
(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
連続テレビ小説「スカーレット」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)
第14週「新しい風が吹いて」82回(1月9日・木 放送 演出・小谷高義)
亡くなった常治(北村一輝)が雇っていた従業員が泥棒して逃亡したことがあった。
歴史は繰り返す。ここで再び泥棒事件。
八郎(松下洸平)がクビにした弟子・畑山(田中亨)と稲葉(永沼伊久也)はそのまますごすご退場しなかった。
彼らは釉薬の調合を記したノートを盗もうとして三津(黒島結菜)にみつかってしまう。81回で掃除以外にまだ何も教わっていないと訴えていたから同情の余地はある。しかも彼らはお金を盗んでいない。
だがこれが泥棒事件としておおごとに。
「どんどん新しい作品を作っていきやがるんです」
盗んだノートは釉薬のノートではなく、喜美子(戸田恵梨香)と八郎の「夫婦ノート」だった。
「釉薬の調合でなくてご夫婦の調合ですかね」とうまいこと言う三津。
彼女は邪気がなく、ものごとに素直に反応し、聡明だ。弟子にしてもらえなくてもめげず、何度も何度も軽やかに売り込み続ける。
持ち前の愛嬌と粘りとノートを取り返してきたお手柄によって、三津はかわはら工房にほんのすこし受け入れられる。
八郎が口をつけてない茶碗の茶を三津が譲られるところで、川原夫婦との心の交流が表現されて見える。
ここで気になるのがお茶を飲むよう促したのは喜美子であること。
喜美子が作った設定の器をつくっているのは信楽の陶芸家・神山清子で、「スカーレット」はこの作家の人生が一部参考にされているらしく、その神山の夫は弟子と恋仲になったことがあったとか。
貴美子がおにぎりをにぎっている間に八郎と三津は語り合うと、互いの境遇はすこし似ているところがあった。
三津の元カレは天才型で「どんどん新しい作品を作っていきやがるんです」とのことで、次世代展に旧作を出すより新作を作りたいと言う喜美子と似ているのではないかと三津は思うが、八郎は喜美子がそう言ったのは八郎を励ますためだと感じていた。
「一緒に前に進もうな」と言うのは喜美子なりの「内助の功」と八郎は思っているようだが、三津が「才能のある人は無意識に人を傷つけます」と元カレを想って泣く(決して暗くなくあくまでユーモラスに)。金品は分け合うことができるが才能は分配できない。金品は盗めるが才能は真似できても盗めない。ゆえに貧富よりも才能の格差のほうがシビアーである。どんなに一緒に進みたくても進めないときがくることを三津は知っている。同じ道を歩む男女の葛藤を描いたのは大石静が将棋の世界を描いた「ふたりっ子」(96年)があった。
さて、ここでようやく八郎は三津の名前を認識する。閉ざされた扉がじょじょにじょじょに開いて他者を受け入れていく過程が丁寧で、作り手が大事に描いている回だと感じる。
ぶっきらぼうな信作が魅力的
喜美子と八郎の仲睦まじさと同時に、信作と百合子の関係も繊細に描かれる。
地元の唯一(?)の社交場・居酒屋あかまつで、丸熊陶業の社員・藤永(久保山知洋)、津山(遠藤雄弥)と楽しげに飲んでいる百合子をむっとした顔で連れて帰ろうとする信作。ただの嫉妬ではなく泥棒事件があったからなのだが、そういう正当な理由があってよかったねえと思ってしまった。
結局、あとで「ほかの男に触らせるなや」とぶっきらぼうに百合子に言うところがいじらしい。これまであまりぴんと来てなかった百合子もまんざらではない感じで……。親同士はすでにふたりが結婚すればいいと考えはじめていたという、
流れがじょじょにできあがっている。
いつも本音がうまくいえずもにょもにょしている信作が思い切って本音をすっと言うときの実直さと、戸惑いだけでない微妙な表情する百合子の乙女さを、林遣都と福田麻由子が巧く演じている。ふたりとも叩き上げの実力派という感じがする。
そういえば、三津の元カレ「ひろし 蠍座」。長崎の若手陶芸家・森田隼人や直子の会社の新人指導係・牛田に次ぐ名前だけ印象的に語られ(たぶん)顔は出てこない人シリーズ。こういう名前だけだがディテールが細かい人はあと何人くらい出てくるか気になっている。
(木俣冬 タイトルイラスト/まつもとりえこ)
登場人物(週の終わりに更新していきます)
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空 主人公。中学卒業後、大阪の荒木荘に女中として就職。
十代田八郎 → 川原八郎…松下洸平 8人きょうだいの末っ子。父母は亡くなっている、京都の美術大学出身。丸熊陶業の新商品開発の仕事に携わり、喜美子と結婚(婿入り)。陶芸家として独立。昭和40年、金賞を受賞。
川原武志…又野暁仁 喜美子と八郎の長男。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。口は悪いが、娘たちを溺愛し、喜美子の結婚に猛反対するも、体を壊すほど働いて離れを建てるという愛情を見せるも、そのまま弱って膵臓と肝臓癌を患い、昭和40年死亡。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったが常治と駆け落ちして結婚。体が弱く家事を喜美子の手伝いに頼っている。ぼんやりして何をしているのかよくわからないながら、なぜかなくてはならない存在感を放っている。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京の熨斗谷電機の工場に就職。父の葬式にも出ず、大阪で商売をはじめると宣言する。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃 末っ子でおとなしかったが、料理もするようになり、直子が東京に行くと気丈になっていく。家庭科の先生になるため短大進学を目指すが、結局就職する。
