
怖おもしろさにハマりそう『先生を消す方程式。』
『先生を消す方程式。ドラマが好きな人が反応しそうなオマージュがいっぱい。「人生にはまさかがある」は『カルテット』、「土下座」は『半沢直樹』、「嫌いじゃないです」は『美食探偵明智五郎』の「悪くない」にすこし似ている……等々。古いところで『まいっちんぐマチコ先生』とか。
昨今のパワハラは教師から生徒ではなく、生徒が教師に行っていることもある。義経こと義澤経男(田中圭)が赴任してきた私立・帝千学園の3年D組には、F4(『花男』ね)ならぬ4Cと呼ばれる4人の強烈な生徒たちがいた。
学園一の優等生・藤原刀矢(高橋文哉)、人気インフルエンサー・長井弓(久保田紗友)、義経も食べている餃子チェーン店の社長の娘・大木薙(森田想)、父は大手ゼネコンの社長、叔父が政治家の剣力(高橋侃)と、高スペックを笠に着てやりたい放題。学園の頂点に君臨している4人のうち、刀矢以外の3人はさっそく義経にハラスメントをはじめる。とくに剣が顕著。
義経は「日々笑っていれば幸運はついてきます」と“日常×笑顔=幸運”という方程式に基づいて、常に「嫌いじゃないです」とニコニコ微笑み、なにがあってもへこたれない。それがよけいにF4を苛立たせ、剣は義経にイチャモンをつけて、土下座+床舐めを強要。
だが義経もやられっぱなしじゃいられない。その様子を撮影していて、“パワハラ=権力×精神的暴力×弱者”という方程式を掲げ、未成年のことも訴えることはできるのだと逆襲する。
未成年の犯罪に世間は寛容で、“未”という名の元に、判断能力が十分ではないから、やり直す機会を与えるという考えが第一にある。だがしかし、誰もが判断能力が乏しく情状酌量の余地があるわけではなく、なかには成長が早く大人以上に知能が優れているがゆえの悪質な犯罪もあるのだ。だからこそ、義経は「私は教育者としてあなたの人生に傷をつけることです」と剣たちに遠慮なく厳しく接する。
だが、義経の正統派な理屈でおとなしくなるような4人ではなく、刀矢もいい子に見えてじつは……。「俺たちならできるよ。義経を消す方程式、立てよ」と晴れやかな笑顔で言う刀矢はやばい。しかも、副担任の頼田朝日(山田裕貴)もいい人に見えて、実は……。
1話の段階で一気に正体が明かされてしまう。設定は全部乗せ状態なうえ、種明かしも大盤振る舞い。
謎に満ちた義経の低温の微笑

俳優たちの怪演も楽しみのひとつだが、田中圭が群を抜いている。彼は怪演とは真逆な、あえて淡々と表情を変えないでいる。山田や二人の高橋たちがパワープレーを繰り出すなか(これはこれで尊い)、穏やかに微笑み続ける田中。声もずっと落ち着いている。
一度だけ「自分を守るために人を傷つけてるんじゃねーぞ!」と喝をいれるときがあるが、そんなときも全然暑苦しくない。汗をかくことなく、生徒たちにきっちり想いを伝える。
こういうドラマのメインキャラというとどうしても、凄さも含めて面白いものとして消費されがちだが、田中圭はけっしてそうならない。義経おもしれーっとはならず、ちゃんとドラマの芯に何かありそうと思わせるのである。まあそれもミスリードかもしれないけれど。
義経がなぜ、こんなにも低温の微笑をたたえているのか。その理由は、恋人・前野静(松本まりか)が寝たきりであることに原因がありそう。1話の冒頭、この二人が幸せそうだったのだが、「まさか」のことが起きて、その幸福が失われたことがわかる。
ドラマが終わるとすぐにYouTubeで考察生配信番組(テレ朝の『動はじ』)がはじまるように準備されている。1話のあとは、4Cの名前が、刀、矢、弓、薙、剣と武器の名前で、義経に対して頼田朝日は頼朝であることで盛り上がっていた。こういう仕掛けは昭和の時代からアニメやライトノベルを中心にファンが盛り上がり、人気作だと謎本みたいなものが発売されたりしていたわけだが、公式で番組化するようになったと思うと、まったくいい時代になったものだ。
このように考察を楽しむ餌がたくさんまかれているなかで、いちばんの謎というか餌は、義経が床を舐めた場所だけ色が違っていたこと。舐めるために一部分、きれいにしてあったのだと思うのだが、そんなあからさまなことってあるのだろうか。仕掛けなのか、制作上の都合なのか。真実が明かされるときはあるのだろうか。
(木俣冬)
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番組情報
テレビ朝日系『先生を消す方程式。』毎週土曜よる11:00〜
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/houteishiki/