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有村架純主演「中学聖日記 特別編」第5話レビュー【ネタバレ】
イラスト/まつもとりえこ

新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局はドラマの撮影や番組の収録が行えず、過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。

TBS日曜劇場で2018年10月〜12月にオンエアされた「中学聖日記」が再放送中だ。
エキレビ!で本放送時に掲載した、むらたえりか氏によるレビューを再掲する(日付などは当時のまま掲載)。

有村架純を応援できる要素がない。教師と中学生の恋にかましたビンタの誠実さ5話


晶「そして、聖ちゃんは消えた。この町から、僕の15の夏から、消えた」

花火大会の夜、教師の聖(有村架純)とその生徒である晶(岡田健史)が手を繋いでいるところを、聖の婚約者・勝太郎(町田啓太)と晶の母親・愛子(夏川結衣)に見られてしまう。聖は教師として、人としての責任を問われ、子星中学校を去ることに。勝太郎は聖を大阪に呼び寄せるつもりでいたが、聖は晶とも勝太郎とも離れて一人で生きていくことを決めた。


オーバーキルで当然の「こどもに恋してはいけない理由」


『中学聖日記』は、中学生男子と教師の恋愛ものだという点で嫌厭されたドラマだった。視聴率は5.4〜6.5%の間を推移していて、決して良いとは言えない。その理由を、中学生と教師という立場と年齢差への拒否感の表れではないかと予想するメディアもある。

しかし5話の内容は、ここまで「中学生と教師の恋愛」に対してバチバチにビンタをかましてくる作品もなかなかないと、びっくりするほど辛辣なものだった。
特にハッとしたのは、晶の母親・愛子がどんな思いで息子を育ててきたかを聖にまくしたてた場面。3080グラムの晶を出産したこと、黄だんが酷くて保育器に入ったこと、40度の高熱が出て不安で震えた夜、言葉が遅くて毎晩絵本を読んだ思い出。

愛子「そんな風に毎日一生懸命育ててきたのは、息子を一人前にするため。
立派に人生を歩んでもらうため。あなたに楽しんでもらうためじゃない。あの子は、あなたへのプレゼントじゃない」

愛子にとって、中学生の晶はまだ赤ちゃんから続く子育ての延長線上にいるこどもなのだ。続いて、教頭の塩谷(夏木マリ)が神奈川県青少年保護育成条例の条文を読み上げる。

塩谷「第31条 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。教師としても人としても、あなたは失格です」

なぜ成人である教師は未成年である生徒と恋愛をしてはいけないのか。
キスをしてはいけないのか。それは、生徒がまだ「こども」だからということに尽きる。

愛子は、晶の携帯電話を取り上げて解約してしまう。親という立場から、教育委員会に言いつけて聖を即クビにしてもらうこともできる。それに対抗する術を持たない晶は、まだ親に育てられ、守られ、愛されているこどもだ。

青少年保護育成条例は、何のためにあるか。
それは、「青少年を取り巻く社会環境の整備を促進し、及び青少年の健全な育成を阻害するおそれのある行為を防止することにより、青少年の健全な育成を図る」ため。晶は、親だけでなく他の大人や社会全体からも守られ、成長を見守られている。大人である教師が、勝手にそれを邪魔することは許されない。

『中学聖日記』が始まったとき、「性別が逆だったら大問題なのに、教師が女なら良いのか」という揶揄の声があった。それに対しても、晶に恋をしていた同級生のるな(小野莉奈)がきちんと疑問を呈している。

るな「男の先生だったらダメで、女の先生だったら良いなんてことないですよね」

もちろんダメで、聖は子星中学校を1学期間という短い期間で辞めることになった。

聖の母親が一瞬理解を示してくれたかと思った。でもそれは、中学生と結婚する未来を現実的に想像させ、諦めを促すものだった。

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もう、ドラマの中で聖と晶の恋を応援する人もいないし、応援できる要素が一個もない。何度も繰り返される「ダメな理由」と、それに伴ってどんどん表情が消えていく聖の姿に、オーバーキルだよ! と言いたくなる。でも本来、成人と未成年の恋愛ものを描くのであれば、前提としてこれくらいの現実は理解し、享受する側に提示しなければいけないはずだ。

成人が未成年と性交する創作物が批判されたとき、「成人側が地位を失ったり逮捕されたりして、報いを受けている」などと反論する人がいる。

でも、本人が痛手を負えば終わるというものではない。こどもの親、こどもを守ろうとした社会や大人たち、こどもの周りのこどもたち。多くの人が傷つくことや、それまでの人生を否応なしに変えられてしまうことに思いをめぐらせてほしいのだ。

創作物における成人と未成年の恋愛をロマンチックに肯定しがちな日本の中で、本作が現実を曖昧にしなかったという点はひとつ評価されてほしい。

オレンジ色の車、緑色の自転車


晶「聖ちゃん、決めたから、進路! そこで、大人になるから! だから、行かないで。待って!」

15歳という年齢は、すぐには変えられない。勝太郎の車に乗って大阪へ引っ越そうとする聖に向かって、晶が叫んだ「決めたから、進路」という言葉。聖と駆け落ちすることも、プロポーズすることもできない晶ができる唯一の約束が、進路を決めて大人になることだった。

聖と晶の年齢や立場の差を表すものとして、聖のオレンジ色の車と晶の緑色の自転車はずっと対になって登場していたアイテムだ。
4話で聖に「優しくしたい」と寄り添ったとき、晶はオレンジ色のTシャツを着ていた。今回、「黒岩くんに申し訳なくて」と晶の心情を思いやった聖は、緑色のニットを着ている。登場人物が誰かを思うときに、服装でもってその心の動きや距離を表現するスタイリストの仕事。美しい映像とともに、今後は衣装にもより注目してみたい。

「そして、僕は18になった」というナレーションのとおり、次回6話からは新章に突入。聖がいなくなって3年後、晶は18歳の高校生になる。「末永って誰だっけ」という、聖を忘れてしまったかのような予告の台詞が気になる。
(むらたえりか)



オンエア情報


TBS「中学聖日記 特別編」
5月25日(月)深夜 23:56〜0:55
5月26日(火)深夜 23:56〜0:55
5月27日(水)深夜 23:56〜0:55
5月29日(金)深夜 0:20〜1:20
6月1日(月)深夜 23:56〜0:55
6月2日(火)深夜 23:56〜0:55
6月3日(水)深夜 23:56〜0:55
6月5日(金)深夜 0:20〜1:20
6月8日(月)深夜 23:56〜0:55
6月9日(火)深夜 23:56〜0:55
6月10日(水)深夜 23:56〜0:55


【一覧】「中学聖日記」1〜11話レビュー