●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 喜美子の幼馴染で親友。喜美子とは幼いときキスした仲。信楽の大きな窯元・丸熊陶業のひとり娘。
熊谷秀男…阪田マサノブ 信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。娘には甘い。昭和34年、突然死。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母。敏春を戦死した息子の身代わりのように思っている。
熊谷敏春…照子の婿。 京都の老舗旅館の息子。新商品開発に意欲を燃やす。先代の突然の死により
社長となり、八郎に期待を賭ける。照子には優しい夫。
●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の幼馴染。子供の頃は心身共に虚弱だったが、祖母の死以降、キャラ変しモテるように。高校卒業後、役所に就職する。早く結婚したかったが、来る者拒まず交際しても、毎回うまくいかない。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。大手雑貨店の影響で雑貨店からカフェに商売替えする。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。マツの貯金箱を預かったことで離婚の危機に直面するが一件落着。カフェサニーをきりもりしている。
●信楽の人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。
工藤…福田転球 大阪から来た借金取り。 幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
保…中川元喜 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
所沢…牛丸裕司 信作の上司
黒岩次郎…上野俊介 幼少期 溝上空良 信作の幼馴染 お見合い大作戦に参加する。
田畑よし子…辻本みず希 お見合い大作戦に参加、信作に好意を寄せるが、9対1で嫌いと振られる。
佐久間 …飯田基祐 美術商。信楽にジョージ富士川を呼ぶ。
●信楽 丸熊陶業の人々
城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
緑…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
西牟田…八田浩司 丸熊陶業の中堅社員。
深野心仙…イッセー尾形 元日本画で戦後、火鉢の絵付け師となる。喜美子を9番目の弟子にする。
若社長の代になり、長崎の若手陶芸家・森田隼人に弟子入りすることにする。
池ノ内富三郎…夙川アトム 深野の一番弟子。深野組解散にあたり、京都に就職。
磯貝忠彦…三谷昌登 深野の二番弟子。深野組解散にあたり、大阪に就職。
藤永一徹…久保山知洋 陶器会社で企画開発をやっていて、敏春に雇われる。
津山秋安…遠藤雄弥 大阪の建築資材研究所にいて、敏春に雇われる。
森田隼人…長崎の陶芸家。深野が弟子入りを申し込む。
柴田寛治…中村育二 窯業研究所の所長
橘ひろ恵…紺野まひる 窯業研究所所員 喜美子の花の描かれたカップを気に入る。
●大阪 荒木荘の人々
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者だったが、不況で、尊敬する上司・平田が他紙に引き抜かれたため、退社。女性誌の記者となり、琵琶湖大橋の取材のおり、信楽の喜美子を訪ねる。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
●大阪の人たち
マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。
泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。
ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。昭和40年、信楽に実演会を行いにやって来る。
十代田いつ子…しゅはまはるみ 八郎の姉 大阪で髪結いをしている。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいて、帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道(草間流柔道)を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。東京に住んでいたが、台湾に貿易の仕事に行くことに。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。
脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき