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本日決定!書評家・杉江松恋の第162回芥川賞候補全作レビュー&予想。一番「らしい」小説は「音に聞く」

安部公房『飢餓同盟』などの系譜上にある作品で、選挙を通じて地方の空洞化や男性優位主義がはびこる精神土壌などが浮き彫りにされる。諷刺小説の常として人間関係などが図式的にならざるをえないのだが、追い詰められて極端な思考へと向かっていく〈おれ〉はヘイト・クライムに走る現代人の心性を凝縮したようで、その点に読みごたえがある。
なお、単行本版『幼な子の聖戦』にはビルの窓拭きを題材にした「天空の絵描きたち」が併録されるという。前回の芥川賞選考で候補作となった古市憲寿の『百の夜は跳ねて』が同作を下敷きにしていると一部の選考委員から指摘があり、酷評される結果になった。木村は、古市が自分の体験したビル清掃を取材してくれたのであって盗用ではないと火消しに回ったのだが。その因縁のある作者が今回の候補に挙がったことは興味深い。
本日決定!書評家・杉江松恋の第162回芥川賞候補全作レビュー&予想。一番「らしい」小説は「音に聞く」

高尾長良『音に聞く』


高尾にとっては3回目の候補作となる本作では、物語の舞台がオーストリアの首都ウィーンに設定されている。その地で音楽理論の大家として日本人ながらも地位を築いている喜多を訪ねて、娘の有智子と真名がやってくる。日本に残っていた母親が亡くなったためだ。といっても有智子は翻訳家として、真名は音楽家としてすでに注目される身になっている。再会した喜多は、父親らしい振る舞いを見せて亡き妻について語ることもせず、同じ音楽の道に進んだ真名を指導することにのみ興味を示す。音の世界に生きる父や妹と違い、言葉を用いることを生業としている有智子は、そのために疎外感を覚える。

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