟子にする。
池ノ内富三郎…夙川アトム 深野の一番弟子。
磯貝忠彦…三谷昌登 深野の二番弟子。

藤永一徹…久保山知洋 陶器会社で企画開発をやっていて、敏春に雇われる。
津山秋安…遠藤雄弥 大阪の建築資材研究所にいて、敏春に雇われる。
十代田八郎…松下洸平 京都の美術大学出身。祖父が買った深野の絵をお米に代えた過去がある。

●大阪 荒木荘の人々
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者だったが、不況で、尊敬する上司・平田が他紙に引き抜かれたため、退社。女性誌の記者となり、琵琶湖大橋の取材のおり、信楽の喜美子を訪ねる。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。

●大阪の人たち 
マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第六週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。
第七週 昭和31年 喜美子、火鉢の絵付けに魅入られ、深野心仙の弟子になる。
第八週 昭和34年 喜美子21歳 「信楽初の女性絵付け師ミッコー」として新聞に載る。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき
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